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もしもあなたと同じ夢を見てたら

一昨年の夏、恋をした。人生で初めて本気で人を好きになった、と言っても過言ではなかった。とにかく顔が好みで、ユーモアがあって、私のタイプだった。奇跡的に付き合うことができ、汚点だらけの人生でこんなことが起こっていいのか、と疑ってしまうほどに幸せだった。その疑いはあながち間違っていなかった。

好きな人がいた。
その人は神様を信じていた。
そして、私よりも神様を優先した。

昨年11月に書いたnoteより抜粋

彼はとある新興宗教の信者だった。しかも、かなり熱心な。それを打ち明けられたのは付き合って1ヶ月経った頃だった。私は「宗教について深く考えたことのない人生だったから、今はまだ何も知らない。無知の状態だから、否定も肯定もできない。」と伝えた。それがそのとき、真っ白になった頭の中で出せる最善の答えだった。

(打ち明けられてから)家に帰って冷静に考えると、ものすごく悲しくなってきてしまった。後から思えば、これが「宗教に対する本当の答え」だったのだと思う。

昨年11月に書いたnoteより抜粋

帰ってから、彼が信仰する宗教を検索窓に打ち込むと、やっぱり悪く書かれた記事しか出てこない。好きな人が匿名で悪口を言われている気分になって、すぐにブラウザを閉じた。それでも、どうにかしてその宗教の実態を知る必要があった。自ら文献を読んだりして、その宗教で行われていることを知った。無宗教の人間からしたら受け入れ難いものだった。

その事実を知った上で「彼だけは違う」という、なぜか確信的な感情が生まれていた。絵に描いたような"恋は盲目"だった。

彼はその宗教の幹部になりたいらしかった。その幹部がどれだけ偉くて、大変なのかは分からなかったけれど、それが彼の夢だったのだろう。

その夢を理由に、私は打ち明けられてから1ヶ月も経たないうちに彼に振られた。仰天である。振られたと言うよりも、連絡がフェードアウトしていって、最終的に強制終了させられたと言ったほうが正しいかもしれない。「幹部を目指す上で、彼女は必要なくなった」と言われた。「そりゃないよ〜」と思ったが、そんな軽くあしらう余裕はなかった。

好きだと言ってくれたのは全部嘘だったんじゃないか?もしかして、信者を増やす目的だった?友達や先輩に彼女だと紹介してくれたのに?
いろんな疑問が浮かんだけれど、事実を分かり得ないことが、なによりも辛かった。

「私より神様が大切だった」という揺らぎない事実だけが残されて、それから逃げることができなかった。やっぱり私は誰の一番にもなれないんだと、夜な夜な涙で枕を濡らした。

正直、その宗教の信者になることすらも考えていた。彼と同じ環境で、彼を理解することができれば、これからも難なく一緒に居られる。本気でそう思っていた。友人にどれだけ否定されて、心配されても受け入れたふりをするだけだった。

今思えば「彼にとっての神様」と「私にとっての彼」は似たような存在だったのかもしれない。あまりにも酷い皮肉である。周りに批判されても、結局揺るがない信念を持っている。そういう点では、私たちは似た者同士だったんだろう。

恋愛と宗教は通ずるものがある。人を好きになることは、その人を信じることなんじゃないか。少なくとも、信じたいと思うことではないのか。

信仰から抜け出すことはほぼ不可能である。誰かに引きずり下ろしてもらうか、その信仰の対象が何かとんでもないことをしない限り抜け出せない。ただ、とんでもないことをしても受け入れてしまえばそこまでである。

彼と別れてからは地獄だった。SHISHAMOの朝子ちゃんみたいなことを言うと、目の前を歩くカップルを殺したくなることもあった。毎日会っていた恋人に一方的に遮断され、二度と会えなくなること、それはあまりにも残酷だった。とんでもないことをされたおかげで、信仰は徐々に解けて行った。それでもやっぱり「なんで急に」「私に悪いところがあった?」「他の女に行ってしまったんじゃないか」と悪い考えばかり浮かんでは消え、その繰り返しだった。もう二度と会えない人の、分かりもしない気持ちを延々と考える日々がしばらく続いた。

3ヶ月後、別の恋人ができた。幸いにも、というべきかどうかはわからないが、恋愛で傷ついてばかりの人生だったので、不幸には慣れていた。少し彼の影が薄れた頃、新しい恋人と付き合った。

その恋人とは1年近く付き合った。でも、後半から彼の影がまた濃くなってきていた。見れた花火よりも、見れなかった花火を思い出すのとそれは似ていた。

彼と比較してしまっている自分がいて、そのうち恋人のことを好きだと思えなくなっていた。去年の冬に差しかかる頃、恋人に別れを告げた。

そして、もう二度と会えないと思っていた彼と再開するのはそのすぐ後だった。

(多分つづく)

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