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本の面白さとは

『武田泰淳全集 第6巻』を読んでいる。
きっかけはKADOKAWAのサイトで『貴族の階段』は奥泉光作の『雪の階』の下敷きとなった小説と紹介されていたからだ。
『雪の階』は数年前に、めちゃくちゃ夢中になって読んだ本だった。正直なところ、終わり方は若干私好みではなかったが、あのぶ厚い本を夢中になったというのを数年経っても覚えているというのはそんなにないことである。
それの下敷きになるとはきっと面白いに違いない。武田泰淳という作家の前情報がまったくないまま、図書館で検索すると全集のみがヒット。そんなわけで全集の第6巻を借りて帰ってきたのだった。

本の雰囲気からなかなか古い本ということが察せられたが、全集の発行日が1971年。
更に武田泰淳氏が明治生まれのこと、『貴族の階段』は映画化されていることもようやく知った。
お恥ずかしながら知らなかった作家だけれども、有名な作家だったようだ。全集が出ている時点で功績のある作家であることは推測できるけれども。

全集の第6巻には16の話が載っている。読みたいのは『貴族の階段』ではあるものの、最初から読むのが礼儀のような気がして、律儀に1つ目の話から読んでいる。
正直なところ……あまり面白いと感じられない。短編だからかもしれないが、登場人物にまったく感情移入できない。いや、もしかしたら書き方的に、作者は感情移入させようとしていないのかもしれない。
とにかく登場人物たちが何をした、これをした、ということを淡々と綴られている。その中に情緒とかはない。
おそらく彼らの生き様から何を得るのかというのが読書ポイントのような気がするけれども、今と価値観があまりに違う時代であるが故に、作者の意図が分かりづらいところがある。

ではさっさと『貴族の階段』を読めばいいのではというところである。
ところが非常に不思議なことに、一つの物語を読み始めてみるとなんとなく全部読んでしまうのだ。話が短いというのもあるが、淡々としているのでするする読めてしまう。
そして丁度読んだのが開国以降に活躍した商人の話なので、あの時代にたくまくのし上がっていく人々の話は興味深く感じてしまう。
決して熱く描かれているわけではないけれども、「こういう時代だったのか」と時代性が感じられるのが魅力なのかもしれない。おそらくそれは物語の魅力というよりも、作者がその時代を体験していたから書ける、説得力のある時代の空気が魅了的なのだろう。
登場人物や彼らがどうした、こうしたといった話の流れにはさほど魅力を感じないけれども、物語をとりまく時代、習慣、文化といったアイテムが興味深いといった感じ。

どうしても小説を読む時には、登場人物の魅力や物語の面白さを求めがちだが、その時代に書かれたから面白いということもあるのだなということを知った。
といってもまだ3作しか読んでいないので、自分が思う面白い小説がこの先に待ち受けているのかもしれないが。

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