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読書紹介 ミステリー 編Part18 『人形はこたつで推理する』

 どうも、こぞるです。
 本日オススメする本は我孫子武丸先生の『人形はこたつで推理する』です。
 不勉強な私は、我孫子武丸先生といえば、サウンドノベルゲームの『かまいたちの夜』とか、『殺戮にいたる病』の印象たったので、こんなに可愛らしい表紙のつく作品を書かれているとは知りませんでした。

ー作品内容ー
 異色の人形探偵が難事件を次々解決。
 人形探偵が大活躍する青春ユーモアミステリー。
 風変わりな腹話術師が操る人形の名は鞠小路鞠夫(まりこうじまりお)──彼って実は名探偵なのです!
(講談社BOOK倶楽部より引用)

腹話術と名探偵の組み合わせだと、昔「人形草紙あやつり左近」って漫画が好きだったんですが、ご存知ですか?

早いよ異色の名探偵

 今作はタイトルからも分かるように、名探偵が人形です。本物の人形。
 物語は、語り手である妹尾睦月が働く幼稚園にゲストとして腹話術士の朝永嘉夫がやってくるところから始まる。この睦月と嘉夫、それから嘉夫の相棒である人形の鞠小路鞠夫が事件に出会い解決していくという、4作の短編からなるミステリーです。
 そもそも名探偵が人形って、結局は操っている嘉夫が名探偵ってことなんじゃないの?と思うかもしれませんが、それは違います。嘉夫自身は、腹話術しとしては、20代で達人の域にまで達している天才ではありますが、普段は非常に鈍臭く、おっちょこちょいな青年です。推理中もとんちんかんなことを言って、よく突っ込まれています。むしろ、睦月の方がずっとずっと鋭く核心をついています。
 では、鞠夫ってなんなの?っていう話なのですが、それが今作の1つ目のギミックとなっています。

 この本の出版は1990年と、今からなんと30年も前となっています。この1990年というのは新本格とよばれる日本における新たなミステリーブームが始まった!と言われる最初期になりました。part1の有栖川有栖シリーズや前パートの法月綸太郎シリーズなんかとほぼ同期にあたります。
 ということを考えると、名探偵役に人形を据えた今作がいかに異色かと言うのが分かるのではないでしょうか。もちろん、三毛猫ホームズのように、異色の探偵というのはそれ以前にもいましたが、今作に至っては、生物ですらないという……。しかし、その推理はもちろん、新本格の波に乗ったものとなっています。

名探偵の苦悩

 ここでようやく鞠夫の正体について。
 彼は、人形を媒介に登場する朝永嘉夫のもう一つの人格です。『三つ目がとおる』の写楽保介や『遊戯王』の武藤遊戯のように、一つの体に二つの人格というのが、一般に言われる多重人格ですが、朝永嘉夫は腹話術を極めすぎた結果か、元からの素養か、現れたもう一つの性格を木の人形に移します。
 嘉夫と鞠夫は声も性格も全くの別人で、間近でみていても同時に話しているようにしか見えないようなタイミングでやりとりをしています。お互いがお互いを制御することもできません。

 自分の近くで次々と事件が起きることを呪いではないかと苦しんだり、次から次へと訪ねてくる事件解決依頼に悩まされたりなど、その卓越した能力による苦しみがあります。
 この鞠夫シリーズとも呼ばれるシリーズの第1作であるこの本の中で、嘉夫や睦月を悩ませるのは、名探偵としての力量ではなく。上述の精神分裂です。
 嘉夫も睦月も、お調子者でありながら愉快で優しい鞠夫のことが好きです。しかし、これは結局のところ、嘉夫のもう一つの人格に過ぎないのではないか。嘉夫はもしかするとただの異常者なのかもしれない。この名探偵は存在しない方が、幸せになれるのかもしれない……。
 普通に考えればあまりにもフィクションすぎる設定ですが、それに対する嘉夫と睦月の受け入れと悩みにより、フィクションの中のリアリティが生まれています。

誰も知らない深津絵里

 よく、少し前の作品に、古さを感じない作品なんていう褒め言葉が使われます。私も以前の記事で書いたことがあります。
 しかし、今作は違います。古さを感じます。でも、それは、古さを感じる良い作品という意味なんです。
 見えてくる情景は、20世期の少女漫画のようだし、当たり前のように「オジン」という言葉が使われているし、作者のあとがきには「それにしても深津絵里は可愛い」(普通知らないって)と書かれています。……時代だ。

 しかし、その古さを包括した上で、面白いトリックと推理で我々読者の舌を巻かせるミステリーとしての技量と、物語の面白さがここには描かれています。
 あと、謎の感じが個人的にすごく好きです。論理的なのはもちろんなのですが、ちょちょいと罠を掛けるポイントが他の作品と違って、独特な箇所にユーモアとトリックが埋め込まれっている印象を受けました。なのに、突拍子もないことをしている感じはしない……なぜなんだろうか。

さいごに

 登場人物のやりとりは非常に可愛いのに、ふと描かれる語り手の睦月の心情に、可愛いだけじゃないぞ!というものを感じます。そういった部分にハマってからハードな我孫子武丸先生作品に手を伸ばしてみるのもいいかもしれません。

 異色だけど、本格。古いけれど、それがいい。
 そんな作品を読んでみたい方がいましたら、ぜひお手に取ってみてください。
 そして、読んだら感想を教えてください。


それでは。

その他読書紹介文はこちらから→索引






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