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読書紹介 ミステリー 編Part4 『連続殺人鬼カエル男』

 どうも、こぞるです。
 今回の作品は中山七里先生の『連続殺人鬼カエル男』。キャッチーなタイトルですよね。これは2009年に『このミステリーがすごい!』大賞(通称『このミス』)という、一般公募できるミステリー小説の新人賞の中でも一番といってもいいほどのコンテストで、最終候補にまで残った作品です。ちなみに、その年の大賞には中山七里先生の『さよならドビュッシー』が選ばれています。・・・中山七里先生?あ、あれ?

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 -作品内容-
 口にフックをかけられ、マンションの13階からぶら下げられた女性の全裸死体。傍らには子供が書いたような稚拙な犯行声明文。街を恐怖と混乱の渦に陥れる殺人鬼「カエル男」による最初の犯行だった。警察の捜査が進展しないなか、第二、第三と殺人事件が発生し、街中はパニックに…。無秩序に猟奇的な殺人を続けるカエル男の目的とは?正体とは?警察は犯人をとめることができるのか。

 このあらすじを見ただけでわかりますが、殺害方法はどれもけっこう猟奇的であり、パニック映画のような世界の慌てっぷりが描かれています。途中の人々が暴れまわるシーンでは、デビュー作とは思えないほどの臨場感で、読みながら、頭の中に浮かんでくる登場人物の苦しみ具合に、自分まで息苦しくなってきます。

 では、なぜパニックが起こってしまったかというと、もちろん殺人事件が起こったからなのですが、殺人事件が怖いからというよりも、そこに付随する人間心理の連鎖から、それは起こり始めます。
 たとえば、今回新型コロナウイルスによって、人々が外出を自粛して、ストレスがたまり、そのイライラをいろいろなところにぶつけている様子というのは、多くの方も目にしたのではないかと思います。この本の中でも、それと同じようなことが起き、中にはいわれのない誹謗中傷によって傷つく人も出てきます。 
 何か事件が起こるたびに言われることですが、人というのはいつになっても、大きく変わらないものなのだなあと感じずにいられません。

 そういった人間心理的な面が出てくることからもわかりますが、この作品では一つの事件がこれまでに紹介した他の作品と違い、1日や2日の話ではありません。これは、主人公が警察組織の人間であるというのも関わっているかもしれません。
 よくある、主人公が警察官ではない探偵ものでは、大体の場合事件というのはその起こった日や、その翌日翌々日には解決されることが多いです。これは、21世紀を舞台にした日には、素人がそんなに何日も殺人現場にいられるわけないじゃんなんていう、リアリティ的な面もあるのかもしれません。名探偵がいる時点で、リアリティというのも変な話ですが、実際江戸川コナンくんが1つの事件に数ヶ月もかかっていては、工藤新一は単位がいくつあってもたりません。退学です。

 警察もののミステリーでの面白さは、謎解きや論理トリックというよりも、むしろヒューマンドラマ的な面にあるのかもしれません。この物語の主人公古手川刑事は、若手のノンキャリという立場でありながら常に活躍の場を望んでいる、クールな名探偵とは程遠い人物で、むしろ上司である渡瀬警部の方が頭脳明晰博識なキャラクターなのですが、かといって、この人が積極的に事件の解決の中心にいるわけではありません。この事件の解決に向けての古手川刑事の人間的成長・変化が大きなポイントとして描かれています。
 しかし、さすがこの作品は、このミス最終候補です。だからといって、事件や謎解きがつまらないというわけではありません。物語の途中で殺される、被害者の共通項をヒントに、犯人が絞られていく様や、何回味わわされるんだというぐらいの衝撃の数々、そして、なんといっても、広げた風呂敷を余すところなく折り目正しく畳みきる読後感。300ページ強の中に、不必要な情報は一つもなかったのではないかというストーリー展開は圧巻ですね。こんなのをデビュー作(出版は他作品の方が先)で書いてしまう人が世の中にはいるんですから、とんでもない話です。

それと、今作、実は『連続殺人鬼カエル男ふたたび』という、続編だということが一目でわかる続編が出ているのですが、まだ手を出せていないんですよね。一作目の結末を考えるとすぐに手を出したい気持ちと少し置いておきたい気持ちが心の中で葛藤しています。


 前回partで次は長編を!と書いたので、今回は初の長編をあげてみました。次回は何を読もうか今から楽しみです。
 では、この辺で。


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