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ヴィーガンを叩く、ヴィーガン以下の低劣な人々

 貴方はヴィーガンというものをご存知でしょうか。ヴィーガンとは、動物への非暴力を掲げ、動物性食品を拒む菜食主義者の一種です。ネットでは一部の過激派ヴィーガンの活動が目立って取り上げられることもあり、「脳内お花畑の意識高い系の趣味」「他人の趣味嗜好にケチをつけ暴力行為を働く悪の集団」として扱われることが多くなっています。

 先日は「食肉牛さんグッズ作りました🐮」とグッズ制作を報告したヴィーガンに対し、わざわざ「米を作る為にオタマジャクシぶっ殺しました」と動画をリプライする米農家が現れ、それを“ヴィーガンに対して無慈悲な火の玉ストレートを与えてしまう米農家に申し訳ないけど笑ってしまった”とするツイートが2万以上リツイートされ、まとめサイト等にも取り上げられ一時ヴィーガンがトレンドワードとなりました。

 まず初めに申し上げておきますが、私はヴィーガンではありません。アニマルウェルフェアから程遠いやっすい肉を食べ、牛乳を愛飲しながら罪悪感を覚えることもなく能天気に生きています。しかし、ヴィーガンにも一定の論理的整合性や倫理的側面が確かにあると思っていますし、昨今の過熱するヴィーガン叩きはヴィーガン以上に滅茶苦茶だと冷ややかな視線で見ています。この記事を読んでいる貴方ももしかしたら「ヴィーガンを叩いて何が悪い」と思っているかも知れません。そこで今回は世間で散々言われてきた「ヴィーガンの欺瞞」ではなく、「ヴィーガン叩きの欺瞞」を解説します。


 ヴィーガンの理論的支柱は世間で思われているより明確であり、ただの動物に対する同情による感情論などではありません。私も以前は勘違いしていましたが、下の“よくある反論に対する再反論集”を読んで見方が変わりました。

 これは動物の権利を理由として菜食主義を掲げる団体の見解であり、他にも動物福祉の観点、資源の効率的な配分の観点からの菜食主義があるためあくまで一見解であることは留意して下さい。しかし、これを参考にすることでよくある薄っぺらなヴィーガン叩きを否定し、より深い議論をすることが可能となります。

1.ヴィーガンは他人の食い物に注文を付けるから悪

 →信念に基づいて社会運動を行うという点で他の社会運動と変わらない。他人に対し善行を説く行為が悪ならあらゆる社会運動・啓発・宗教は悪となる。

2.ヴィーガンも菜食する中で、もしくは生活の中で動物を殺している

 →100%完遂することが難しいからといってそれが悪だということにはならない。世界中の弱者を完全に救うことが不可能だとしても、社会福祉活動が悪とはならないのと同じ。善行はできるところからすべきである。

3.植物も生命なのだから、菜食主義も罪からは逃れられない

→家畜を育てる為には、より多くの植物を飼料として与える必要がある。牛肉1kgを生産するまでに穀物13kgを費やしており、世界中の穀物の40%は飼料用なので、その分人間が直接食べられる物を生産した方が犠牲となる植物も減る。完全に罪からは逃れられないが、菜食主義の方が相対的に善である。

4.肉は美味い

 →美味いかどうかは善悪と関係しない。いじめは人によっては楽しいが悪。

5.肉を食べなきゃ栄養が偏って死ぬ

 →現代ではサプリメントによって栄養を補うことも可能。知識無く菜食主義を実践すれば健康を害するが、健康的な食事に知識が必要なのは肉食の場合でも変わりない。

6.畜産農家は頑張って家畜を育てている。その人たちを路頭に迷わせるのか

 →「生業にしている人がいる」というのはその行いの正しさを担保しない。かつては奴隷を扱って生活する者もいた。また現代でも生活の為に乱獲をしたり環境破壊をする産業は問題視されている。

7.人間が他の動物を食べるのは自然なこと

 →自然主義的誤謬。かつては「強い者が弱い者を従えるのは自然」などとして様々な搾取や暴力・差別を引き起こした理屈。動物を食べるのが自然だったからといって、それがこれからも善であるという根拠にはならない。

8.動物を食べることによって生態系のバランスを整えている

 →現在食べられている動物のほとんどは家畜として独自の品種改良が施され、生態系から外れた生育環境で育っている。仮に家畜が絶滅したとしても元の生態系に戻るだけである。


 ざっと主だったヴィーガン叩きへの反論を並べるならこんなところでしょうか。(より正確で細かい部分に関してはリンク先を読んで下さい。)

 私が上記から言いたいのは、「だからヴィーガンが正しい」ということではありません。「この程度の理論武装を打破できるくらいに、批判派は物を考えてるのか?」ということを言いたいのです。Twitterでヴィーガン叩きを眺めてみると、上記のように既に反論された周回遅れの低知能な感情論がありふれていませんか? 叩きやすい対象として侮り、蔑み、多数派であることを傘にきたただのリンチが行われていませんか?

 実際に過激派ヴィーガンからテロ行為の被害に遭った畜産業者であれば感情的に批判するのも当然でしょう。ですが、自作グッズを作っただけのヴィーガンに対しわざわざ嫌味を言いに行った米農家や、それを「火の玉ストレート」とはしゃいで賞賛していた人たちにはそこまでの被害感情も何も無く、ただ「目障りで叩きやすい意識高い系を嘲笑して楽しむ」という汚い感情があるだけです。


 ヴィーガンの思想は何も突飛なものではありません。物凄く雑なたとえをします。

「人間を快楽目的で殺すのは悪だよね。でも、殺して美味しく食べて『ごちそうさま』と言えば許されるよね」と言ってる人がいたら、ヤバいサイコパスだと思いませんか?

 これを「猫」とか「犬」とか「豚」に置き換えると、ヴィーガンの論理が分かると思います。貴方が動物を快楽目的にぶっ殺す人間であれば(動物愛護法違反)、もはや価値観の共有は不可能ですが。



追記:ここまでヴィーガンを擁護しながら、最初に私はヴィーガンではないと書きました。その理由としては「たとえ悪だとしても肉食をやめるほどの信念は無い」という軟弱さもあるのですが、論理的整合性に感心した上記のまとめでも、ヴィーガンが絶対的善だと考えられなかったというのもあります。

 それは、「肉食文化が滅びた末には畜産業が無くなり、家畜は品種として絶滅する。元々人間の欲望の為に生み出された不自然で不幸な種だから絶滅した方が良い」という部分。「不幸な生なら初めから無い方が良い」というのは反出生主義にも通じる考え方であり、むしろ人間が動物の生きる価値を決めるという点で悪徳であるとすら言えるでしょう。

 よって、私はヴィーガニズムよりアニマルウェルフェア(動物福祉)の方がより現実的であり、相対的善だと考えています。アニマルウェルフェアとは、狭く劣悪でストレスフルな環境で家畜を大量生産するのではなく、より快適な環境で飼育しようという取り組みです。この考え方は既に先進国では共通課題として認識されており、またアニマルウェルフェアを重視した畜産物の方が栄養価が高く品質が良い為オリンピックの選手村で提供される食材としても要求されています。「家畜を飼うな」「肉を食べるな」ではなく「家畜をいじめるな」「より良い肉を食べよう」と働きかけましょう。そしたら皆ハッピー。

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/57491?imp=0

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