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声楽タイムズ第16回「Jerome Hines:Great singers on great singing」

この note では「声楽タイムズ」と題しまして、声楽コラムや声楽曲の紹介、発声文献や本の紹介など、日本声楽家協会研究所会員の執筆した様々な角度からの声楽にまつわる記事を掲載します。
今回は日本声楽家協会研究所会員のテノール歌手、渡辺正親さんに英語の声楽文献の紹介を書いていただきました。
この記事では、Jerome Hinesの著書「Great singers on great singing(偉大な歌唱をした偉大な歌手たち)」の中から取り上げております。

渡辺宣材写真

渡辺正親 テノール
都留文科大学、東京藝術大学卒業。ニューヨークIVAI修了。日本声楽家協会研究所会員。新国立劇場合唱団契約メンバー。洗足音楽大学準演奏要員。ベルカントアトリエ講師。

「偉大な歌唱をした偉大な歌手たち」


皆さんこんにちは!声楽家テノール歌手の渡辺正親です。前回、前々回と記事を書かせて頂きました。呼吸法、サプリメントと続きましたが今回は大歌手にインタビューを多く載せている文献、“Great singers on great singing”~偉大な歌唱をした偉大な歌手たち~(Jerome Hines)から名テノールのルチアーノ・パヴァロッティの項を紹介していきたいと思います。この本も日本語訳版は出版されていませんが、40名近くの歌手のインタビューが会話形式で書かれています。ハインズ自身が歌手にインタビューしており、質問内容も発声技術に絞っており非常に分かりやすい内容となっています。大歌手の発声への意見が口語で書かれていることは非常に貴重だと思います。ただしハインズはこの本を学生などが“1人で”読むことを推奨していません。ここもまた興味深いところです。では早速紹介していきます!


●ルチアーノ・パヴァロッティ

前半では彼の経歴やインタビューした場所や状況、パヴァロッティとの共演の思い出などが書かれています。(パヴァロッティのMETデビューは1968年の「ラ・ボエーム」のロドルフォでした。)ハインズがコッリーネ役として彼と共演した際、パヴァロッティは体調があまり優れなかったようですが、一度公演をキャンセルしていたので今後の為に絶対に歌わなければならないと言っていたそうです。これはどのオペラ歌手にも言えることなのですが、やはり職業歌手ですから演奏にも責任が伴うということであります。不調でも歌わなければならない宿命にあるのです。厳しいけれどそれがこの業界の現実でもあります。 
さて、パヴァロッティは不調ながら無事にボエームの1幕を歌い終えたそうですが、それでもまだ緊張していたそうですが無事に公演は終了しました。パヴァロッティは非常に謙虚な性格だったとハインズは振り返っています。 時は流れて1979年冬、パヴァロッティがジュリアード音楽院のマスタークラスへ招集された際にハインズは彼へインタビューをします。インタビュー全てを紹介すると長くなってしまうので、ここから彼の発声についての意見をわかりやすく紹介していきます。

・パヴァロッティの発声

彼は8歳の頃から教会で歌っており、19歳の時にアリゴ・ポーラ氏に声楽を2年半学びました。彼のもとで純粋な発声練習をし、顎を開けることを学んだそうです。歌手としての生活の中でパヴァロッティは顎を大きく開けることはしなくなったそうですが、ポーラからパッサージョについて良く教わったと振り返っています。 ポーラに学んだ後は、カンポガリアーニ氏のもとで4年研鑽を積みました。数々のスケールの発声練習と古典的なアリアをよく歌ったそうです。(この時学んだ発声練習をパヴァロッティはプロとなっても毎日のルーティン化していました。 本の中では譜面付きで発声練習が紹介されています。)

・パッサージョについて 

声のチェンジ(パッサージョ)はF、G周辺にあり、訓練することで声のチェンジが認識できないようになっていきます。「この付近では声をカヴァーした方が良い、もしカヴァーしなければ白い声(ひらべったい薄い声)になり疲労し、最後まで歌い切ることができないだろう。」とパヴァロッティは述べています。

・声のカヴァーについて

パヴァロッティは習得に6年かかったと述べています。声をカヴァーするとき筋肉は欠伸をし“始める“時のようにリラックスしていなければならず、その上で声を絞る(あるいは狭くする)ことが必要だと言っています。この時わずかに声をマスケラに置きますが、決して広げることはしないと述べています。

・高音での喉の空間の状態 

パッサージョでは空間を狭くし、パッサージョの後では空間をパッサージョの前の音域と同じような空間にすると述べています。

・その他高音での意見 

ポジションは低い音から高い音まで同じ、高音を歌う時、私は低い音を歌っているように感じていると述べています。

・開いた喉について 

イタリアのア母音(awe)、欠伸のポジションで達成し、声は喉から作られる。鼻ではないと述べています。

・呼吸法 

忍耐強く次のフレーズまで横隔膜を下に下げていくことが大切でお腹は風船のようであること、風船の大きさはフレーズによって異なると述べています。ただしファルセットの時に自分は横隔膜は働かないんだとも述べています。

・アッポッジョ(支え) 

壁など何かにもたれかかるような感覚、歌うときは声を下に押し下げるような感覚と述べています。

・強弱について

フォルテからピアノまで同じ感覚であり、少ないブレスと声を押さないことが大切だと述べています。例外としてフレーズの終わりがパッサージョの時は少し窒息するような感覚を使うとも述べています。

・最後に 

謙虚であることが大切だとパヴァロッティは言っています。これは何事においてもそうですね。驕り高ぶらず謙虚な姿勢を忘れないでいたいと私も思いました。

いかがだったでしょうか?読者の皆様の参考になれば幸いです。これからも記事を書かせて頂きますのでお楽しみに。それでは!