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【表現評論】メモリーズオフ それから コアレビューその25 まとめ(完結)【全作再プレイシリーズ】

●メモオフシリーズ、その他作品、様々なネタバレが含まれます。

⚫︎前回の記事

⚫︎タイトル画面が変化

全員クリアで画面がサムネの画像に変化。伝統の業です。元々はこれ。

サムネをパケ絵にした方が華やかじゃないだろうか。メモリーズオフのパケ絵ってなかなか地味ですよね。基本的にメインヒロインだけがドーンと映ってるのが多い。1stは彩花、2ndはほたる、想君はカナタ、それからはいのり、♯5は麻尋と主人公、ゆびきりはちなつと霞、という感じです。全員集合みたいな絵になったのはT-waveとIFと星天だけなのでは。華やかさがウリではないので、メインヒロイン一点張りの方が作品らしさは出ているのかもしれない。個人的に好きなのはXbox360版のゆびきりのパッケージです。

⚫︎その25で完結

長いってレベルじゃない。今まで15を超えたシリーズはなかったわけですが、15どころか25です。記事がやや小出しになっていたとはいえ、文字数的には圧倒的にそれからが長くなりました。ここまでの文字数は67000字弱で、この記事を含めると85000字くらいになっています。もはや一冊の本。他のシリーズは最長でも50000字程度だったので、今後を考えても最長の作品になりそう。

⚫︎2024年から見たそれからの感想

そこまで古さを感じない作品でしたね。下手にインターネットとか出さないし、掲示板荒らしとかもないし、最低限のやり取りで古き携帯が出てくるくらいだったので、もちろん古いは古いんだけど、想い出にかわる君よりは古臭さは感じなかったです。

で、肝心の内容ですが、これが2024年に発売されたとしても、十分に評価される作品です。スマホ周りだけ改良すれば、十分現代のクオリティといった感じで、メモリーズオフの完成系が早くも提示されたと言えるほどの質を感じました。CGの質も、立ち絵の質も、シナリオの質も、BGMの質も、どれをとっても隙がなく、レベルが高いです。そして全てがまとまっているのに、意表をついてくる要素もあり、常にユーザーを飽きさせません。極め付けには、いのりがメモリーズオフのヒロインオブヒロインと言ってもいいほど、メモリーズオフにふさわしいキャラクターでした。ここまでの4作品では、間違いなくシリーズの王様です。自分の中ではゆびきりとそれからが二強だったんですが、すでにそれからは全作品の中で至高の作品になってます。今後変わるのだろうか。

キャラ別に見ていくと、最高を超える最高のシナリオがいのり。最高のシナリオが雅。素晴らしいシナリオがりかりん、葉夜、縁ということで、全員が4番バッターレベルの作品でした。最初から4番がずらりと並んでるのに、それを超える最強バッターのいのりが最後にやってくるという恐ろしさ。さよりんはおまけなので評価には含めませんが、かわいいよね。さよりんはそれだけでいい。

攻略キャラは5キャラ(さよりん含めて6キャラ)なわけですが、本当にボリュームが凄まじい作品でした。今までならこの辺で終わりかな、っていうところからさらにふた伸びくらいして、ようやくシナリオが完結します。キャラ数は減ってるけど、かかった時間もかかった文字数も、想君とは比べ物にならない量になりました。しかも電波会話で水増ししてるわけでもないですからね。きちんとシナリオを組み立てて、過去作よりも厚みを増やした結果、長くなっているという、文句のつけようがないボリュームです。満足感がすごい。

BGMは本当に神です。過去イチ。いや、シリーズNo. 1。間違いない。いのりのテーマ、umbrella、雅のテーマなど、挙げればキリがないほど、名曲のオンパレードで、メモリーズオフ特有の儚さ、切なさをこれでもかというほど感じさせるBGMが並んでいます。本当にすごい。過去曲のアレンジも神アレンジだらけで、いうことがないです。これだけの仕事ができたら、もう1年くらいは何もしなくていいレベル。阿保剛最強です。

主人公もね、養護施設育ちで、養親に育てられたという悲しき過去の持ち主ですが、ひねた所も少なく、電波もなく、おかしな行動もなく、好感が持てる人物でした。オレ、一蹴君のこと好きだわ(三回目)。あたおかの智也も好きだけど。

そしてメモオフのコアレビューの肝心な点は、昔と比べて作品の評価がどう変わったのか、ということです。再プレイシリーズですからね。それからの評価は最高から至高に変化しました。評価は再プレイ前より上がりまくっています。いい作品だとは思ってたけど、ここまでだったかと。想像を遥かに超えてきたやがったと。綺麗な想い出よりも綺麗だったと。そんな感じです。

再プレイ前に出した、元々の番付はこれです。

神 ゆびきり それから 星天
良 ♯5 1st
普 想君
理解不能 T-wave 2nd
メモオフではない何か IF

今のところの番付はこれ。

殿堂入り 1st
至高神 それから
神 ゆびきり 星天
良 ♯5 2nd
微 想君
理解不能 T-wave 
メモオフではない傑作 IF

元々はそれからとゆびきりの二強、ちょっとゆびきりが抜けてるかな、そこに続くのが星天という感じだったんですが、ここまで再プレイして、それからが完全に一歩抜け出しました。1stは殿堂入りなので永遠に位置は不動です。ファーストペンギンはそういうもの。

順位変動の理由を挙げます。元々いのりルートが神だったことは十分に覚えてたんですが、記憶よりも他のルートの出来が素晴らしかったんですよね。雅は最高だし、りかりんは記憶通りによかったし。葉夜と縁に至っては、おまけじゃね、と記憶していたんですが、全然おまけじゃなかったです。愛憎半ばの苦しみを描いたストーリーと、妹という特殊な立場から生まれる苦しみを描いたストーリーで、いずれも素晴らしい物語でした。メインルートが神であることに加え、全ルートが素晴らしかったので、完全に一強体制 になっています。至高の領域。

あとこの作品、浜咲が舞台だし、最初から恋人がいる(いた)し、恋人はピアノ弾いてるし、2ndのキャラが出てくるし、全校生徒の前で告白するしで、2ndのオマージュだと思われがちですが、思想的には1stの後継作品です。むしろ2ndとは真逆。開発が意図したものかは分かりませんが、開発にどのような意図があろうとも、作品の評価は受け手がどう思うかで決まります。少なくとも自分の中では、それからは1stの魂、唯笑ルートのヒロインの自己犠牲という思想を受け継ぐ、真の原点回帰作品でした。1stと一緒に殿堂入りでもいいかもしれない。

全体の感想はこのくらいにして、個別の感想に移ります。

⚫︎いのり&いのりトゥルールート 究極のヒロイン

おっとりぽやぽやの真ヒロイン。とてつもない長い髪と、見えそうで見えなさそうで見えるカチューシャが特徴的な、ピアノ少女です。料理も上手。性格も優しい。理想の彼女かな、と見せかけてとんでもないい遅刻魔でもあります。初回のデートで2時間遅れてくる女です。朝弱くて待ち合わせには大体遅れる。そこも魅力か。一個くらい欠点あってもいいやん。人間だもの。ちなみに遅れない時は、大体よくないことが起きます。

これまでのメインヒロイン、唯笑とかほたるとか音緒は、それなりにモテるとか、ちやほやされている描写がありましたが、いのりはあったかな。過去の人たちと比べると地味子なのかもしれない。声も3人と違って落ち着いた感じですし。そこがいい。

そんな理想の彼女とラブラブ状態の中で、いきなり振られる所から物語は始まります。2ndとは真逆です。最初から好きじゃなかったのという、どう考えても嘘の理由で振られるミステリー要素を匂わせながらスタート。その謎を解き明かすのがいのりルートの核心になります。

このルートは本当に素晴らしいシナリオです。メモリーズオフとしてこれ以上の作品はないと思います。メモリーズオフとしてでなければ、存在し得ると思いますが、メモリーズオフの範疇の中でこれを超える作品は、生まれないと確信します。infinityシリーズの終着点にシュタインズゲートがあったのと同じで、メモリーズオフという魂の終着点は、いのりルートと言っても過言ではない。そこにもうひとつ並ぶのが、ゆびきりのメインルートですが、それはまた後の機会に譲ります。

それからは、いのりと別れてからの現実と、楽しかった過去の記憶が対比となって、主人公を苦しめるところで、非常に感情を揺さぶられます。とにかく気持ちが揺さぶられるんですよね。回想に次ぐ回想で、とにかく楽しかったあの頃と、それが失われた現実が交互にやってきます。どんだけ回想こするんだよと思わなくもないですが、これが本当に幸せそうな記憶で、いのりのBGMと合わさって、しんみりするんですよね。万事において。どんな形であれ、名作や傑作と呼ばれるものは、何かしらの感情を揺さぶる作品ですが、それからは、これでもかというほど揺さぶる仕掛けを用意しています。やはり名作と言わざるを得ない。

メモリーズオフといえば切ないBGM、死に関連したトラウマ、そしてヒロインの自己犠牲の3点セットが相場と決まっているわけですが、いのりルートはその全てを完璧なレベルで満たしていました。

BGMのinori-sweet note-は明るい曲調で始まり、途中でどこか物悲しく切ないトーンに変わるという、主人公といのりの思い出と現実を表す曲です。あまりにも沁みる。

死に関連したトラウマは、過去の受けた事故が絡んでくるものです。一蹴君は、自分が小さい時に病院から連れ出したリナという少女が、間接的にとはいえ、一蹴君のせいで死んだことを忘れて生きています。死んだ理由は、主人公がリナを病院から連れ出した時に事故ったショックで、リナの術後の経過がよくなかったことが原因とされています。そもそも連れ出したのも、手術が怖いから、という理由です。しかし現在の一蹴君は諸々全部を忘れていました。忘れているから幸せに生きられたわけですが、そのことが許せないトビー(飛田扉。一蹴と同じ養護施設育ちで、リナの知り合い)は、主人公にその事実を暴露しようとした、というのが、開幕直後の振られるエピソードの前に、裏で進んでいた話です。

ヒロインであるいのりは、リナと同じ病室にいた少女で、リナを元気付ける一蹴に救われて、無事病気から恢復したという過去を持っています。この時
いのりは、リナになりすまして、自分はきちんと手術を受けて治ったよ、と嘘をつきます。この嘘のおかげで、実際はリナは亡くなっているのに、一蹴君は全てを忘れて、というか、勘違いして生きていたわけです。あの子はちゃんと治ったんだと。一蹴君はいのりがこの時なりすました少女だと気付いてませんでした。

一方のいのりは、この10年前くらいの出来事から、ずっと一蹴君のことが好きだったわけです。命の恩人だし。トビーの行動に対して、いのりは一蹴が過去のトラウマを思い出して、罪を背負わないように、10年越しの想いを投げ捨ててでも、交換条件的に、一蹴君と別れて、トビーが一蹴君に近づかないようにして、一蹴君を守ろうとした、というのが全ての真相です。扉さんは全てを忘れて幸せそうにしている一蹴君(多分いのりも)が気に食わなかったので、別れて苦しむなら、とりあえずは近づかんといてやるわ、という感じだったっぽい。

ヤバない。10年だよ10年。二人の関係はいのりの嘘から始まってるわけですが、それも相手を守るための嘘だからね。自分のためではないですよ。この10年の想いを投げ捨てようとする姿を見て、やっぱりメモリーズオフの魂はここにあるんだな、と思いました。1stに連なる、究極の自己犠牲の完成系ですね。

終盤に全てが行き詰まってアメリカに逃げようとしたのは若干意味不明でしたが、まあ何事も完璧はないんでね。細えことはいいんですわ。一蹴君をなんとしてでも守ろうとしたという事実だけあればいい。

いのりが必死で守ろうとしても、最後には全ての謎が開示されて、一蹴君は全てを思い出し、罪を背負うことになります。罪を抱えてもなお、二人で生きていきたいと願う最後の一蹴君といのりの姿が、智也と唯笑の姿に重なって見えました。

EDもシリーズ随一の名曲です。雨に願いを……。しんみりとしたジャジーな曲に、小林沙苗さんの落ち着いた低音が非常にマッチしています。歌詞も素晴らしいんですわ。濡れたまつ毛〜のあたりとか、比喩が巧みすぎて本当に泣けてくる。

そもそも小林さんの声がいのりにピッタリなんだよなぁ。これ以上ない人選じゃないでしょうか。それからは声優のマッチングも神がかってるんですよね。みんな上手いですし。過去作と違って、ちょっと棒じゃないですか、という人がひとりもいない。

メモリーズオフNo. 1ヒロインです。全てが究極。文句なし。

⚫︎雅ルート 愛に目覚めた厨二病

なぎなた部の部員で、開幕から超絶塩対応ガール。さよりんの師匠(さよりんの自称)です。ポニーテールが不思議な形をしているのが特徴。赤っぽい髪というのは、メモリーズオフらしからぬ色ですね。シリーズで一番すごい塩。しおしおのしお。まず見ていただけで怒られます。何ジロジロ見てんだコラと。ヤンキーかな。そして持ち物の扇子を拾ったら、捨てたんだから拾うんじゃねえ! と怒られます。塩ってレベルじゃない。鷹乃とか詩音とかそんなチャチなもんじゃねえ。もっと恐ろしい塩対応の片鱗を味わったぜ。でもさぁ、かかずゆみさんの声のおかげで、そこまでキツくないというか、ちょっと抜けた感じで聞こえるんだよね。塩が多少相殺されてる。そこも魅力。あと師匠の魅力は、非常に沸点が低いところです。何か言われたらキレる、いじられたらキレる、煽られたらキレる、売られた喧嘩は買う、という感じで、すぐ怒るところに、ほのかなポンコツ感が漂っている。

才色兼備で、下級生の憧れでもあり、卒業生の答辞を任される人物でもあります。頭脳は学年トップ。浜咲のレベルは自称進学校らしいけど、そこでトップなら、名の通った大学に行けるレベルでしょうか。メモリーズオフの中では頭脳的にトップかもしれない。そんなに頭脳明晰なキャラいないし。

そしてこの世の全ては偽りでできていると豪語する厨二病患者でもあります。名家の呉服屋の生まれで、本家の偉い人に捧げるためだけに、上級国民の祖母、通称上級ババアに厳しく育てられたという、悲しき過去を背負っています。いくら勉強しようとも、卒業後は本家のおっさん(20歳上)とくっつく運命。愛を知らない厨二女。38歳と18歳ならまあ、カナタとテンチョーも似たようなもんでしょ。

あとテーマBGMが素晴らしいです。本家とピアノアレンジの印象が全然違うので、二度楽しめる。特にピアノの方はめちゃくちゃ耳に残ります。名曲揃いの、それからBGM群の中でも、3本の指に入る。

物語は師匠がなぎなた部の部員(木瀬師匠)に、性格悪すぎて恋人もできへんのちゃう〜と煽られ、沸騰した師匠がその場にいた一蹴君を恋人呼ばわりするところがスタートラインです。そして師匠が見合いを断るために、一蹴君と偽りの恋人関係を結ぶ、と続いていきます。これが面白いんだよね。いのりルートは至高の物語ですが、実は雅ルートもそれに劣らないほどの出来です。至高と至高が並び立つ作品。ちなみに性格悪いのは真実です。木瀬さんの言うとおり、本当に悪い。いいんだよ悪くて。悪いからいいんだよ。師匠は。性格良かったら藤原雅ではない。

この偽りの関係を続けていくうちに、段々と打ち解けていくわけですが、結構謎が多いんですよね。まず偽りの恋人関係に、なぜ一蹴君を選んだのか、ということです。誰でもいいと言っていましたが、ちょっと嘘くさい。本当に誰でもええんかと。ただ、好意があったとも言いづらいほどの塩対応なので、結局理由ははっきりしません。いのりと付き合っていたことが周知の事実になっているので、その部分で多少の信頼感はあったのかもしれない。

偽りの恋人関係を続けていく中で、雅師匠は木瀬師匠に許嫁と一緒にいる写真を取られ、バラされたくなかったら勝負しろと、なぎなたでペア対決を申し込まれます。師匠のペアは一蹴君。素人がペアで勝てるわけないやん。まあ恥かかせるために組んだんだけど。師匠の嫌われっぷりがよくわかるお話。性格悪いからね。

で、この勝負を受けたのも結構謎です。めっちゃ謎。そんなもんバラしたきゃバラせば、で終わりそうなもんですが、その人は許嫁ですって言えば終わりですやん。一蹴君にバレたって、どうせ偽りの関係だし。師匠は卑怯者から売られた喧嘩は買わなければならないと、申し出を受けます。

この時点でも塩対応は相変わらずなわけですが、突き詰めて考えると、やっぱりすでに好意があったとしか考えられないんですよね。明確に好意を持たれたと思われるのは、このもう少し後の、門限遅れそうな雅を必死でチャリで送っていったイベントなわけですが、木瀬師匠に喧嘩を売られた時点で、一蹴君に好意があって、許嫁の存在をバラされたくないと思っていた、としか考えられません。それ以外に納得のいく解釈ができない。

木瀬との試合が終わった後、ご褒美ということでデートしてくれます。普段和服なのに洋服で到来。デートの最後に謎のデコチューが入ります。さよりんに吹き込まれたとか。ここまでくると完全にLOVEです。

じゃあ本当の恋人になるか、と距離を詰めていくと、いや、私は許嫁がいるから、と急に距離を離されます。上級ババアが恐ろしいのか。で、師匠と距離が離れたところで、今度はいのりが戻ってきて、ヨリを戻すと。

めでたしめでたしと見せかけたところ、今度は雅が上級ババアから逃げてきて、本当は一蹴を愛してるんです、世界の全てが偽りだと思ったけど、偽りでない真実の愛を見つけてしまいました、などと人が変わったかのようなことを言い出します。一蹴君は、いや、もういのりとよりを戻したんだ、とも言えずに、実質二股状態に入ります。気持ちはわかる。それは言い出せない。伊波師匠のような自分勝手な二股とは一味違う。

で、いのりとヨリを戻したことがバレ、やっぱり世界は偽りだらけですわ、どうせ偽りしかないんだから、許嫁と結婚しても耐えていける気がする、と言って一蹴君の元から去っていきます。ここでやっぱり俺は雅が好きだと気づき、今度はいのりに別れを告げます。この別れのシーンは名シーン。いのりがあっさりと身をひくところに、深い愛を感じました。

雅は上級ババアに完全ガードされていたので、一蹴君は卒業式にやってきた雅に、壇上で男気告白します。ほたると健ちゃんの伝説に対して、そんなことするくらいなら死んだほうがマシだと豪語していた師匠は、男気告白に頬を濡らして全校生徒の前で一蹴君と抱き合いました。見事なフラグ回収。その後卒業式エスケープしたところで物語は終わります。ハッピーエンド。

このシナリオ、序盤、中盤、終盤、全く隙のない物語です。塩対応の局地から、偽りの恋人関係を結び、徐々に仲を深めていき、ほとんど恋人と言ってもいいほどの雰囲気になってから、私には許嫁がいますとハシゴを外され、いのりとヨリを戻し、雅ともヨリを戻し? 二股がバレ、雅が去っていき、いのりに別れを告げ、雅に男気告白という流れは、ボリュームも相まって、非常に満足度の高いものでした。雅の不可解な行動の理由を推測するという要素も、個人的には非常に楽しめましたね。この人はいつ、一蹴君に好意を持ったんだろうかというのは、解釈が分かれそうな点でした。個人的には偽りの恋人関係を結んだ時点で、好意があったんじゃないかと思ってます。少なくとも木瀬師匠に対決を申し込まれた時点では確実に好意があったと考えたい。さらに言えば、実は最初から好意を持っていたのではないか説が、自分の中では浮上しつつあります。一蹴君といのりが付き合ってたことをやたらと強調してくるのが、ちょっと引っかかるんですよね。真相やいかに。

雅ルートは成長物語でもあります。厨二病患者だった師匠が、愛を知って、弱さを知って、強くなるルートです。わがまま放題の子どものような人物が、愛を知って、少しずつ優しくなっていき、人間らしくなっていき、周りにも認められていく部分も見どころです。

ツンデレ度No. 1ヒロインです。性格の悪さもNo. 1。いいんだよ。ツンデレなんてそんなもんで。

⚫︎縁ルート 禁忌と倫理の狭間

ギャルゲー恒例の血のつながらない妹。元気いっぱいで、すぐに甘えてこようとする、典型的な妹キャラです。ここまで直球であざといキャラはメモリーズオフでは珍しいですが、たまにはいいじゃない。お兄ちゃんと呼んでくれるヒロインは縁だけ。らぶちさんはヒロインじゃないし。

同じ浜咲の生徒で2年生。基本何やらせてもダメダメなので、ちょっとおバカかと思いきや、勉強の方は何もしなくても学年トップ5に入るほどの才女です。メモリーズオフで一番頭いいんじゃないのか。師匠は絶対勉強しまくってるというか、させられまくってるタイプだし。

イケメンに告白されているシーンがあるので、顔もいいんじゃないでしょうか。ルックスがいいことに言及されているのは、モデルのりかりんは当たり前として、イケメン告白の縁と、性格悪いけど見てくれだけはいいと言われた師匠ですかね。いのりとのんちゃんはそういう描写はなかったはず。

メモリーズオフに限るかどうか分かりませんが、ギャルゲーは大体ルートごとに力の入れようが異なっており、力が入ってるヒロインはおおよそ見た目でわかります。SSRのカードだって、絵を見りゃ大体わかりますからね。それからであれば、雅とかりかりんとか。この二人に力を入れてるなら、縁とのんちゃんはおまけだろ、と考えるのが普通の発想ですが、ところがどっこい。それからは全員4番バッターです。いやね、自分でも縁なんかおまけでしょ、と記憶していたんですが、全然違いました。記憶ほどあてにならないものはない。それからはどこを切っても面白いです。縁ルートも神。

妹ネタというのは使い古されたネタですが、このネタの何が見どころかって、近親タブーにどれだけ苦しむかってところが見どころでしょう。縁ルートはこのタブーに限りなく切り込んでいき、絶対に一線は越えない、越えてはならないというもどかしさと、そこはかとない切なさを、これでもかというほど表現したお話でした。せつねえ、と思わされるシーンの多さでいえば、この作品でもトップかもしれない。

一蹴君は自分が養子であることを当然知っているので、縁が実の妹じゃないことも知っています。一方、縁の方は実の兄ではないことを知らない非対称性があります。ただね、妹の方もいい歳だからね。根拠はないにしても、薄々実の兄でないことには気づいていたようです。ただ実の兄じゃないと言っても、じゃあ好きになってOKとはならないですよね。義理とはいえ兄妹なんだから。世間体ってもんがあるでしょ。薄々気づいていても、気づかないふりをしていた感じはあるんじゃないでしょうか。

物語はいのりにこっぴどく振られた一蹴君を縁が慰める、という方向で進んでいきます。弱ってるところ優しくされたらね、そら好きになりますよ。妹の方は元から好き好き状態ですが、一蹴君も次第に惹かれていくようになります。縁ルートは何気に一番いちゃついてるルートですね。最初から距離が近い関係なのでそうなる。でも結局兄妹です。ゆかりが叶わぬ恋を成就させたいと、星恋の丘で流れ星を探すシーンなどは、しんみりする場面ですね。

で、僕がこのゲームで一番好きなシーンがあるんですよ。どのシーンかというと、縁の部屋、一蹴君にとっても実家ですが、その部屋でめちゃくちゃいい雰囲気になって、もはやキスする寸前だろっていうところで、縁が一蹴君の指にキスするシーンです。こんなに切ないシーンがあるだろうか。口にするのは許されないけど、指ならギリギリ許される。本当はそれも許されないけど、好きな気持ちと、タブーを越えてはならないという気持ちの板挟みになって、ギリギリのところで指にキスをするという選択肢を取ることに対して、深い愛と、倫理の壁と、そこはかとない悲しみを感じました。本当に名シーン。このシーンだけでも、それからを買った価値がある。つばめと翔太の最後のやりとりみたいなもんです。あれもワンシーンだけで2ndをやる価値があるからね。

このルートもいのりとヨリを戻す流れになるんですが、師匠のルートと違って、誰も悪くなさすぎて胃が痛くなります。師匠は自業自得なところがあったので、まだよかったんですが、こっちは登場人物全員善人すぎて、誰も救われないという流れ。一蹴君は悪くない。いのりも悪くない。縁も悪くない。全員善人の三角関係ほど救われないものはない。師匠は善人ではない。

いのりと部屋にいるところに、縁が合鍵で入ってくるシーンなんかも、本当に悲しくなりますね。合鍵を差し出すところは、本当に泣ける。泣けるしか言ってない。泣けるのも悲しいというより、切ないんですよね。切なさ爆発音。

「いつか放すつもりなら、手なんて握らないでよぉ……!」

メモリーズオフ それから

いのりとヨリを戻した時に言われた言葉。それからの中で最も悲しいセリフです。感情を揺さぶられるシーンだらけ。

最後はトビーが本当の兄妹じゃないとバラして、いのりに別れを告げ、一応ハッピーエンドで終わります。この先どうなるかわからんけど。親にもお前ら最近くっつきすぎだぞ、と釘を刺されていたので、祝福されるムードではありません。あと、このルートのいのりは別れる時に結構食い下がってきます。雅ルートは割とあっさりでしたけどね。何が違ったのか。雅ルートの一蹴君の方が、明らかに雅に傾いていた感じはある。一回雅に告白(に近いものを)してますからね。こっちは最後の最後まで同じくらいの好き度合いだったのかもしれない。

一蹴君が良い主人公なのは、本気で三角関係の状態に苦しんでるところですね。倫理的にもNGなのは自覚しているので、早急に男気解決しようとする。アレとかアレとは違う主人公。

切なさNo. 1ヒロインです。胸が締め付けられる。

⚫︎果凛ルート ルックスという暴力

見た目はお嬢様。実際にもお嬢様。通称りかりん。想君の時点で名前だけは出てきていた、カナタの友人です。カナタの友人なので、浜咲の出身者。浜咲関係者だらけのゲーム。ジイヤなる付き人を抱えています。何歳かよくわからない。実家のお手伝い(梅子さん人の息子なので、20代半ばくらいか。ジイヤだけどジジイではない。

見た通りの暴力的なルックスで、全てを薙ぎ払うという、詩音と同じ系統の人物です。シナリオの出来? BGM? 小細工はいらんねん。容姿を上げて物理で殴るのが正解。そんなキャラです。あと声がいい。声が。頭から天に突き抜けていくような美声の持ち主。目の前にろうそくを置いても炎が消えないタイプの声です。声を荒げるシーンですら、どこか柔らかさがある。

カナタと同じくモデル業をしています。ジイヤがマネージャー。カナタと違って性格がいい。ファンサービスもいい。ノリもいい。気まぐれでもない。全てが正反対。この人が画面に出てくるだけで場が華やぎます。喋る必要すらないんですよ。出てくるだけでいい。それが真の強者。頬に手を当てる立ち絵が強者の優雅さを感じさせる。見た目と金と声と性格で殴ってくる女。

そんな、この世の全てを手に入れたようなりかりんですが、実は一蹴君が過去に事故った原因を作った人物であり、その罪悪感で自分が嫌いでたまらなくなってしまったという、意外な一面を持っています。嫌いな自分を見せないように、全てを上部で塗り固める方向に走ってしまっている人です。

りかりんの母親は、一蹴君がいた養護施設の経営者で、りかりんは昔から一蹴君のことを一方的に知っていました。当時は目立つ存在だったとか。で、一蹴君が事故ったのは、一蹴君がリナを連れ出したことをりかりんが大人たちにチクったせいなんですよね。それで追いかけけまわされた一蹴君はパニックになって車道に飛び出したと。直接的な原因ともいえませんが、罪悪感を持つには十分な原因だといえます。そのような経緯があることから、りかりんは一蹴君が過去に事故った人だと初めから認識していました。当然、一蹴君の方は、そんなことは知らない状態です。

物語はいのりにフラれた一蹴君が、りかりんに色んな相談を持ちかけられる流れで進んでいきます。普通に考えたら有名モデルがその辺の庶民に対して特別に時間を割くわけあらずなんですが、りかりんにとって一蹴君は贖罪の対象なので、仕事のスケジュールの合間を縫って、相談を受け続けている、という事実が、一番最後の方に明かされます。養護施設で見かけた時から、一蹴君に好意を持っていたフシもあるので、単純な贖罪の対象でもないでしょうけども、許しを得ることが主目的であったんじゃないでしょうか。

このルートは個人的には一個納得できない点があって、気持ち評価が下がってます。何かといえば、りかりんが努力厨であることです。いや、厨なだけならまだいいんですが、一蹴君最近何か努力してる? などと説教垂れてくるところです。いや、わかるよ。なんでそんなこと言ったかはわかるよ。りかりんは異常な努力で嫌いな自分自身を塗り固めているから、その罪悪感とか恥ずかしさで言ってるのはわかるんですよ。一蹴君が卒業後フリーターになる、先のことは考えてない、とか言ってるから、ちょっと言いたくなったのもわかるよ。でもさ〜、カフェのバイトを一生懸命やることは努力じゃないんですかね、と私は言いたい。一蹴君、一人暮らしでバイト頑張ってるんですよ。これは努力と言わないのか。嫌な客が来ようが、カナタみたいな変人が来ようが、笑顔で接客してるんですよ。生きてるだけでいいじゃないですか。努力しなきゃ前に進めないって、そらあんたはそうかもしれんが、普通は生きるだけで精一杯なんですよ。もしかして芸能活動が高尚なものだと無意識に思ってないか。モデルもカフェのバイトも学者もスポーツ選手も会社員も、価値は全く同じなんですよ。私はそう言いたい。まあ気持ち下がってるというだけで、大勢には影響していないんですが。

その後、りかりんは大きな写真集の仕事をポシャってショック状態になります。お前アレだけ人に偉そうに説教しといて、自分はそれか〜? とは言わないよ。みんなの前で自分が嫌いだと暴露した時に、カナタから、自分が嫌いなのにモデルなんかやってんだ、だから写真集も失敗したんじゃないの、と確信めいたことを言われ、激おこ逃亡。そこから一蹴君があれこれ慰めて無事くっ付きます。果凛とのんちゃんはカフェ編として共通部分が多く、いずれのルートも三角関係になりますが、そこまでドロドロするわけでもなく、割とあっさり風味です。すぐ終わる。

くっついて終わりと思いきや、今度はジイヤから、お前のせいで仕事が適当になっとるんじゃ! このままじゃ芸能界で上がっていけない! 将来のためにはよ別れろ! と圧をかけられます。実際仕事をキャンセルして一蹴君と一日中過ごしていたりしたので、言ってることは正しそうなんですが、正しそうなだけで正しいわけではない。ジイヤさん、実は有能風無能です。そもそもりかりんが異常に努力していたのは、自分が嫌いだったからなんですよね。一蹴君とくっついたことで罪悪感からも解放されたんだから、実はそこまで異常に努力する動機は無くなっています。動機がなくなっているのにそれを強要するのは、目的と手段を履き違える典型的なタイプです。お嬢様のためとか言ってますけど、本当か? 将来のために今を犠牲にするという発想って本当に正しいんですかね。そこからまず疑ってほしい。芸能人として成功したからなんなのか。子どもができたらひたすら勉強させて中学受験させて東大以外許さんとか言い出しそうなタイプの人です。今は今しかないんですけども。

しかし一蹴君は何を思ったか、別れる選択をします。仕事に支障が出ていたのは確かですからね。りかりんのためにならないと判断したんでしょうが、こっちの方も目的と手段を履き違えてます。ジイヤのせい。別れる時のセリフは、最初から好きじゃなかった、君が罪悪感を持ってるから付き合ったんだと、そんな感じの回答です。これね、本当によくできてますよね。なんでかって、一蹴君自身が、いのりがやったことを追体験してるからです。好きだけど別れる。好きだから別れる。まさにいのりがやったことと同じ。いのりのトゥルールートは確かカフェ編をクリアしないと解放されないはずなので、これを見ていないとトゥルーに入れません。いのりがどんな気分だったか一蹴君(読者)に体験させてから、いのりルートの核心に迫る構成になっている。まさにプロの業です。

そうして一旦別れるんですが、りかりんはオーディションをジャックして、あるのおかげで自分が好きになれた、気負わずに頑張っていける気がした、誰でもなくその人のために笑いたいという、スピーチを実施します。卒業式ジャックしたり、オーディションジャックしたり、コンサートをジャックしたり、好き放題のヒロインたちです。卒業式を乗っ取ったのは師匠じゃないけど。

そのスピーチを受けて、一蹴君はもう一度りかりんに会いに行きます。ここで写真集がポシャったのは、会心の笑顔という要求に応えられなかったと教えられます。写真撮る方もプロなんでね。会心の笑顔が嘘くさいのはわかるらしい。オーディションは落ちたものの、今日の笑顔は良かったと言われたようで、りかりんは嫌いな自分を塗り固めるという、自分の課題をを乗り越えて、再度一蹴君とくっ付きます。一蹴君の方も真剣に先のことを考えて行動するようになったという後書きがあり、お互いに課題を乗り越えて物語は終わりました。一緒に成長するという、ボーイミーツガールのお手本のような物語です。いい話や。

りかりんと雅師匠は同じくらい人気があるようですが、不思議なもんですね。かたや聖人、かたや悪の化身。でも人気は変わらないという。やっぱり聖には聖、悪は悪の魅力があるんだなぁ、と再確認しました。

ルックスNo. 1ヒロイン、いや美声No. 1ヒロインです。脳天を直撃する。

⚫︎葉夜ルート 憎しみの果てに

同じカフェで働くバイトの先輩。2歳上。通称のんちゃん。カナタやりかりんと同じく浜咲出身で、ズッ友の仲です。一蹴君をバイトにスカウトした人物でもあります。メガネで電波という、いかにもギャルゲーにありそうな造形のお方。会話は一見何を言ってるのか全くわかりませんが、きちんと読めばわかります。想君の電波ではなく、つばめ系の電波です。たとえばこんな会話があります。

場面は一蹴君がエベレストのネパール名はサガルマータであると信に教えられたところです。名前なんてなんでもいいだろという一蹴に、よくねえよと返した信に対して、のんちゃんが言ったセリフ。

「世界はね、記号で満ちてるでしょう?」
中略
「生き物もモノも、全部記号を持ってるよね? それは簡単に言えば存在を現実に固着するための一番手っ取り早い方法かもしれないね」
「持ってない場合もあるけど、それは厳密に言えば”持ってない”んじゃなくて、”まだつけられてない”だけだもん」
「それにね、”持ってない”っていうのは、のんたちを基準にしていることで、実は知らないところでもうすでに”持ってる”かもしれないよ」
中略
「でもね、記号は記号でしかないって思うんだ。のんはのんだけど、のんじゃなくてものんだもん!」
「需要なのはね? 本質を見極めることなんだよ。のんが自分のことをのんだって分かっていれば、記号はあんまり重要じゃないんだよ」
「だから、一蹴君をあんまり怒らないでね?」

メモリーズオフ それから

一見意味不明ですが、翻訳するとこんな感じ。

世界は名前で溢れている。生き物もモノも、名前を持っている。名前は存在を認識するための手っ取り早い方法だ。名前を持ってない場合もあるが、それはまだ名前が付いていないだけの何かである。おまけに、名前を持っていないというのも、日本だけの話であって、他の場所に行けば名前が付いているかもしれない。ただ名前はあくまで名前に過ぎない。のんはのんという名前だけど、のんという名前でなかったとしても、本質は変わらない。本質が見えていれば、名前は重要じゃない。だから名前なんて何でもいいだろ、とう一蹴のことを怒らないでやってくれ。重要なのは名前じゃなくて本質なんだ。

西住式翻訳

きちんと読めば意味は通じる。意味が通じやすいやつを持ってきてるのもありますが。しかしきちんと読むことは難しい。

なぜかCGの出来がいい枠のキャラでもあります。1stでいえば小夜美。そんな枠、他にいないけど。

ベストCG賞受賞

このルートね、本人のキャラクターと違って、激重ルートです。重すぎてブラジルまで貫通するレベル。なぜそんな重くなるかと言えば、一蹴君の過去の事故がらみで、父親を亡くした人だからです。一蹴君は無事生きてたけど、車に乗っていたのんちゃんの父親は亡くなりました。聞いただけで重いけど、シナリオはもっと重い。

のんちゃんは一蹴君を初見でバイトに誘った時から、事故の相手だったことに気づいているキャラです。いつもニコニコ、笑顔でピースのキュアピースみたいな感じですが(キュアピースはそんなキャラじゃない)、それは黒い気持ちを持ってはいけない、という父親の言いつけを忠実に実行すれば、父親が帰ってきてくれると思い込んでるが故の行動です。今でも病院の前で、医師だった父親が帰ってくるのを毎日待っているほど、心中は病んでいます。重い。のんちゃんと呼ばれることに固執するシーンがありますが、これは父親がのんと呼んでいたからです。一蹴君にやたらと親切にするのも、あえて憎むべき相手に対して、父親の言いつけを実行すれば、絶対父親は帰ってきてくれるという、謎の算段に基づいた行動でした。苦行をこなせば解脱できる、みたいな発想です。お父さんっ子。

一蹴君とのんちゃんは途中で付き合ってるような状態に近づきますが、のんちゃんの闇を知った一蹴君は、憎むべき相手を好きになるのはおかしいだろ! と言い放ち、のんちゃんが秘密基地と称する場所に押し込めていた、父親への手紙や、思い出の品々をファイアーすることで、のんちゃんを正常に戻そうとしました。母親も同意済み。というか、父親の死を受け入れないのんちゃんのおかげで、母親まで病んでいるので、もう好きにしてくれという感じです。

これもね、愛しているが故に、別れなければならないという、いのりの立場と同じです。父親の死を受け入れない方が今は幸せなのかもしれないけど、将来に向かって歩いていくには、のんちゃんの目を覚まさせないといけないという使命感で、一蹴君は愛を捨て、思い出ファイアーに踏み切りました。切ねえ。りかりんとのんちゃんは構図が同じですね。いのりの立場を追体験させるためのストーリーと言える。

正常に戻ったのんちゃんは、こんなことを言っています。

「憎いよ? 一蹴君」
「……何度も、殺したいって……思った……!」
中略
「お父さんを返してよ……」
「返して!」
「なんで、一蹴君は生きてるの!?」
「死んじゃえばよかったのに!」

メモリーズオフ それから

重い。あまりにも。一蹴君は何も言わず、そっとその場を立ち去ります。憎まれる方が普通の反応だからね。今までが異常だったんですわ。一蹴君はそのまま街を出て、他の街で暮らすことになりました。駅を出発する時にカナタに教えられたことは、別の秘密基地に、一蹴君との思い出の品々が収められていた、という事実です。なんかね。しんみりするよね。愛と憎しみが一緒に爆発している状態だったんでしょうが、それを全て隠していつもニコニコ、ぴーすなのんちゃんだったわけです。

それからしばらくして、一蹴君の誕生日にのんちゃんが押しかけてきます。メガネも外して、イメチェンして再登場。今度は葉夜と読んでと言ってきました。のんをやめるということは、父親のことは吹っ切れたということでしょう。この間にどのような葛藤があったかは語られません。そこがちょっと残念ですが、一蹴君を好きな気持ちはずっとあったわけなので、そちらの方が勝ったのか。ちなみにメガネを外すとかなり美形です。外さなくても可愛いけどね。メガネキャラの特権ですわ。あ、智紗はずっとつけといて。

笑顔No. 1ヒロインです。イメチェン後も可愛い。

⚫︎紗代里ルート 信の人生観

マグローの妹、力丸紗代里さん。通称さよりんです。縁の友人で、雅のなぎなた部の後輩。〜です、というのが口癖。多分メモリーズオフ史上、学力的には最もおバカです。学年最下位だし。信とか智也ですら最下位はないんじゃにないのか。いいんだよ学力なんてどうでも。性格が良くて可愛い。これ以上何もいらないでしょ。実家の魚屋を継げば全てがうまくいくはず。

さよりんは誰でも一発で惚れる女の中の女を目指し、雅を師匠と仰いで日々励んでいる人です。師匠の選択ミスってるだろ。性格を見なさい性格を。なぜそんなものを目指しているかといえば、過去に男っぽいやつなんか嫌だよ、と言われてこっぴどく振られた経験を持っているからです。単純である。

実は信にゾッコンLOVE状態で、一蹴君のせいで告白する羽目になって、これまたこっぴどく振られる結末になります。その時の信のセリフがこれ。

「誰かに……迷惑かけるのは、ごめんなんだ」
「いつ消えちまうかも、分からないだろ?」

「過去に、何度も死にそうになった」
「そういう状況に陥ったときに、『残してきた誰か』の悲しい顔を思い浮かべるなんて、まっぴらなんだよ」
「楽しかったことだけ考えて、消えていきたいんだ」

「ま、こういう生き方を選んだ時点で……オレは輪からは外れちまったんだよ」

メモリーズオフ それから

それっぽいことを言っていますが、過去に死にそうになったのは、趣味の海外旅行で適当やらかしたせいです。別に深遠なる不可避の理由があるわけでありません。ただの趣味です。

もっと言えば、この男は後々普通の女と普通に結婚して普通に娘を授かって普通に喫茶店を経営して普通に幸せに暮らしています。

まあね。20歳のイキリ散らした時期の言葉なんでね。重みも何もなかったということですよ。生涯にわたって現行一致している人間の方が異常とも言える。でも、この言葉をめちゃくちゃ覚えていたせいで、IFの結婚を素直に祝えなかった自分がいます。お前、力丸さんに謝ってこいよと。あの時の言葉、嘘だったわと。

で、こっぴどく振られたさよりんを慰めているうちに、お互い好きになっちゃってくっつくというオチに至ります。このルートのみどろこは信の人生観です。それ以外は、さよりんは可愛いなぁ、くらいしか言うことはありません。

後輩力No. 1ヒロインです。

⚫︎外伝作品の扱い

それからはファンディスクが出ていますが、以前もどこかでお話ししたように、その手のものをコアレビューでやる予定はありません。コアレビューは本編から得られる情報だけで作品を評価するという決まりがあるので、外伝とか小説とかCDとかその辺は除外されます。アフターレインも同様。

なんでそんな決まりがあるのかといえば、自分がゲームをプレイする、レビューを書く動機のひとつとして、制作側の思想、魂とぶつかりあいたい、というものがあるわけです。本編には間違いなくそれが現れてくると思います。一方、ファンディスク含め、後から出されたものは、本編をプレイしたファンの声を吸い上げて作ったものなので、制作側の思想というより、統計的に需要がありそうなものが出されていると言えます。それからのファンディスクは人気がある3キャラしかいませんからね。コアレビューに後出し作品を含めないのは、統計的な処理に魂を感じないという、それだけの理由です。

とはいえ、必要だと思えばやります。そこまで厳格ではない。ノエルが出てくる都合上、T-waveのファンディスクでクロエ先輩はやるかもしれない。

⚫︎まとめのまとめ

大人になっても、想い出以上の神ゲーでした。全てのルートが楽しい。考えさせられる。泣ける。切ない。深い。ヒロインの心の機微を探るというメモリーズオフの醍醐味と、ヒロインの深い自己犠牲というメモリーズオフの魂を、史上最高の切ないBGMとともに、これでもかというほど味わわせてくれるゲームでした。これを超える作品は、この後もないのかもしれない。そう思わせてくれるほどの圧倒的なクオリティを持った作品です。語ることがあまりに多いため、全ての記事が長くなりすぎたことをお詫びします。いや、本当はもっと語りたい。というか一生語りたい。ずっとそれからをやってていいですかね。本当に終わるのか? 終わってほしくない。

悲しいですが、ついに終わりの時間になってしまいました。最後はシリーズ恒例のベスト○○をいくつか挙げて終わりにしたいと思います。

ベストシナリオ いのり
ベストキャラ 雅
ベストBGM inori-sweet note

本当は全員、全てがベストです。掛け値なしに最高の作品でした。ありがとう! メモリーズオフ!

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