![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/141525808/rectangle_large_type_2_827254aaa3de83380b2271272e3bfb34.png?width=800)
Photo by
hoho8888
博士のアルバム 9話
「会えると思ってたら駄目なんだ。いつでも会えるなんて甘かった。人の寿命はわからない。こんな老いぼれより先に死ぬなんて順番が違うよな。でも、現実なんだ。受け入れるのは割と早かったよ。逆に死に恐怖を感じなくなった。早くあの世に行きたいと思った。でも、僕はまだ生きてる。なかなか死ねないんだ。こんな体になっても、まだ生きている。人の寿命って神様が決めてるのかな。それがわかれば楽になれるのかな」
先生が手を伸ばして吸い飲みを取ろうとした。しかし、その手の震えはいつもより激しかった。それからまた話を続けた。
「家内とは高校の時に知り合ったんだ。僕はずっと単身赴任だったからね。彼女の病気にも気づかないで毎日、好きな研究ばかりして
飲んだくれてた。ろくでもないよ。人は、生まれる時も死ぬ時も1人だっていうけど、僕は君たちに助けてもらってる。ありがたいよ、本当にそう思う。心からね」
私の心が苦しくなってゆく。
「茅野さんは、どうして…?……どうして、亡くなられたんですか」
「事故だよ。歩いていて車にはねられた。それを病院のベッドでニュースをみて知ったんだ」
「そ、そんな……、確か会う約束してたんですよね?それなのに、そんなことって……」
「前日、電話で話してたんだぜ。先生、早く良くなってねって言ってた人がいなくなるんだ、それも突然にね。残酷だろ」
先生が涙声になったときから、私の涙も止まらなくなっていた。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?