ロックも文学!サンボマスターはいいぞ。
ノーベル文学賞を取ったボブディランは「答えは風に吹かれている」と歌いました。
さまざまな問題が山積みで、同じことが何度も何度も繰り返される。だけど、その問題の答えは「風に吹かれて」いるのだよ、と。
この言葉の解釈は様々です。それこそ、文学なんてそんなもの。解釈も理解もふわふわしているのが文学というものです。
代表的な解釈は2つ。「神のみぞ知る」という嘆きとして、「風に吹かれている」と話しているという説と、「当たり前、すぐとなりに転がっている」という意味だったという説です。なんとなく、どちらの意味もありそうな気がしますよね。「誰もわからないけれど、身の回りに転がっている」、というどちらの意味にも取れると思います。
しかし、この「風に吹かれている」に真っ向から対立したのが邦楽ロックバンドグループがあります。
それは、サンボマスターです。
サンボマスターは、ライブでこんな風に歌いました。
ねえ父さん母さん、とても偉い音楽評論家のあなたたしかにあなたの言う通り、あのボブディランというえらい人は、「友よ、答えは風に吹かれている」と言って僕らを感動させましたね。だけど、どうですか今。またこの前、日本人が中東のあの危ない土地でやはり殺されてる訳です。ねえあなた方、偉い父さん母さん、偉い音楽評論家たちねえ、答えはやっぱり「風に吹かれている」のか「風に吹かれている」のか。 ねえ、核爆弾が落ちてやっぱり答えは「風に吹かれる」のか。ねえ、可愛いあの子の腕に注射針があってやっぱり答えは「風に吹かれる」のか。どうにも救われない日本人の魂なんてやっぱり答えは「風に吹かれて」しまうのか。 嘘さ、嘘さ、嘘なのさそんな想いは、嘘さ、嘘なんだ。僕は日本人の、28歳の、弱い男だけどここにいるあなた方の力を借りて嘘だと言わしてくれ。 そしてこの、この想いをそしてこの想いを、この想いを情熱と呼ばせてください。【サンボマスターのライブより抜粋】
これを聞いた時に俺は「そうだよな」と思ってしまいました。
何が「風に吹かれている」だよ、と。
気取ってんじゃねえよ、やらなきゃこの世は変わんねえんだよ、と。
俺は目の前にある直近の大問題をなんとかしたいんだよ、「答え」なんかなくたっていいんだ。「可愛いあの子の腕に注射針があって」「中東で日本人が殺されて」「核爆弾が落ちて」、答えなんかいらないから、なんとかしたい。バカだと思われたっていいから、動かなきゃいけないと、心の中が張り裂けそうになる。
それが、「情熱」なんだ、と。
そしてその音楽性は、様々な楽曲に見られます。その一例がこの曲。
今鳴らしているギターはホワイトファルコン。まさに僕の邪さを表しているとは思いませんかみなさん。
ホワイトファルコンとは世界で一番美しいと言われるギターです。それを、「邪さの象徴だ」と嘲笑う言葉から始まるのがこの曲、『あなたが人を裏切るなら僕は誰かを殺してしまったさ』。
だから 悲しみ消える言葉で笑いかけ今までの過去全てを僕に話して天国行きのバスなら乗らずに見送ってあなたが人を裏切るなら僕は誰かを殺してしまったさ」
【サンボマスター 『あなたが人を裏切るなら僕は誰かを殺してしまったさ』】
苛烈で熱烈な、100%の全肯定がこの曲にはあります。「あなたがどんな人であってもいい、もし人を裏切るのだとしても、それなら僕はもっと重い罪を犯したことだろう」「天国になんて行かなくてもいい、あなたと一緒に地獄に行きたい」と、バカみたいに歌うわけです。これがロックじゃなくてなんなのでしょうか。
「文学?知ったこっちゃねえぜ!」「この胸にあるものを表現しなければやってられねえんだ!」
それがこの、最高に「ロック」なバンド、サンボマスターなのです。
歴史的に見ても、「ロックな文学」というのは意外と存在します。サンボマスターと似ているな、と思うのはボッカチオ著『デカメロン』。
「デカメロン」は、ペストで世界がしっちゃかめっちゃかになった時代にあって、今まで守られていた固定の価値観や世界観と言ったものをぶっ壊して、神父が姦淫をして犯罪者が讃えられて法律が歪められる、それでも人間は生きているのだと嘲笑った作品です。ダンテの『神曲』と逆に、『人曲』と呼ばれます。
守るのも文学なら、壊すのも文学。
ノーベル文学賞の作品を壊して叫ぶサンボマスターも、立派な文学だと言えるでしょう。
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