溢れ出る巨匠への愛とリスペクト -ジャパンエキスポレポート(3/5)
ジャパンエキスポレポート全5回 –(1/5)(2/5)(3/5)(4/5)(5/5)
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ジャパンエキスポだからこそ渡仏する大御所マンガ家たち
Japan Expoの特徴のひとつはゲストの豪華さだ。
普段は人前に出ることのないマンガ家がトークショーやライブドローイング、あまつさえサイン会を行い、握手をする。
まず日本ではありえない。
過去には小池一夫先生、寺沢武一先生、北条司先生、原哲夫先生、浦沢直樹先生、貞本義行先生、赤松健先生、大今良時先生、大久保篤先生などが招聘されている。
それはアニメやゲームでも同様で、美樹本晴彦氏、神山健治氏、宮本茂氏、河森正治氏など錚々たる顔ぶれだ。
永遠のヒーロー『キャプテン・ハーロック』
特に松本零二先生はJapan Expoにたびたび招かれている。
というのも、フランスでは『キャプテン・ハーロック』(フランスでのタイトル名は『キャプテン・アルバトール(Capitaine Albator)』。ハーロックでは滅多に通じない)が大人気なのだ。
今でも書店ではマンガが売れており、また2013年には劇場版CGアニメ『キャプテンハーロック -SPACE PIRATE CAPTAIN HARLOCK-』(公式トレーラーはこちら)がフランスでも公開されており、ブームの熱は冷めやらない。
(↑第1巻。7.22€(約900円)とフランスでは単行本は決して安くなはい。)
今年、松本先生はライブドローイングを行った。ライブドローイングとは、司会者とのトークを挟みながら、時間内に(1時間半ほど)で白紙からラフ、線入れ、カラーと一連のイラスト創作をその過程を見せながら行うことだ。
手元に固定カメラがあり、一部始終がずっと背後の大画面に写されている。着々と仕上がって行く様は会場の来客者が息を飲んで見つめていた。
(↑鉛筆での下書きからペン入れを経て、色彩に取り掛かったところ。)
レジェンド・オブ・レジェンドの永井豪先生
そして何よりも、20周年ならではのスペシャルゲストとして永井豪先生がいる。
フランスにおいて永井豪先生は別格中の別格のレジェンドだ。
おそらく、日本人マンガ家として一番高名と言っても差し支えないだろう。
なぜ永井豪先生はそれほどまでに愛されているのか。
それにはアニメの存在が欠かせない。
1980~1990年代、フランスでは日本のアニメが怒涛のごとく放映されてきた。当時は地上波しかなかったので、テレビをつければ、ほぼ必ずと言っていいほど日本アニメを目にした。
『リボンの騎士』から『CITY HUNTER』『CAT’S EYE』……なぜそれほど日本のアニメが放送されていたかというと、ライセンスフィーが安かったからだと言われている。
なかでも特筆すべきは、何と言っても『マジンガーZ』をはじめとする永井豪先生原作のロボットアニメだ。
マンガ・アニメ文化のフランス上陸の立役者『グレンダイザー』
とりわけ『グレンダイザー』(フランスタイトル『Goldrak』)は国民的アニメと言っても過言でないほどに視聴され(視聴率100%を記録したという伝説がある)、フランス中の、主に子どもたちは、もはやそれが日本アニメであることを意識することすらなく興奮し、感受性を刺激されまくった。
そうした子どもたちはアニメを通じてGo Nagaiという日本のマンガ家を知る。
あのグレンダイザーの生みの親は自分たちの幼少期、青年期を形作る上で、欠かせない存在として認知されているのだ。
永井作品のシャワーを浴びてきた子どもたちは永井先生にことさら憧憬と尊敬を抱いている。もはや自分の一部であるから。
永井豪先生がレジェンド・オブ・レジェンドであるのには、こうした背景がある。
さらに言えば、この永井作品の浸透度が、のちの「フランスにおける日本のアニメ・マンガ」の先鞭をつけ、また日本文化を受容する土壌を作った。
Go Nagaiへの愛は、彼らが大人になってからも変わらない。
Japan Expoでのイベントでは、会場は超満員。そして、フランス政府から、最高の栄誉であるレジオンドヌール勲章の授与が壇上で行われた。
スタンディングオベーションが長らく止まらなかったことは、最高の楽しみを作り出してくれた創造主への熱い感謝と愛情の証のように感じられた。
(↑フランス政府代表者と永井先生。左端は永井作品を出版しているisan mangaの編集長タルビ氏)
永井先生は今年で画業50年を記念している。
Japan Expoでは開催10周年にあたる2009年にも永井先生を招聘しており、その思い入れをうかがうことができる。
そして、その功績を知らしめる、特別展示も行われていた。
(↑中は撮影禁止だったが、デビルマンの等身大フィギュアやキューティーハニーのキャラ設定図、ロボットキャラクターの試行錯誤のラフスケッチなど貴重な資料が展示されている。)
会場にグレンダイザーのぬいぐるみを持つ少女がいたので、声をかけてみた。
彼女は高校生で、永井豪の漫画は全巻持っていて、アニメも全部見ている、グッズもたくさんあるという。
(↑年季の入ったぬいぐるみを持参して「グレンダイザー(ゴールドラク)は私の人生そのもの」と言っていた。しかしTシャツは『ONE PIECE』……。)
こんな若い子にまでも影響力があるのか、と驚いたが、じつは彼女の父親が熱狂的な永井ファンで、彼女はその薫陶を幼い頃から受けていたとか。
世代を超えて生きる作品たち。
改めて永井先生の凄さを目の当たりにした。
各ジャンルのビッグネームが続々と……
マンガ家だけではない。
今年はガンダム40周年にあたるため、富野由悠季監督が招聘された。富野氏のイベントはいくつかあったが、そのうちのセミナーなるものは告知されていなかったため、観客は10人程度。しかし「参加者全員が質問して富野監督に答えてもらえる」という贅沢この上ない空間であった。
(↑10数人の前でも、数百人のイベントでも、富野節は安定して健在だった。最前列に座る青年は大ファンのようで、礼儀正しく幾度も挙手して富野監督との交流を楽しんでいた。)
ゲーム業界の雄、サイバーコネクトツー代表の松山洋氏もパネルとサイン会を行った。最前列の正面に座る筆者の隣の青年はコアなファンと見受けられ、松山氏を観て涙ぐんでいた。
ミュージシャンのYOSHIKI氏もJapan Expoの常連だ。今回はアニメ『進撃の巨人』OPのほか、非常に個人的なエピソードを涙ながらに語り、故人を悼み、十数年封印していたという曲を披露。
自ら観客席に降り、通路をあちこち歩きながらMCをしたり、観客に語りかけたりと、日本のメディアで観るYOSHIKI氏のイメージとは異なる、アットホームなステージだった。
また、『残酷な天使のテーゼ』の生歌を求めて“Yoko Takahashi Song Show”は混雑が予想されたメインイベントのひとつ。
一緒に歌おうと満席にあたる約600人がウキウキとしていたところに、庵野監督からのビデオメッセージに続き、劇場版『シン・エヴァンゲリオン』予告編の公開が。
日本ではLINE LIVEで「『シン・エヴァンゲリオン』予告編公開」として配信されていたので、ご覧の方も多かっただろう。
しかし、現地フランスでは、観客は緒方恵美がサプライズゲストで来ることも、ましてや『シン・エヴァ』予告編があることすらも知らなかったのだ。
あの会場からの歓声には、そんなエピソードがあったことも書き添えておこう。
※本稿は「マンガ新聞」2019年08月21日公開記事の再掲載です。
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