見出し画像

ビーガニズムとサステイナビリティ

さて、今回話をしたいと思っているのは、「ビーガニズム = 菜食主義」についてです。
(巷ではヴィーガンという表記の方が多いようですが、F&Pでは昔から「ビーガン」で統一しているのでそうします。だってヴェジタリアンとはあまり書かないから)

正直に言うと、これは今まで公言を避けてあえて扱ってこなかったテーマです。
このテーマで話すと、流れ的にどうしても「自身やブランドが菜食を主義とするのか、そうでないか」の旗を上げざるをえないことになってしまうからです。

しかし「時代に見合ったより良い食文化の創造」を掲げるF&Pジャパンとしては、避けて通れないテーマになってきていることを感じています。
初めにお断りなのですが、この記事は何かに物を申したりとか主義主張をするような意図はなくて、、、今この地球上で起きていることなどを確認しながら、「マーケティング的観点から」考察をしていきたいと思います。

ビーガンとは?

画像7

私たち FICO & POMUM (フィコ・アンド・ポムム) のお店でアルバイトを募集していると、「私はビーガンなのでお店に興味を持ちました」という方も多く応募にいらっしゃるのですが、、、
試しにそうでない方に面接で「このメニューにビーガンって書いてありますが、意味がわかりますか?」と聞いてみると、
「肉とか動物由来のものを食べない完全菜食主義の人?」
・・・最近はこのくらいまではだいたいみんな同じ認識のようです。

では、「ビーガン」 と「サステイナビリティ」とを結びつけて説明できるか、と言われたらいかがでしょうか?

菜食という選択をする理由

ビーガンになる主な動機・理由としては、主に次の4つが挙げられます。

1.  宗教的理由:       不殺生の思想があるヒンズー教など
2. 健康配慮理由: 菜食が身体の健康にとって良いという考え方
3. 動物愛護理由: 動物搾取をやめようという考え方
4. 環境問題理由: 畜産による温室効果ガスを削減しようという考え方

SDGs 含め、最近特にムードが高まっているサステイナビリティと関係が深いのは、4についてです。
牛の排泄物 (げっぷとかおなら) から出るメタンガスが環境に影響を及ぼすと言われていることはご存知でしたでしょうか。
畜産業からの温室効果ガスは排出量全体の18%を占め、全ての移動機関 (自動車や飛行機など) の排気ガスを足した量よりも多いことが発表されています。

そして、近い未来には排出量の削減が法定整備されていきます。
(マーケティング的に言うと PESTのPで、最も強い要因ですね)

いま、何が起きているか?

特に動きが顕著な英国・米国では、ここ数年でビーガン人口が急増していたりプラントベース (植物由来)食品市場が急拡大しています。

2014年から2018年にかけて、英国のビーガン人口は4倍になっています。
(出典: Food Standards Agency)

画像1

Google 検索での「Veganism」に対する関心のトレンドは右肩上がりです。
(出典: Google Trends)

画像2

2017年から2019年にかけて、米国のプラントベースフード(植物性由来食品)の市場は28%増えています。
(出典: SPINSscan, The Good Food Institute Inc.)

画像3


「プラントベースフード」は、“フードテック” という文脈でも、“食育” という文脈でも、今最も注目が集まっているホットワードです。

このように、思想上の観点だけでなく、マーケティング的にも「植物性の流れ」は絶対に無視できない身近なテーマになっています。

ベジタリアンの種類

菜食と言っても、何を食べる / 食べないといったスタイルによってたくさんの種類があります。

画像4


FICO & POMUM (フィコ・アンド・ポムム) としてのこれまで

2013年、僕たちが FICO & POMUM JUICE をオープンしたとき、ビーガンサンドイッチをはじめとした「完全菜食主義の方でも安心して食べられる」「ビーガン対応の」メニューをラインナップしました。

このとき、日本ではまだまだビーガニズムの認知自体が今ほどありませんでしたので、「外国人をはじめとした、ごくわずか一部の人のためのメニューをあえてわざわざ取り揃えているのだろう」くらいにしか見られていなかったと思います。

ちなみに、私たちF&Pとしての製品的な「ビーガン対応」の基準は当初から、安心して選んで頂けるように「動物性由来食材の完全排除を徹底する」というものでした。

食材に肉を使わないことはもちろん、原材料の製品カルテを調べて、添加物に「乳由来」「卵由来」のものが入っていたり、アレルゲンに「乳」「卵」が入っていたら不採用、という基準で選んでいます。
つまり、「ビーガンサンド」のパンには、卵・バターはもちろん、乳由来のわずかな添加物も使われていません。

画像5

FICO & POMUM では、ビーガンの方でも安心して選ぶことのできるメニューは多いのですが、全てがそうではありません。

そして2021年のいま、前述したような背景から、「ビーガン対応メニュー」 = 「ビーガンの人のためのメニュー」という枠組みだけではすでにマーケティング的にも収まらなくなってきています。

FICO & POMUM としてのスタンス

F&Pジャパンでは、会社の BELIEF にも記しているのですが、食の価値観を多様的に肯定しており、特定の食の思想に捉われないことを掲げています。

FICO & POMUM JUICE のメニューの食材には、たとえば牛肉は使っていません。
動物性のものとしては、ターキー、チキン、サーモン、牛乳、ヨーグルト、ホエイプロテイン などがあります。
牛乳とヨーグルトを使わないほとんどのスムージーは、ビーガンに対応しています。近年は、グルテンフリーマフィン、アーモンドソイラテなど、ビーガン対応メニューを増やしています。

画像6

FICO & POMUM JUICE は、仮に当てはめるのならば「ポーヨ・ベジタリアン (Pollo-Vegetarian) 」に当たり、完全ビーガンではないが「ビーガンフレンドリーなお店」というスタイルになります。

ここに関しては実は7年ほど前から、お客様も含めた意見交換のなかで
「ブランドとしてオールビーガンを目指していくべきでは?」といった検討もありました。

しかしその中で出てくる意見は、

「店全体がビーガニズムになってしまうと敷居が高すぎる」
「菜食主義のお店という風に見えてしまうと、自分のためのお店だと思うことができない」

というものでした。

ここから見えてきたのは、「ビーガニズムをお店のコンセプトに掲げることは、菜食以外の人を知らずのうちに排他してしまう可能性がある」ということでした。(繰り返しになりますが、あくまでマーケティング的な話です)

日本のビーガン人口がまだ3%だとすると、マーケットの97%を捨てて3%を取りに行くことは (いかに上昇トレンドだとはいえ)、店の運営がビジネスとしての持続可能な状態から遠ざかってしまうばかりか、ビーガンと非ビーガンは分断されたままで、新しい文化が伝播するためのクロスオーバーな状態になりません。

こうなると、F&Pが目指している「健康的でより良い食文化を広く万人に広げる」という目的を果たせなくなってしまいます。
店の入口は、常に広く開かれていないといけないのです。

・・・

こうしたビーガニズムをめぐる議論は、
しばしば激しい論争になって「白か黒か、旗を上げろ」的な話になることがあります。
言うなれば僕らはその中で、グレーな立場を通してきました。
僕個人やF&Pは、「食というのは、そもそも楽しいはずのものだ」と信じています。
会社のポリシーとしている「食の価値観の多様性を肯定する」「より良い食文化をつくる」こととは、人々がそれぞれの「食を楽しむ」ことを前提とした上で、食意識や食知識の格差をなくす食育をたよりに、自分自身の健康的なライフスタイルの確立を目指すことです。

画像8

中庸的な「フレキシタリアン」という考え方

日本人はあらゆることを二極的に考える傾向があるな、と思うことがあります。
プラストローが悪、紙ストローが正義、といった極論が広がったように、断片的な情報で偏った白黒を判断し、本質的なことを見逃しがちな風潮はないでしょうか。
プラにしても肉食にしても、一概に悪とみなし目くじら立てて「なくす」に寄せるのではなく「減らす」もありなんだよ、という可能性を提示したいと思っています。

米国で増えているのは「フレキシタリアン」というスタイルで、すでに総人口の2割を超えているというデータもあります。
(Flexitarian:「Flexible = 柔軟性」と「Vegetarian」を合わせた造語)

【フレキシタリアンの例】
- 週に数回、肉を食べない日をつくる
- 月曜日は菜食の日と決めている
- 平日は菜食で、週末は何でも食べる
- 肉は鶏肉だけを食べ、他のお肉は食べない
- ひとりのときは基本菜食だが、人との食事では何でも食べる
- 自分ができるときだけ菜食にする

ゆるベジ、セミベジ、準菜食・・・ といった言葉も広がっています。

picture_pc_b930bd71029f53dc7a7ef75017579baa.jpgのコピー

できるところから始める。無理をしない。
自分のやり方をつくる。
・・・何にでも共通しますが、これこそ持続可能な方法なのでは、と考えます。

画像9

F&Pとしては、こんな役割をはたしていきたいです。
・ファクトを伝える
・気づきを促す
・最初の一歩目のきっかけを与える
・偏ったイメージをなくす
・「こんなやり方もあるよ」という提案をする

全体で環境配慮のムードを作って、なんとなくの層を増やしていく。
境界線をあいまいにし、自然な流れの中で、特に主張しなくても菜食を取り入れていく。
3%の厳格な層が6%に増えるよりも、20%のゆるい層が40%に増える方がなんとなくハードルが低く可能性が高そうで、結果的に全体への浸透を早めることができ、結果的に早く温室効果ガスも減りそうじゃないですか?
というような気もしています。

以上の理由から、FICO & POMUM はおそらく今後も
「ビーガニズム」についてなんらかの発信は続けながらも、
「ビーガンのためのお店ではない」というようなスタンスでの運営を続けることになるかと思います。

なんだか今回は遠回しな表現が増えてしまいました。。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
We are what we eat.


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?