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【230/252】ふわり、ふうわり


日は落ちていた。
真っ暗な外の様子を気にかけながら、こうこうと光る駅舎の中を歩く。
待つ。会う。顔を、かがやかせる。
スターバックスに入ったことは、今も昔もそんなにない。お洒落な場所に慣れてる彼女に、促されたのだったと思う。
季節柄、桜の味という商品がたくさんあった。もりもりとクリームが載ったそれをオーダーした。
うすらぼんやりした春のイメージが、舌の上で踊る。桜、さくら、サクラ。
なぜだろう、このことを考えるたび、その景色が目の裏に翻る。
もう十年以上前に見た景色。

どうしたことだろう。自分で決めたこととは別に、期限つきの時間を経験することになってしまった。
なによりも、せつないのがおかしい。
ここまでしかありませんと言われたら、もっとしゅうじゃくするものと思っていた。ぎゅっと握りしめて、どこにもやらないと思いつめて。
びっくりするほど、そうでない。
目の端に、捉える。心臓のあたりが、ぎゅんと音を立てる。この瞬間を覚えていたいと、束の間祈る。
それを手放した瞬間、思いもかけない展開を見る。嬉しいより先に、この世のことわりを、わらう。
そうして、何よりも先にすこやかにあれと祈る。
どうか、あなたが。あなたを。

散る、という単語をえらぶのは本意でない。
風に乗る花びらのイメージ。ふわふわと、漂う。

今は今しかない。あたりまえのことわりを、あえて言挙げしないのが格好いいと思ってしまう。
そして、どこまでも、いつまでも、格好よくありたい。どうやらそうのようだと、ようやく悟る。理由は、わからない。


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