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物書堂の辞書アプリはこれを買え:①国語辞書編【2021年版】

この記事では、iOSの超便利な辞書アプリ「辞書 by 物書堂」で購入できる国語辞書5種を紹介しています。おすすめの英語辞書はどれ?という方は、「②英和辞書編」「③英英辞書編」をご覧ください。
【2021/04/12改訂←2020/04/02改訂←2019/04/19公開】

とにかく「辞書 by 物書堂」が神アプリなのです。どうですか、この豊富なラインナップ。

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※春の「新学期・新生活応援セール」実施時の画像。

アプリ内ストア画面を見ると、日本語・英語系の辞書だけでもこんなにある。辞書は引き比べながら使うものだという常識を持つ我々にとっては実にありがたいチョイスの多さです。

が、それだけに「結局どの辞書をを選んだらいいかわからん!」と迷ってしまう方もいるようです。
そんな方のために、「辞書 by 物書堂」で買うべき辞書についてまとめました。

Q. 誰あんた。
A. 西練馬と言います。ただの辞書マニアです。たまに辞書ネタでバズったりします。例えばこんな。

なお「辞書 by 物書堂」アプリ自体がいかに便利であるかは、下記のレビュー記事などを参照してください。

※断りのない限り、以下のスクリーンショットはiPhoneを使用しています。



📚国語辞書の選び方

〈明鏡国語〉〈新明解国語〉〈三省堂国語〉〈大辞林〉のうち、ふたつは買っておきたい

国語辞書4種

いきなり辞書を複数買わせようとしていますが、辞書マニアが酔狂で言うのではありません。ほんとです。上の4つの国語辞書は、性格がぜんぜん違うのです。非常に大雑把に言うと。

・〈明鏡国語辞典〉……🍲具だくさん。
・〈新明解国語辞典〉……🍜こってり風味。
・〈三省堂国語辞典〉……🥗あっさり風味。
・〈大辞林〉……🍱幅広く、詳しい。

こんな感じ。これを最低ふたつ以上比べながら活用することで、辞書の値打ちは一気に高まります。
それでは「辞書 by 物書堂」で使える国語辞書を、実際に内容を比べながら見てみましょう。

Q. あれ? もう1種類、国語辞書あるんじゃなかったっけ。
A. 〈精選版 日本国語大辞典〉ですね。これは最後に説明します。



例えば、「文化」とはどういう意味か、説明できるでしょうか。
そして、辞書にはどう書いてあってほしいでしょうか?

📚国語辞書4種引き比べ【文化】

まず4種のうち最も古い〈三省堂国語辞典〉第7版(2013年刊)。

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①②……と説明が分かれますが、第一義に注目していきましょう。
「それぞれの時代や地域、集団によって異なる、人々の精神的・社会的な いとなみ」
ずばり平易ですね。中高生でもすんなりわかってもらえるぐらいですが、人によっては物足りないでしょうか。

そこで〈新明解国語辞典第8版です。
2020年秋に改訂された最新版です。

新明国文化

「その人間集団の構成員に共通の価値観を反映した、物心両面にわたる活動の様式(の総体)。また、……」
長。iPhoneの一画面に収まりきっていません。文字を追うと、「ただし、……」以下の補足が実に長い。限定された意味での「文化」、逆に広い意味での「文化」などが解説されています。
やや極端な例を出しましたが、〈新明解国語〉はしばしば熱い語釈を書き連ねる辞書です。

〈明鏡国語辞典第3版はどうでしょうか?
〈新明解国語〉と同じく昨秋に改訂されたばかりで、新たにアプリに提供された新顔です。

明鏡文化

「ある民族・地域・社会などでつくり出され、その社会の人々に共有・習得されながら受け継がれてきた固有の行動様式・生活様式の総体」
カタめで辞書っぽい説明です。簡潔ながら、〈新明解国語〉(の最初の2文)と〈三省堂国語〉で記述されていた情報は、この1文でほぼ押さえているようです。

では、最後に〈大辞林〉4.0(≒第4版)は?

大辞林文化

「〔culture〕社会を構成する人々によって習得・共有・伝達される行動様式ないし生活様式の総体。……」
これも、いかにも辞書という感じですが、具体例や学術的観点からの解説も加わり、〈明鏡国語〉より詳しいものです。
ただ、よく見ると〈三省堂国語〉が「外国文化・町人文化・言語は文化を反映する」、〈明鏡国語〉が「文化遺産・地方文化史」と示していたような用例は、〈大辞林〉には見当たりません。

Q: 〈新明解国語〉の「文化」も例文なかったみたいだけど。
A: 実は多数ありました。画面に入りきっていませんでしたが、左の方に。

まずは辞書ごとに記述が全く異なるという事実がおわかりいただけたはず。自分の感触に近い辞書はあったでしょうか。



差異に迫るべく、いま少し引き比べます。

📚国語辞書4種引き比べ【平気】

【平気】の項目を、今度は〈大辞林〉から。

大辞林平気

「物事に動じない」などニュートラルな言い回し。語義の②は古い意味で、福沢諭吉『福翁百話』から例文を取っており、③も普段使いでない特殊な用語としての「平気」を解説したりしています。
「大丈夫」の意味で使われることや、「平気、平気」といった言い方があることも末尾の括弧内で示し、幅広い説明になっています。

Q. 何かさっきより画面の文字小さくない?
A. 設定で文字サイズを変えました。なお背景色も白、セピア(ベージュ)からから選べます。本記事のスクショはすべてセピア。また、iPhone/iPadをダークモードに設定すると背景は黒くなります。

〈明鏡国語〉だとどうでしょう。

明鏡平気


ぐっと簡潔。〈大辞林〉が補足に回していた「大丈夫」的な使い方は、語義②にて扱われています。
手短にまとめられた語釈は、語義①②とも気取らない文体で的確に意味を分析します。

Q. てかフォントが違うのでは?
A. この〈明鏡国語〉だけは見出し・本文ともゴチック体。それ以外の国語辞書は明朝体です。これは変更できません。なお、〈明鏡国語〉は他よりやや行間が広く表示されます。

さて、〈新明解国語〉は?

新明国平気

「外的事情」「悠然として」など、しかつめらしい文体です。
語義は区分せずひとつにまとめられており、特殊な意味は説明対象外です。「運用」欄では〈大辞林〉同様に「平気、平気」という言い方があることのほか、「平気で(遅刻する)」の使い方には非難の意味合いがあると教えてくれます。細かいニュアンスの説明に熱心です。

Q. 「平気の平左」の後ろにある[5]って何。
A. 話すときに「ヘイキノヘイザ」と、「5」文字目の次でピッチが低くなるよ、ということです。見出しの後ろにも[0]とありますよね。これは「平板で読む」の意。先ほどの〈大辞林〉も同様で、〈大辞林〉と〈新明解国語〉はアクセント表示つきです。
なお、〈新明解国語〉は(▶)ボタンで音声を聞くこともできます。百見は一聴に如かず。

最後に〈三省堂国語〉

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説明がごく短く4分割されています。意味の根っこから大づかみに捉える〈新明解国語〉とは対照的です。
また、④の「相場が五円ぐらいは平気で動いている」というときの「平気で」は、「平気で遅刻する」ともまた違って、人間以外にも使えてしまう比較的新しい用法。このように、時代とともに変化する微妙な意味合いや使い方にも敏感なのが〈三省堂国語〉です。

Q. 「平気で」って「簡単に」の意味で使っていいんだ。
A. ③④先頭には〔俗〕とあります。これは、俗語としての意味、ってことです。だから、フォーマルな文章でこういう使い方をすると、ふさわしくないという可能性もありますね。



もうひとつ見てみます。

📚国語辞書4種引き比べ【桜】

まずは〈明鏡国語〉

明鏡桜

詳しい。後述する〈大辞林〉と同じかそれ以上の情報量です。姿かたちや品種だけでなく、「花といえば桜をさす」「国学者などによって日本を象徴する花とされる」と文化的側面にもふれ、用例は古今集から業平の歌を引いており、読みごたえがあります。
【桜】以外でも〈明鏡国語〉は動植物にたっぷり行数を当てて説明する傾向にあります。

Q. 一文目にある「菊咲き」って何? 〈明鏡国語〉には載ってないけど。
A. そんな日もある。

お次は〈三省堂国語〉

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短い語釈の中に、「花を一面に美しくひらき、散りぎわがいさぎよい」と日本語話者が桜に抱くイメージ(=「桜」という語から漂ってくる語感)を説明し、また〈明鏡国語〉同様に「花見の対象」「木材は建築・家具に」など生活との関わりを書いています。

Q. 「桜咲く」じゃなく「桜散る」の方を例文にするのはどうなの。
A. 私に言われましても……。

新明国さくら

同様に〈新明解国語〉も短めながら、植える場所の列挙がいやに細かい(そして何となくソメイヨシノばかりに目が向いているような気もします)。独自の「かぞえ方」欄は実用的かつ、豆知識として読むにも面白いでしょう。

Q. 「桜餅に用いる葉の取引上の単位」の数え方情報、要る?
A. いや、それは……。

大辞林桜

〈大辞林〉です。また詳しい。「バラ科サクラ属、スモモ属の……」と植物としての桜の分類や性質に始まり、歴史、食文化、品種の説明、そして春の季語であることまで続きます。さながら小型の百科事典のような解説です。

Q. 「桜えび」とか「桜貝」はこっちにはないの。
A. iPhoneの画面に入りきっていないだけで、〈大辞林〉の「桜〇〇」は他の辞書よりもいっぱいありますよ。



ここまでのあらすじ

以上の4辞書について一旦まとめます。

🍲具だくさんの〈明鏡国語辞典〉

上で紹介しきれていませんが、アプリでは何と類語欄が項目の末尾についています。これは書籍版にはないデジタル版だけの機能です。例えば「永遠」を引いてみます。

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果てしない時と、非常に長い期間というふたつの意味に対して、意味の似た語群が添えられています。
また、ことばを使うときの注意点をよく解説してくれるのも特長。ここでは「永遠と」は誤用であると注意を促しています。読書のときだけでなく、作文で大いに活用したい辞書であると言えましょう。
「ことば探求」欄や「利活用索引」などについては公式の紹介もぜひお読みください。第3版は2020年に出たばかりの最新版です。

毎日新聞の記事も詳しいです。

🍜こってり風味の〈新明解国語辞典〉

ことばを根っこから捉え、ただの言い換えで済まさず根本的な意味に迫ろうとする、熱い辞書〈新明解国語〉。見ていて飽きません。
とは言え、決してただのオモシロ辞書ではなく、情報がたっぷり詰まっています。アクセント文法運用欄など、〈明鏡国語〉とは違った形でことばを指南してくれるのです。
第8版は2020年に出たばかりの最新版です。

なお、毎日新聞がこれまた詳しく取材しています。

🥗あっさり風味の〈三省堂国語辞典〉

読みやすく誰にでも親しみやすい説明ながら、ことばの変化まで敏感にとらえて映しだそうとするのが〈三省堂国語〉です。
こう言うと、新語ばかり追いかけていると思われるきらいがありますが、そうでなく観察力が鋭い。この辞書は例えば、「縁日」が「露店」の意味で使われることや、「カーキ色」が「緑がかったグレー」をも指すことを説き、あるいは世の中に「合い盛り」「目ばちこ」「人繰り」ということばがあることを教えてくれます。

編纂者のひとりである飯間浩明先生への取材記事がこの辞書の姿勢を知るには好適でしょう。


🍱幅広く、詳しい〈大辞林〉

ある意味でオーソドックスな、ミニ百科事典的な解説も正面から手がける辞書が〈大辞林〉。
項目数は約27万項目もあって引いたときの「空振り」率は低い。古語・新語・時事用語にも強く、どんな項目でも載せます。また、人名や国名などの固有名詞が欲しいなら〈大辞林〉です。

大辞林ノートルダム

例えば、画面左側の【ノートルダム大聖堂】。場所や建築様式、特徴を簡潔に紹介。〈大辞林〉4.0は2019年9月にリリースされた新しい版ですが、「二〇一九年失火により被災」という情報も収録されています。画面右側には親項目の「ノートルダム」。「我らの貴婦人=マリア様」の意味なのか、パリ以外にも同名の教会があるのか……と理解が深まります。

例によって毎日新聞のインタビュー記事があります。

見てきたように、ひとくちに「国語辞書」と言ってもそれぞれ違った態度でことばの説明に臨んでいます。どれが正しい、間違い、という話ではなく、色々なやり方があるわけです。
このとき、ことばの説明をひとり(1冊)の意見だけに頼っててよいのだろうか、という点が問題です。

学者芸人で辞書マニアでもあるサンキュータツオ氏は、著書『学校では教えてくれない! 国語辞典の遊び方』にて、辞書1冊に依存することは「非常に狭い世界になってしまう」危険があると言います(文庫p.83)。煽ってますね。タツオ氏いわく、「大人なら国語辞典は二冊持て!」(文庫p.79)。

例えばご自分のテイストに合った説明をする辞書を1冊と、プラスもう1冊を手に入れることで、ことばに対する多角的なアドバイスを手軽にiPhoneやiPadから呼び出せる状態になる。作者不詳、信頼性不明のまとめブログとかではなく、きちんとした相談相手として、質のいい読解と作文のために国語辞書を備えるのは悪くない選択です。

「辞書 by 物書堂」の入手は下記から。

以上です。

Q. あっ、アフィリンク!!!
A. はい。



📚〈精選日国〉とは?

あやうく記事を終えそうになってしまいました。まだ紹介していない国語辞書が1冊ありますね。
〈精選版 日本国語大辞典〉です。

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扱いを分けた理由は、この辞書は他とちょっと違うから。
例えば、誰でも意味を知っている「かわいい」を引いてみると。

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「①あわれで、人の同情をさそうよう」? 何を言っているんだ? いえ、これでいいのです。15世紀の文献に見られる文献の使用例とともに、「かわいい」の原義が示されているのですから。その後②の意味が現れ、いまの意味になってくるのは19世紀です。

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③④でようやく見慣れたような語義が出てきました。

〈精選日国〉は以上のように、その語の意味を時系列順に示し(「歴史的原則」と呼ばれる方式)、「その語がいつからあり、意味がどう変わってきたか」を、証拠となる実例もふんだんに添えながら解き明かしてくれます。
大雑把に言えばプロ用ですが、ことばの歴史について確かな情報を踏まえておく必要のある人には必須でしょう。

Q. かの〈広辞苑〉の「かわいい」も、「①いたわしい。ふびんだ」で始まってるみたいなんだけど。
A. そりゃ、〈広辞苑〉も歴史的原則の辞書ですから。あれは語義の①だけ見てたら使い損ねます。(※〈広辞苑〉は物書堂の辞書アプリにはありません)

🎓プロ用の〈精選日国〉

アプリ(コンテンツ)の定価は8,000円。高。とお思いになりますか。でも、元々の本は1冊16,200円の3巻揃いなので、5万円近くするんですよ。それが1万円足らず、安いもんじゃないですか? 何なら実質無料ですよね???

万人におすすめするものでないのは確かですが、使いでのある辞書です。歴史的な記述のおかげで、「○○の語源は××だった!」なんてありがちな嘘語源の見極めもつけやすくなりますしね……。

Q. 実質無料って言うか、〈精選日国〉って実際無料で引けるようになったとかで辞書マニアが騒いでなかった?
A. アッ、よく知ってますね。でも買った方がいい理由は一応あるんですが、そのへんはまた今度説明させてください。

なお、比較用に〈精選日国〉の【文化】【平気】【桜】【ノートルダム ド パリ】は以下の通り。

日国文化

日国平気

日国桜

日国ノートルダム



おさらいです。

・〈明鏡国語辞典〉……🍲具だくさん。
・〈新明解国語辞典〉……🍜こってり風味。
・〈三省堂国語辞典〉……🥗あっさり風味。
・〈大辞林〉……🍱幅広く、詳しい。
・〈精選日国〉……🎓プロ向け。

すっかり長くなってしまいました。
英語辞書は記事を改めます。

Q. ずいぶん熱心だけど物書堂の回し者か。
A. 勝手に回ってるだけです。物書堂さんの関係者ではないです。

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(※2021年4月現在、通販などはしておりません)


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