学歴

受験業界における学歴についての短い話

『Core Magazine』購読で購読月の有料記事は月額980円で読み放題となります。購読月以外の有料記事は別途購入となります。

学歴で人を判断する。

もちろん、そんなことはできるわけがない。学歴云々は、僕も結構いろんなところで話した気がするので、本質的な深い話はここではしない。ちょっとした軽い話を置いておく。

現状、学歴がそのままその人の能力を示すパラメータではない以上、そこから読み取れるのは、その人の価値観だけである。

たとえば、東大理学部数学科出身とあまり名前を聞かない私立大学経営学部カタカナ学科出身の二人をどう判断するか。

まぁ、話が極端すぎるのでアレだが、ポテンシャルではなく、単に受験当時に本人が東大に行きたいと思ったか、別に名もない私大で良いと思ったか、その違いはわかる。本人がどんな言い訳をつけても構わないが、そう受け取られるのは当然だろう。

別に名もない私大に進学しようが、それこそ大学に進学などしなかろうが、何をもって成功と考えるのかは、本人次第だ。一応大学に進学したとして、お金を稼ぐことが成功なのであれば、どんな大学に行こうが、方法はあるだろうし、アカデミックな道に進みたいなら、「理屈」の上ではどんな大学でも学部で勉強を頑張れば、より学習環境の良い大学院に進学できるだろう。だから、学部レベルの学歴というのは、受験時に本人がどんな価値観を持っていたかの判断にしかならない。家庭環境などの外部要因は考慮しない。どうせ世の中に出たらそんなものは誰も考慮してくれないのだから。

では、さらに学歴のど真ん中、受験業界の話をしてみる。たとえば、物理の先生が二人いたとして、かたや東大理学部物理学科でかたやナントカ大学理工学部物理学科だとする。

講師としてのポテンシャル、物理学への習熟度、そんなものにはたぶん差はない。ちゃんと業務をこなせているのなら。むしろ、ナントカ大出身の方が教えるのがうまかったりするだろう。

ここから判断できることは、受験当時に東大に行きたいと思ったかナントカ大に行きたいと思ったか、だけである。そして、おそらくよほどのひねくれ者(たとえば僕)でない限り、東大とナントカ大両方に合格できる能力があれば、東大に進学することを望む。受験時に求められる能力を見積もるに、東大に進学するのはナントカ大どころか、日本の全大学の中で最も総合的に高い能力が必要だ。ピンポイントで二次試験の科目を捨てる戦略はあるにせよ、センター試験があることまで含めれば総合力は必要だ。それが良いことかは知らない。だから、東大出身の方が、受験当時に総合的な能力があったのだろうということは、わかる。

そして、それ以上のことは、何もわからない。どんな家庭事情があったかもわかるわけがない。だから、別にどちらが上も下もない。

ただし、である。

受験業界というかなり特殊な業界に限って言えば、一科目に特化して能力を磨いた先生が全科目に渡った総合的な指導を行うことは不可能である。つまり、東大の例ばかりで申し訳ないが、理科三類志望の学生にまともに上から指導できる先生というのは、世の中にほとんど存在しないということだ。それは灘などの進学校や予備校の東大レベルのクラスでも、変わらない。だから、理科三類に異常な合格率を誇る鉄緑会という塾は、プロ講師だけでなく理科三類の学生講師を使う。物理だけのプロでは理科三類受験生のニーズを満たせないからだ。

もちろん、自分で総合的な学習を管理していれば、何も問題はない。どんな塾予備校へ行こうが自分でうまく利用すれば良い。だからこそ、理科三類進学者を輩出するような進学校においても、先生は先生をしていられる。生徒は勝手に勉強するからだ。多くの事例は知らないが、高校時代、僕を含めて周りの人間は、だいたいにおいて学校の先生というものに、学力的には大した信頼を置いていなかった。皆、自分達の方が賢いと考えていたし、先生より先輩などとのつながりの方が重要であった。つまり、本当の進学校において、先生というのは、人間性が尊敬できるという話は別として(本当はそれが一番大事だが)、少なくとも教科指導の点では、ただ生徒にうまく利用されるだけの存在なのである。それは、先生も承知しているだろう。

だから、理科三類の合格者数を宣伝に使える塾は、原理的に鉄緑会だけである。しかし、鉄緑会は宣伝をしない。それが、全てを語っている。

最後に、人知れずこっそりぼやいておく。アレな塾の話である。

ここから先は

161字

¥ 100

私の活動にご賛同いただける方、記事を気に入っていただいた方、よろしければサポートいただけますと幸いです。そのお気持ちで活動が広がります。