見出し画像

『クリスマスとよばれた男の子』~本も映画も楽しもう~ レビュー・映画評論家 南波克行さん

クリスマスとよばれた_書影
『クリスマスとよばれた男の子』
作者はイギリスのベストセラー作家マット・ヘイグ

「サンタって本当にいるの?」は、
質問ではなく、子どもたちみんなの「願い」

 小さな子どもは、みんな無条件にサンタを信じてる。でも少し大きくなると、「サンタって本当にいるの?」と聞くようになる。なぜなら、自分の思い通りにならない経験が、少しずつ増えてくるから。
 嫌いなものも食べるように言われるし、ほしいおもちゃも全部は買ってもらえない。我慢するよう教えられるのだ。

 けれどサンタは子どもに我慢を求めない。チョコがほしければ玉ねぎも食べなさいなどと、交換条件も出してこない。
(ちなみにぼくは小さい頃から、キノコと卵が大キライ。今もキライだ。食べられない)

 思い通りにならないこともあると知った子どもは、サンタのような存在を疑わずにいられない。でも本当は絶対にいてほしいと思ってる。

 ならば「サンタはいるの?」という質問は、質問でなく「願い」である。そうした思いを、『クリスマスとよばれた男の子』の主人公、ニコラスは「何かを願う気持ちは、希望といってもいいのかもしれない」と考える。

ドキドキの連続の物語!

 この物語はドキドキの連続。読み始めたら続きが気になってやめられない。
 貧しいニコラスの父ちゃんは、賞金のために謎の生き物エルフを探す旅に出る。ニコラスもあとを追うが、寒さに倒れたり、トロルに食べられそうになったり、次々とピンチがやってくる。

 『クリスマスとよばれた男の子』は映画もある(Netflix配信)。どちらが先でもよいけれど、最初は本をすすめたい。
 
 言葉とは不思議なもので、この本は「信じる」という気持ちと「願う」という気持ちが、同じひとつの目的であることを、文章の力で教えてくれる。
 他にもウソを言えない妖精ピクシーや、乱暴なトロルとのやりとりなど、時には笑っちゃう言葉の面白さも存分に楽しもう。それが読書の楽しさだ。

ポスター
映画『クリスマスとよばれた男の子』ポスタービジュアル

本を読んだら、映画も!

 想像の翼を広げたら、今度は映画も見てみよう。そこでは書かれていたことが、そのまま現実になっている。エルフの街や姿はもちろん、とりわけフィンランドの大雪原。

 ニコラスはこんな広いところを旅してるんだ、北欧の雪ってこんなに白いんだということに、たっぷり驚いてほしい。

 ニコラスの旅の友、ネズミやトナカイのかわいらしさにも、家族全員きっと夢中になれるはず。これが映画の力だ。

 この物語を気に入ったら続編もぜひ。ニコラスが助けた少女アメリアが主人公の、『クリスマスを救った女の子』『クリスマスをとりもどせ!』。さらにパワーアップした面白さで、読み始めたらこれも絶対やめられない。

画像3
「クリスマスは世界を救う!」シリーズ全3巻

 
 『ほんとうのことしか言えない真実の妖精』と、『ほんとうの友だちさがし 真実の妖精のおはなし』は低学年向け。こちらはニコラスやアメリアを時に困らせ、時に頼りになる妖精ピクシーの物語。

画像4
映画でも大活躍する”真実の妖精”がニコラスと出会う前のおはなし

 これらの物語でいちばんの感動は、世界中すべての子どもたちの願いは、クリスマスの日に一点集中するということだ。この日すべての子どもがサンタに願いをかける。
 たくさんの願いがひとつに集まれば、それはすごいパワーになる。そこに奇跡は起こる。それがクリスマスなんだ。
(だから子どもの願いが弱まると、とたんに魔法は力を失ってしまう)

 願う気持ちを決して忘れないこと。それは希望を失うことと同じだから。クリスマスはそのことを思い出すためにある、だから尊いんだと。それが作者の言おうとしたことだ。

 最後に映画に隠された秘密をひとつだけご紹介。 ニコラスの物語を、子どもたちに話しきかせるおばさんを演じるのは、「ハリー・ポッター」のマクゴナガル先生でおなじみの大女優、マギー・スミス。

 彼女の話に、子どもたちが「本当かなあ?」と聞くたび、おばさんは言う。「私は本当のことしか言わないわ」と。

 本を読んだ人は、この言葉にすぐピンとくるはず。チラリと一度だけ見せる彼女の耳にも要注意。

レビュー / 南波 克行(なんば・かつゆき)さん

1966年東京都生まれ。映画評論家・批評家。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。茨城大学教育学部教養科目の授業において年に1度、映画に関する講義も行う。著書に『宮崎駿 夢と呪いの創造力』(竹書房新書)、編著に『スティーブン・スピルバーグ論』『トム・クルーズ キャリア、人生、学ぶ力』(ともにフィルムアート社)、訳書に『スピルバーグ その世界と人生』(西村書店、共訳)など。アメリカ映画を中心に「キネマ旬報」などへも寄稿している。