西満塁

脚本、小説など。

西満塁

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最近の記事

【小説】悲しい太鼓

結婚するはずだったその日に彼女は死んでしまって、悲しい俺は太鼓を買った。 仕事をやめて、アパートを引きはらって、人里離れた山小屋にこもり、太鼓を叩いた。 悲しみを忘れるため、無心で叩いた。 正しい叩き方を知らなかったから、出鱈目に叩いた。 出鱈目に叩くのに飽きたので、いろいろと工夫するようにもなった。 右手左手に加えて、右足左足や頭や尻を使って、いろんな順番で、いろんなふうにして、いろんなリズムで叩いた。 やがて、俺だけの叩き方をみつけた。とってもきもちのよい音がする叩き

    • 【小説】夢のある暮らし

      ある日、夢をみつけた。 いつも服のポケットにいれて暮らした。 ときどき取り出して、眺めたり、撫でたりした。 やわらかくて、すべすべして、かわいかった。 いつのまにか夢は膨らんだ。 ポケットにはもう入りきらなくて、リュックサックにいれて持ち歩いた。 背負っているだけで、よい気分でいられた。 夢は膨らみ続けた。 もう持ち歩くには大きすぎて、部屋に置いておくことにした。 部屋にいるときは夢を抱いた。 とても抱き心地がよくて、気持ちが落ち着いた。 夢はさらに膨らみ続けた。 部

      • 【小説】NYC 2003-トムとナンシーの現在地

        土曜の夜。 俺はバスルームにいて、生まれたままの姿で、 鏡に向かってInterpolのヴォーカルの物まねをしている。 感情を殺す。頭を小刻みに揺らす。 喉の奥のほうを、震わせて、歌う。 ドアをノックする音がして、我に返る。 すこし開いたドアの向こうでナンシーが手で口を押さえて笑っている。 ナンシーがうちに帰ってきていたことに俺はちっとも気がついちゃいなかった。 「トム、いつまでそんなクレイジーなこと続ける気?」ナンシーが言う。 「Radio City Music Hallを黒

        • 【小説】村上春樹でつかまえてーまたは、2003年のグレゴール

          やれやれ。 僕は39678回目の「やれやれ」を言い終えると、いかにもうんざりしたといった、閉館間際の貸出カウンターに並んだ列を眺める図書司書みたいな面持ちでその青年に語りかけた。 「また来たのかい」 「また来ました」 「迷惑なんだ」 「僕だって困ってるんです」 「何度もダメだと言っただろ」 「あきらめきれないんです」 「無理なものは無理なんだ。帰ってくれないかな」 「お願いしますよ」 青年は眉間にしわを寄せ上目遣いに僕を見てそう言った。 「ねえ君、世の中にはどうしても無理なこ

        【小説】悲しい太鼓

          【脚本】初体験/フライング・ハイ

          ○ビルの高層階にあるオフィス(夜) 残業時間帯で人がまばら。 三上公平(29)が窓の外を眺めている。ビル群の夜景と満月。 立野誠(27)が背後から声をかける。 立野「なんか面白いもの見えます?」 公平「月が綺麗なんだよ。あと誰か飛んでないかなって」 立野「何言ってんすか。先帰りますよ。おつかれっした」 公平「おつかれ」 ○住宅街の道(夜) 三上公平(14)が自転車に乗っている。 蛙のなき声。 通り沿いの住宅の窓からナイター中継の音。家族が食卓を囲み団欒す

          【脚本】初体験/フライング・ハイ

          【脚本】おれんちのオレンジ

          〇香取洋介宅(夜) 木造モルタルアパート、畳の部屋。 ちゃぶ台をはさんで、上下スウェットで寝ぐせボーボーの香取洋介(39)と、身なりのよい服装の山本順子(42)が向かい合って座っている。 洋介は煙草を吸っている。 洋介のまわりに、くしゃくしゃにされた原稿用紙やペンががちらばる。 日本酒の一升瓶が転がる。 ちゃぶ台の上にオレンジがひとつ置かれている。 洋介「それで、うちの妻とあなたのご主人が、同じ職場で同じ日に無断欠勤したまま行方不明になったから、二人は駆け落ちしたに違

          【脚本】おれんちのオレンジ

          【脚本】世界の終りが終わったら

          ○丘の上 眼下に街を見渡せる。団地、学校、駅、デパートなど。 峰川朋子(17)が腕組をして立っている。 その足元そばに体育座りをした小泉浩太(17)。 朋子は学校の制服姿。白いシャツの上にブレザー。 浩太は全裸で、左腕にデジタル式の腕時計だけをしている。 朋子「まだなの?世界の終わり」 浩太「まだ」 朋子「何時なの?世界の終わり」 浩太「3時ちょっとすぎ」 朋子「ちょっとすぎってなによ。ちゃんとわかんないの?」 浩太、無言。 朋子、ため息。 朋子「ねえ、そ

          【脚本】世界の終りが終わったら

          【脚本】純文学屋の女房

          ○商店街 自転車に乗った学生服姿の石丸英介(17)が人を避けながら、スイスイと進んでいく。 やがて路地裏へと入っていく。 ○路地裏 とある店の前で自転車を止める英介。 のれんをくぐり、引戸を開けて、店の中に入っていく。 のれんには毛筆で、「純文学屋」と書いてある。 ○純文学屋・店内 カウンター席だけの店内。 カウンターの中には原田道雄(52)がいる。 道雄が英介に気がつき、威勢よく言う。 道雄「らっしゃい」 英介、会釈をして席に座る。 道雄が英介にお

          【脚本】純文学屋の女房

          【脚本】ラヴビームアタック大作戦

          ○私立たま女子学園 校門 「私立たま女子学園」の表札の横を、西田杏奈(17)が駆け抜ける。 始業のチャイムが鳴っている。 ○私立たま女子学園 2-B教室 騒がしい生徒たち。 教室の扉が開き、校長の武田康夫(59)が入ってくる。 一瞬だけ静かになるが、また騒ぎ出す。 武田、大きな声でいう。 武田「エー、皆さん、今日から子のクラスの担任が変わることになりました」 生徒たち、静かになる。 武田が下山田光雄(28)を招き入れる。 武田「こちらの下山田先生が今日か

          【脚本】ラヴビームアタック大作戦

          【脚本】ザ・トリアエズのこと

          ○バー「びいひあなう」店内(夜) モンタN「ザ・トリアエズの結成は俺の思いつきからはじまった」 場末の酒場。店の隅にはステージがあり、ドラムなどバンドセットがある。バーカウンター内に仏頂面のマスター(60)がいる。 テーブル席ではべろべろに酔っぱらった四人の男、モンタ(23)、ペースケ(21)、カイ(22)、ゴッチ(24)がにやにやご機嫌な様子で話をしている。 モンタ「俺たちでバンドをはじめよう」 ペースケ「仕事も金もないけど、時間だけはあるもんね」 カイ「誰も楽

          【脚本】ザ・トリアエズのこと