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[小説]嘲笑いのニャンス(ショートショート)
上司に叱られた。
彼は自席にどかっと座り、足を前に乱暴に投げ出していた。
私はその横に立ち、手を前に結んで下を俯いて話を聞く。
主に言葉遣いや態度について指摘されているようだった。指摘された点には覚えがあり、上司の仕草に萎縮しつつも、内容には反省しながら耳を傾けていた。
でも、“あの言葉”を聞いた瞬間から、上の空。彼の言葉が、右耳から左耳に抜けるように、流れてく。
「君の言葉には嘲笑い(あざわらい)の“ニャンス”があるんだよね。」
ニャンス。はて。ニャンスとは…。
私の頭には、憎たらしくもかわいらしい“ねこのキャラクター”が浮かんでしまった。
ニャンス。
嘲笑いのニャンス。
ニコニコのニャンス。
口元光るニャンス。
踊るニャンス。
「今日はニャンス君、いいことあったみたい。だってニコニコしているもん。」と村の娘。
「たしかに、ニャンスはいつも嘲笑いの表情だもんなぁ。」と村の青年。
「しかも、ニャンス。あやつ踊っておるぞ。」と村の長老。
「よく見て!口元が光っている。アイスでも食べたんじゃない?」と村の少年。
口元光らせ、ニコニコ踊るニャンス。
そんなニャンスを中心に、村人たちも踊りだす。
鳥が飛び立ち、木々がざわめく。
暖かな陽気に照らされ、
今日もニャンスは…
「…話聞いてる?」
上司の言葉に、はっとして我に帰る。
「あ、えと」
そう言いつつも、脳裏には嘲笑いのニャンス。
つい、くすりとにやけてしまった。
「ほら、それだよ。その表情に嘲笑いのニャンスが出ているんだよ…」
「え、出てます?ニャンス」
私はねこのニャンスがバレたかと、驚いて聞き返す。
「…出ちゃってるよ。
君のその、
人を小馬鹿にしたような、
嘲笑いの…
ニュアンス」
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