医療系廃棄物、という難物

 世界中でコロナウィルス対策が進んでいる。日本でも、スーパーやコンビニでレジの前に透明なフィルムがぶら下げられ、医療現場では使い捨てのガウンや手袋、フェイスシールドなどが使われている。多くは使い捨てプラスチックが用いられているが、医療現場からは廃棄されるとき、医療系非感染性廃棄物として通常のゴミとは別括りで捨てられている。

 実は「医療系廃棄物」と言う括りに入れられるのは、何も使い捨てプラスチックばかりではない。従来から医療現場で使われている金属製のもの、例えば注射針やメスなども含まれるし、ガーゼなどの繊維・不織布・脱脂綿なども少なくない。これらは「感染性廃棄物」ということで分別されており、廃プラ系の廃棄物とは区別され、厳重な処理がされている。

 コロナウィルスでその量が急増すると思われる医療系の廃プラは、多くの場合単純に焼却処理されてゆくことになると思われる。この点について、リサイクルを含む再利用の話は全くもって議論されていない。医療系(特に感染性の)廃棄物をリサイクルすることへの忌避感がどの程度強いのか、またリサイクルしたところで市場はあるのかと問われれば、あまり考えなくても否定的な見解しか出てこないだろう。

 ポリエチレンなどのプラスチック素材に限って言えば、衛生面の管理は比較的しやすいのではないかと思われる。プラスチックの使い捨てガウンや手袋は、熱消毒でウィルスや細菌を不活性化することができるし(そもそもカテゴリーとしては「非感染性廃棄物」だ)、もしもリユースが難しいとするならば、最低限ケミカルリサイクルにかければ品質的に全く劣らないものが再生しうるわけで、技術的な検討の余地は十分あるような気がする。

 問題はバージン材の安さと安定供給力にある。最近になって世界のエチレン製造設備は昨年に比べて能力比で6割ほど増強された。供給のだぶつきによる原油安に加えて、エネルギーとしての用途が限られ、石油化学市場の優先度が高まったことに加え、世界中でコロナ対策用にプラスチック資材の需要が高まったことが背景にある。安く、安定的に供給可能なバージン材があるのに、どうして再生材を使わなくてはいけないのか?

 欧州など廃プラ対策の先進地域では、一時期悪者扱いされていたワンウェイプラスチックがコロナ対策として再度脚光を浴びている。他方で廃プラ対策が遅れた日本では、皮肉なことにようやくレジ袋の有料化が始まろうとしている。このせいもあってか、日本のエチレン設備の稼働率は低いままだったりするらしい。

 サーキュラーエコノミーを議論するとき、どうしたって避けて通れないのがバージン材との関係に関する議論だ。コロナ後のニューノーマルを考える中で、ワンウェイプラスチックとそれによる便益をどのように評価し、サーキュラーエコノミーとどのように折り合いをつけてゆくのか。視野をしっかり広く持ったうえで、議論に抜け漏れのないよう注視して行きたいと思う。

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