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交わる2つの運命


毎日更新273日目。

昨日のバイト終わり、僕は自転車を爆走させオリジン弁当に向かっていた。

22時前に出現する半額セール品を手に入れるためである。

前日、映画を観たりポップコーンを食べたりでかなりの贅沢をしたので、こういう何でもない日に出来る限り節約をしないといけないのだ。

オリジンの半額シールの威力は凄まじい。

美味しい弁当やおかずが驚きの価格で手に入るのだ。

しかし、その分売り切れる速さも凄い。

タイムセールの時間になるとそこら中のうだつの上がらないおじさん達が一斉に群がるのである。

食うか食われるか、あそこにいる人達は皆ハンターの目をしている。

我先にと半額品に手を伸ばすのである。

まるでサバンナの野生の動物達の様に毎夜熾烈な生存競争が行われているのだ。

何を隠そう私にっしゃんもそのうだつの上がらないおじさんの1人、すなわちハンターなのである。


というわけで、自転車を爆走させ、息を切らしながら僕はオリジン弁当に到着した。

外から見た感じ、あとまだ少しだけ半額品は残されている。

急がなければ!と入店しようとした瞬間、、、

僕の横をそそくさと50代ぐらいのおじさんが追い抜いていった。

間違いない。

彼もまたハンターである。

獲物を狙う鋭い目をしていた。

早くしないと根こそぎ持っていかれてしまう。


こうして僕も入店し、最初に店内をぐるりと見渡した。

どんな半額品があるか瞬時に見極めるためである。

するとこの日は弁当は無く、おにぎりといくつかのおかずが半額となっていた。

僕は頭の中で組み合わせをシミュレーションした。

そしてすぐ「おにぎり2つとおかず2つのセットでいこう」と決めた。

まずはおにぎり2つをパパッと選び、あとはおかずである。

置いてあるおかずで一番魅力的なのは「サクサクチキン竜田」

あれともう一品を組み合わせればいいセットになる。

あの大きい方のサクサクチキン竜田を取ろう。

そう思い、2つあるサクサクチキン竜田の大きい方を取ろうとした瞬間

僕の横からニュッと手が伸びてきた。

さっきのおじさんである。

彼もまた大きい方のサクサクチキン竜田を狙っていたのだ。

同時に手を伸ばす2人。

そして、、、


サクサクチキン竜田の前で2人の手と手が触れ合った。


「あっ、、、」となる2人。

昔の恋愛マンガとかでよくある、男女が本屋で同じ本に手を伸ばそうとして手と手が触れ合い、運命の出会いとなるシーンである。

それのサクサクチキン竜田おじさん2人版が起こってしまったのだ。


固まる2人。

共鳴する魂。

今、交わる2つの運命。

別々の道を歩んできた2人の人生がサクサクチキン竜田によって今、交差したのだ。

これを奇跡と言わずに何と言おうか。


僅か数秒の出来事がまるで永遠のように思える。

手を伸ばしたまま固まる2人。

2人の考えている事はきっと同じ。


「このサクサクチキン竜田、どっちが取るの??」


するとおじさんが「あ、どうぞ」と僕に譲ってくれた。

そして自分は少し小さい方のサクサクチキン竜田を手に取った。

すまん、おじさん。

ありがとう、おじさん。

心していただきます。


こうして僕はおにぎり2つ(塩・鮭)とサクサクチキン竜田と青椒肉絲(牛肉とピーマンの細切り炒め)を持ってレジに並んだ。

僕の前にはさっきのおじさんが並んでいる。

何気なくおじさんが手に持っている品をチラッと見た。

するとおじさんは

おにぎり2つ(塩・鮭)とサクサクチキン竜田と青椒肉絲(牛肉とピーマンの細切り炒め)を持っていた。


まさかの全く同じセット。

少ないおかずの中から選んでいるので、起こり得る事ではあるのだが。

これから帰って僕とおじさんは全く同じ物を食べるのである。

同じ時間に同じ物を食べるのである。

何だろう。

この不思議な気持ちは。

この胸の高鳴りは。

この気持ちに何と名付けたらいいのだろう。

そう。

この気持ちに名前を付けるなら

きっとこれは

「何かイヤ」


こうして僕は大きい竜田を譲ってもらったくせにめちゃくちゃ失礼な事を考えながら家に帰った。

まあていうか向こうもイヤだろう。

おじさん、ほんとすいません。

家に帰ってすぐ、手に入れた半額品をむさぼる様に食べた。

食べながら思った。

おじさんも今頃むさぼる様に食べているのだろうか。

おかずもおにぎりも美味しかった。

食べ終わり、一服し、僕は空を見上げながら思った。

「きっとまた会える」



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