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2017年J1第17節 川崎フロンターレ対ヴィッセル神戸 レビュー「鬼木監督はなぜエウシーニョを交代させたのか」

2017年Jリーグ第17節、川崎フロンターレ対ヴィッセル神戸は5-0で川崎フロンターレが勝ちました。

ヴィッセル神戸は守備の時、4-4-1-1というフォーメーションで守ります。川崎フロンターレは攻撃の時はエドゥアルド・ネットが谷口とエドゥアルドの間に下がります。ヴィッセル神戸はこの動きに対して、FWの田中がエドゥアルドとエドゥアルド・ネットの間に立ち、エドゥアルド・ネットに対しては小林、大島には三原が対応します。小林も三原もマークする担当が決まっていたようです。

この守備には2つの意図が込められています。

ヴィッセル神戸の守備の意図を軽々と上回る

1つ目は、エドゥアルド・ネットと大島という2人をマークして、川崎フロンターレの敵陣にボールを運ぶプレーを遅くしたり、ミスを増やそうと考えていたのだと思います。そして、2つ目は、エドゥアルドにボールを持たせたかったのだと思います。

川崎フロンターレのDFは全員ボールを扱う技術に優れているのですが、誰が一番劣っているかと言われ、敢えて挙げるとしたらエドゥアルドです。エドゥアルドは左足のキックは素晴らしいのですが、右足のキックは精度が低いので、左足で出すパスコースを消され、右足でボールを扱わなければならなくなったら、精度が落ちます。ただ、それも谷口というJリーグで最もパスが上手いセンターバックと比べたら、という話しです。

プレビューでも取り上げた、2016年Jリーグセカンドステージ第14節ではエドゥアルドにボールを持たせる作戦が成功しました。しかし、今節ではエドゥアルドは当時起用された中央ではなく、左センターバックで起用されており、左足でパスを出しやすい場所でプレーしていました。

また、エドゥアルドがボールを持ったら、素早く左MFの登里と左サイドバックの車屋が顔を出し、エドゥアルドのパスを受けてくれたので、ヴィッセル神戸の守備を外す事に成功します。エドゥアルドもエウシーニョへのロングパスを出すなど、ヴィッセル神戸の守備を逆手にとったプレーを披露します。

つまり、川崎フロンターレとしてはヴィッセル神戸が何をしてくるかは、事前に分かっていたし、対策も済んでいたというわけです。ヴィッセル神戸の狙いは失敗に終わります。

川崎フロンターレはヴィッセル神戸の対策を上回るプレーを披露します。エドゥアルド・ネットと大島に対して、ヴィッセル神戸が守るべき場所を捨ててでも対応してくるとわかると、エドゥアルド・ネットと大島はわざとセンターサークルから離れた場所に移動します。

2人につられてヴィッセル神戸の選手が移動したことで、センターサークル付近には大きなスペースが生まれます。このスペースで、阿部と登里が上手くボールを受けます。中村はわざとスペースを受けるために、MFとDFの間に立ち、小林はDFの背後を狙い続けます。ヴィッセル神戸としては、スペースが空いている事は分かっていても、小林と中村を警戒してスペースを埋めにいけません。

たぶん、川崎フロンターレは過去の対戦からヴィッセル神戸がどんな対策をしてくるのか、よく分かっていたのだと思います。風間監督は相手の対策より、自分たちがやりたい事をいかに実現させるかを優先させていましたが、鬼木監督は相手の戦い方を踏まえて、やるべき事をきちんと選手に授け、実行させています。

もちろん、風間監督が5年間かけて選手に「どう戦うか」を繰り返し教えてきたからこそスムーズにプレー出来るのですが、鬼木監督の手腕も大きいと思います。今のところ明らかに失敗したといえるのは、第9節のセレッソ大阪戦だけです。

阿部のような選手の事を「スーパーな選手」というのだ

相手を見てプレー出来る選手が11人揃っているチームは強いなと、名古屋グランパスの試合と比較すると感じるのですが、特に相手を見てプレー出来る選手として取り上げたいのは阿部です。2017年シーズンのレビューでは、何度も阿部の凄さについて書いてきましたが、何度取り上げても足りないくらい凄い選手です。

阿部の凄さは、「いつ」「どこで」「何を」「どのように」プレーすればよいかよく分かっている事です。ドリブル、パス、シュート、左右のキックといったボールを扱うプレーの質が高く、相手からボールを奪う守備も、興梠と並んでJリーグで最も上手いFWと言ってよいくらいだと思います。

そして何より凄いのは、90分通して同じクオリティでプレー出来て、場面に応じて何をすれば良いのかという選択にミスがなく、そしてプレーが途切れさせる事なく、動き続けることが出来る。こんなスーパーな選手がJリーグにいるとは思いませんでした。そのくらい、阿部のプレーには衝撃を受けています。

僕の興味は「阿部がどのくらい最終的に得点を取るのか」というより、阿部や浦和レッズの興梠といった本当にチームのためにプレーできるFWを、ハリルホジッチが日本代表に選ぶのかという点に移っています。

2人とも身長は小さいですが、ボールを扱う技術に優れ、守備も上手く、何より相手を見て戦える選手です。個人戦術に優れた選手は、1人で何人もの選手を相手に出来ますが、阿部や興梠は日本で数少ない個人戦術に優れた選手です。しかも、攻守両面において隙のないプレーが出来る選手です。僕はワールドカップで勝ちたいなら、彼らのような個人戦術に優れたプレーヤーを選ばないと勝てないと思います。

阿部も興梠もこのまま得点を奪い続けていれば、ハリルホジッチも無視できなくなるはずです。このまま活躍し続けて、2人とも日本代表に選ばれて欲しいと思います。

動きが止まらなくなりつつある家長

この試合で気になったのは、家長の動きです。ほぼ勝負が決まった段階で出場しましたが、よいプレーが出来ていたと思います。何よりよかったのは、プレーを終えた後に、次のプレーに移るまで動きを止める事なく動き続けていた事です。

家長はボールを保持している時の動きは素晴らしい選手ですが、1つプレーすると、動きを止めてしまい、次のプレーに移るまでに時間がかかる選手でした。ところが、今節のプレーを観ていると、まだまだ阿部のクオリティには及びませんが、大分改善されてきているように感じます。

家長がボールを受けたら素早く次のプレーに移り、ボールを離した後も次のプレーの準備を怠らず、動き続ける。これが出来れば、今でも日本代表に選ばれてもおかしくない選手です。プレータイムは少ないですが、これからの戦いに欠かせない選手です。家長のプレーがどう変化するのか注目したいと思います。

鬼木監督の考えがよく理解出来たエウシーニョの交代

5-0で勝ちましたが、1試合少ないとはいえ、首位の柏レイソルとの勝ち点差は5。これからも勝ち点差を詰めていくためにも、勝利が必要になりますが、チームに油断はありません。

印象に残ったのは、エウシーニョが4-0になった後に右サイドからペナルティエリアに侵入して、シュートが打てる場面だったにもかかわらず、より確実にシュートを打とうとしたのか、必要以上にボールを保持しすぎてチャンスを逃しました。直後のヴィッセル神戸の攻撃はピンチになりかけたのですが、阿部がエウシーニョのポジションに戻ったので、ピンチにはなりませんでした。

その直後、鬼木監督はエウシーニョを田坂と交代させています。鬼木監督としては、これから勝ち進むにあたって、僅かな気の緩みも逃してはならない。そう考えたからこそ、エウシーニョを交代させたのだと思います。

何でもない交代に思えるかもしれませんが、あれは一種の懲罰的な交代です。エウシーニョはたぶん休み明けの練習で、鬼木監督に交代の意図を説明されると思いますし、僕が監督なら同じように交代させて気がします。この場面を観た時、僕は鬼木監督なら大丈夫だろうなと思いました。

何気ない交代かもしれませんが、こんなところにチームとしての状態や、監督の力量がうかがえたりします。次は浦和レッズ戦。簡単に勝てる相手ではありませんが、中3日でどのように準備し、どう対応するのか。楽しみです。


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