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2017年J1第24節 ヴァンフォーレ甲府対川崎フロンターレ レビュー「鬼木監督はなぜハイネルにこだわるのか」

2017年Jリーグ第24節、ヴァンフォーレ甲府対川崎フロンターレは2-2の引き分けでした。

この試合のプレビューで、僕はこんな事を書きました。

この試合は、先制点を川崎フロンターレが奪えれば、川崎フロンターレのペースで試合をコントロールすることが出来ると思います。ただ、0-0で後半30分頃を迎えた時、川崎フロンターレがどのように対応するのかに僕は注目しています。ヴァンフォーレ甲府の守備を考えると、十分そんな試合展開も考えられるからです。

プレビューで書いたことは、外れた部分もありますし、当たっていた部分もあります。外れたのは、先制点を奪えれば試合をコントロール出来るのではないかと考えていた事です。ヴァンフォーレ甲府の戦い方は想定していましたし、コンディションが悪いのは理解していましたが、守りきれるのではないかと考えていました。ところが、そうはいきませんでした。そして、当たっていたのは、後半30分頃に選手交代をどうするかが問われる試合になった事です。

ヴァンフォーレ甲府の戦い方については、様々な記事で書かれているので、敢えて割愛します。今回のレビューでは、僕が気になった事にフォーカスして書きたいと思います。それは、「鬼木監督はなぜハイネルを起用するのか」です。

全くよいプレーが出来なかったハイネル

ハイネルは後半20分に、中村に代わって入りました。ハイネルが入ったことで、家長が中央に移ります。ところが、この交代が全く機能しません。家長もあまり中央でボールを受けられませんでしたが、問題だったのはハイネルです。

ボールを受ける、相手を外すというプレーをほとんどせず、ただ立っているだけ。味方がボールを持ってから動き出すので、味方としては動くタイミングが遅く、攻撃のテンポが遅くなってしまいました。

ただ、ボールを受ける動きや、相手を外す動きに問題があっても、ハイネルの強みであるスピードを活かしたドリブルで相手陣内にボールを運んでくれればよかったのですが、ドリブルを試みようとしても、相手に進みたいコースを塞がれ、スピードを落としてしまい、ボールを奪われてしまいます。これでは、なんのためにハイネルを入れたのか分かりません。

ハイネルが起用された理由

鬼木監督がハイネルを起用したのは、ボールを相手陣内に運んでもらいたかったからです。ヴァンフォーレ甲府は、5-3-2というフォーメーションで守っています。中央エリアは守備が上手い3人の選手が上手く守っているだけでなく、FWの堀米がエドゥアルド・ネットの背後からボールを奪いに来るので、余裕をもってボールを運ぶ事が出来ませんでした。

だから、サイドからドリブルでボールを運びたかったのですが、スタメンの選手のコンディションが悪く、なかなか上手くいきません。そこで、スピードがあるハイネルに、相手陣内にボールを運んで欲しかったのです。ところが、全くハイネルは期待に応える事が出来ませんでした。試合終盤は居場所をなくして、中央でボールを受けようとしていましたが、ハイネルが中央にいても、相手にとって何も怖くありません。

カウンターでゴールが奪える選手が欲しい

ハイネルを鬼木監督がしつこいくらいに起用するのは、「カウンターでゴールを奪える選手が欲しい」からです。1-0でリードしている時、敵陣でボールを保持して攻撃し続ければ相手に攻撃される事はありませんが、敵陣でボールを保持し続けるという事は、敵陣深くに多くの選手を送り込まなければなりません。敵陣深くに多くの選手を送り込むという事は、自陣の守備に割く人数が少なくなるということを指します。

特に、この試合のようにコンディションが悪い試合では、普段出来ているパス交換が上手くいかずにボールを奪われる事があります。ボールを奪われる回数が多ければ、ゴールを奪われる確率も高くなります。理想は、相手のボールを奪ったら2人から3人で攻撃して、残りの選手は守っている。もしくは体力を使わずに休んでいるような状態です。

こうした、2人から3人で攻撃するというプレーが、川崎フロンターレは苦手です。なぜなら、ボールを保持する時間を長くして、出来るだけ成功率の高いシュートチャンスを作り出そうとする攻撃と、素早く相手陣内に入って攻撃するという攻撃に求められる能力が少し異なるからです。後者では、ボールを素早く相手陣内に運ぶ能力や、速く走る能力が求められます。川崎フロンターレで、ボールを素早く相手陣内に運ぶ能力と、速く走る能力に長けているのがハイネルです。だから、鬼木監督はハイネルを起用するのです。

スタメンの選手はカウンター攻撃が上手くない

鬼木監督が後半20分以降の戦い方として、新たにチームに求めているのは、「少ない人数で攻撃して得点を奪う」事だと思います。3連覇したころの鹿島アントラーズは、興梠とマルキーニョスの2人で得点を奪ってしまうような、素早いカウンター攻撃が得意でした。

先制点を挙げて、相手が攻撃に割いた勢いを逆手にとって、少ない人数で空いたスペースからボールを運んで追加点を奪う。相手はカウンターが怖いから、攻撃を躊躇してしまう。こうした戦い方で、鹿島アントラーズは勝利を積み重ねてきました。今のレアル・マドリーも、こうした戦い方が出来るチームです。強いチームは、相手が得点を奪いにきた勢いを上手く利用して、得点を奪うのが上手いのです。

小林、家長、阿部といった選手は、カウンター攻撃が得意な選手ではありません。中村はどちらかというと得意な選手ですが、近年はゆったりとしたペースでプレーすることが多くなりました。したがって、スタメンで出ている選手に、カウンター攻撃が上手い選手がいないのです。1-0でリードした後に体力を消耗を最小限にして勝つには、相手に攻め込ませて、カウンターで得点を奪って勝つのが良いのですが、今の川崎フロンターレはそういう戦い方が出来ません。

鬼木監督はその事は分かっているので、シーズン序盤から、ハイネル、長谷川、三好といった、ボールを素早く相手陣内に運べる選手を起用してきました。ところが、3人とも活躍する試合とそうでない試合に波があり、スタメンを奪うような活躍は出来ていません。ここは鬼木監督にとって、小さくない誤算だったと思います。特にハイネルに対しては、十分すぎるくらいチャンスは与えたと思いますので、今後はチャンスが減ることが予想されます。

次節も中2日でルヴァンカップのFC東京戦。今後のスケジュールを考えると、多少メンバーも入れ替えて試合に臨む事が予想されます。チームとしては、上手く戦えている部分もありますが、上手くいっていない部分ももちろんあります。ヴァンフォーレ甲府戦は、チームとして上手くいっていない部分が露呈した試合だと思いますが、それでも引き分けたのは地力がついた証拠です。

試合が続くつらい時期をどのように乗り切り、勝ち切るのか。チームが成長するチャンスだと思いますので、楽しみにしたいと思います。

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