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ビジャレアルCFで学んだ「よい学び」とは何か

2月9日から17日(帰国は18日)まで、ヨーロッパのサッカークラブを2クラブ訪問させて頂く旅行に出ています。2月9日に日本を出発し、1つ目の訪問先であるスペインのビジャレアルに無事に到着したので、今日は2月10日の様子をレポートしたいと思います。

ビジャレアルという街について学ぶ

1日目の午前中は、同行者の長尾さんと木下さんとで、レンタカーを借りに行くついでに、ビジャレアル市内を歩いてみることに。僕は街の様子が知りたかったので、朝起きてランニング。距離感を確かめてみることにしました。

ホテルからビジャレアルのトップチームが練習しているグラウンド、ビジャレアルのホームスタジアムである「エスタディオ・デ・ラ・セラミカ」まで走ってみたのですが、寄り道しつつも往復7kmほどで移動出来たので、事前の予想通り、街はコンパクトにまとまっていることが分かりました。

2人とレンタカー屋からホテルまでの道のりを歩きつつ、途中で市役所や礼拝堂やオフィシャルグッズショップなどに立ち寄り、現地の方の声を聞きつつ、写真を撮りつつ、どんな街なのか歩いて理解しようと務めました。

歩いたことでいろいろなことが分かりました。街がとても静かであること、失業者もいるのか暇そうにしている人もいる、といったスペインの地方都市に横たわる現実を目の当たりにすることもありましたが、街の多くの家の外に、ビジャレアルのエンブレムの旗が飾られていることからも、ビジャレアルがいかに地域の象徴であるかが分かりました。

そして、朝立ち寄った「エスタディオ・デ・ラ・セラミカ」に再び。朝見れなかった周囲をじっくりと観察。住宅街と併設されているスタジアムなんて日本ではありえないですが、地域に根付いていることが伝わってきます。

スタジアムの周囲を歩いていると、見知らぬ女性が声をかけてきました。

声をかけてきたマリネスおばさんは、普段は病気の猫の面倒をみるボランティアをしているそうです。スタジアムの裏のマンションに住んでいて、コミュニケーションに飢えていたのか、長尾さんと木下さんを質問攻めに。2人はGoogle翻訳使って丁寧に対応していましたが、僕は飽きて「早く終わらないかなぁ...」と思いながら、3人の話を聞いてました。3人の話は30分以上続いたと思います。2人とも偉い。

「ビジャレアルメソッド」について学ぶ

しばらく歩いてようやくレンタカーを借り、トップチームの練習場「Ciudad Deportiva」へ。クラブハウスとアカデミーに所属する選手たちが練習しているグラウンドには自由に立ち入ることができるので、写真を撮影していたら、ビジャレアルの佐伯さんから連絡を頂き、クラブハウスの中をご案内頂けるとのこと。

急いでクラブハウスに向かうと、同時期にビジャレアルに来ているカシマフットボールアカデミーのスタッフ2名と、ビジャレアルの練習に参加する少年1名が。この後「ビジャレアルメソッド」に関するMTGを受けるとのことなので、施設を案内してもらいつつ、MTGにも同席させて頂くことに。

施設については、シント=トロイデンの飯塚さんのnoteもぜひ。

ビジャレアルの国際部の方にご説明いただいた「ビジャレアルメソッド」についてですが、本当に学び多き内容でした。あれだけ必死にメモを取ったのは久しぶりです。印象に残った部分を抜粋して、noteには書き記しておきます。

自分の頭の中に湧いた疑問を解決することが「いい学び」
ビジャレアルと他のチームとの違いは「コンテキスト」。ビジャレアルは街の規模が小さく、これ以上大きくなることもない。街の規模では他のチームには敵わないので、他のチームとは違う方法を採用しなければならない。スカウティングで選手を獲得するのは年々厳しくなってきている。
スペインで選手登録されている選手のうち、プロサッカー選手になれるのは0.05%しかいない。サッカー選手ではなく、人として「成長する」環境をビジャレアルでは提供しようと試みている。
スペインA代表(2020年2月現在)に、ビジャレアルに関連している選手が6人選ばれており、パウ・トーレスはビジャレアル周辺地域の出身で、アカデミーで育った選手。中小クラブがビジャレアルを追いかけているが、外からでは全てを知ることがは難しいと思う。
フットボーラーとして最高レベルに育てたかったら、最高の指導者を用意する必要がある。最高の指導者には「学び」が必要。指導者が継続して「学び」を得ている状態を作ることが大切。なぜならフットボールには正解がないから。学びの場として、個人の知見、経験を共有する場を作る。
フットボールは常に「判断」「決断」が求められるスポーツ。「ゴール」「ボール」「チームメイト」「自分」「相手選手」という指標は常に変化する。サッカーの状況に基づいたトレーニングでなければ、よいトレーニングとはいえない。
監督の指示通りに実行してミスをしても、選手の「学び」にはつながらない。ミスを認める文化が大切。
これまで指導するにあたって「全体」に対してメッセージを発信することが多かったけど、今後は「個人」にフォーカスしていく。子どもたちが必要としているものはそれぞれ違う。
自閉症や障害を持った人との関わり合いを学ぶプログラムを取り入れている。社会とどう携わるのかを学んで欲しいと考えている。

話を聞き終わった後、僕は「学び」について気になったので、こんな質問をしました。

自分の頭の中に湧いた疑問を解決することが「いい学び」というお話があったが、疑問を湧かせるには相手の頭の中を変えるしかない。人は他人の頭の中は分からないが、ビジャレアルではどうやって相手の頭の中を変えようとしているのか」

この質問をした後、国際部の方からは「very very good question」と褒めて頂きました。嬉しかったです。ビジャレアルに訪問するにあたって、一番聞きたいことでもありました。

国際部の方の回答は「徹底的に1人1人と向き合う」。つまり「1 on 1のコミュニケーションの機会を増やす」ということでした。

選手1人1人に対して、何を感じたのか、どうしたいのかなど、徹底的に問いかける作業を繰り返すことで、選手を理解することで、選手が学びを得る心地よい環境を作り出そうと心がけている。そう語りました。

何か秘密のレシピがあるのではなく、愚直に「1 on 1」のコミュニケーションをとり、選手の個性を引き出そうと試行錯誤している。その姿勢に共感しました。ビジャレアルまで来てよかった。心からそう思いました。

クラブを形作るのは「人」なのだと学ぶ

ビジャレアルは学びを深めるための工夫が、いくつも実行されています。たとえば、コーチングスタッフが集まる部屋では、四角いテーブルではなく丸いテーブルに座り、担当するカテゴリー以外のコーチともコミュニケーションが取れるように仕掛けています。テーブルにはコーチだけでなく、メンタルトレーナーも座り、遠慮なく意見を述べているそうです。ビジャレアルには10名のメンタルトレーナーがチームをサポートしているというのも驚きでした。ビジャレアルが何を重視しているクラブなのか、とても良くわかります。

佐伯さんによると、メソッドはガイドブックのような形にまとまっているわけではないそうです。「メソッド」というと、具体的な解決策を思い浮かべる人もいますが、「メソッド」と「メニュー」は違います。その事も改めて学ぶことができました。

メソッド講習会の後も、佐伯さんにアカデミー生が寝泊まりする寮の中を案内して頂いたり、ランチをご一緒していろいろお話を伺ったり、ご自宅でコーヒーを御馳走になってしまいました。本当に感謝し切れません。佐伯さんとお会いしなければ、このような機会はありえませんでしたし、佐伯さんのような人がビジャレアルには何人もいることも、ビジャレアルを訪問したことで理解できました。

クラブを形作るのは、人なのだ。そんなことを改めて学ばせてもらいました。

「トライしないことはミスである」と学ぶ

佐伯さんと分かれた後は、トップチームとは違うグラウンドで練習するアカデミーのグラウンドに移動し、カシマフットボールアカデミーの選手がビジャレアルのアカデミーの練習に参加するというので見学させてもらうことに。言葉も分からず、練習メニューも分からず、チームメイトと意思疎通が取れない中、個性をむき出しにするスペインの選手と相対し、かなり戸惑っている様子がうかがえましたし、ミスを恐れてトライしていないように感じました。

トライしないことはミスである。そのことを理解し、自分で頭の中を変えられるのか。カシマフットボールアカデミーの選手は、ビジャレアルが伝えようとしている「学び」を体感するチャンスを得たとも言えます。

これからトレーニングを積んで、どう変わっていくのか楽しみでしかありません。

今日はトップチームの練習を見学し、午後は鹿島学園高等学校サッカー部とビジャレアルのアカデミーとの試合を見学させて頂く予定です。とても楽しみです。

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