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2017年J2第26節 名古屋グランパス対愛媛FC レビュー「チームの利益と個人の利益」

この試合については、7得点取れたという点に焦点をあてるか、4失点したという点に焦点をあてるかによって、受け止め方は変わると思います。ただ、エンターテイメントとしてはとても面白い試合だったと思います。

選手としては、時間をかけてきちんと準備し、不確実な事にもきちんと対応した上で、観客を満足させるのが理想だと思いますが、相手もいるのでそうはいきませんでした。ただ、4-0で終わるより、4-4から3得点奪って勝ち越し、反省点を残して試合を終わったのは、今後の試合の事を考えると、良かったのかもしれません。

このブログに愛媛FCの前半と後半の戦い方の変化については詳しく紹介されているので、僕は別の事を書きたいと思います。

名古屋グランパスが抱えていた「ビルドアップ」の問題

この試合を始まるまで、名古屋グランパスは「ビルドアップ」というプレーに問題をかかえていました。「ビルドアップ」とは、「ゴールキックを起点にして、シュートチャンスを作り出すまでのプレー」の事を指します。

名古屋グランパスは、この試合前まで「素早く敵陣にボールを運べない」「シュートチャンスを作り出せない」という問題をかかえてました。素早く敵陣にボールを運べず、ボールを奪われ攻撃を受ける。もしくは、相手の守備を崩せず、シュートチャンスを作る前にボールを奪われ、相手の攻撃を受けてしまう。このような事象が続いた結果、失点が増えていました。ヘディングに強く、足も速くといったスペシャルなセンターバックがいるチームでもないので、どうしても攻撃時のミスが失点に直結してしまいます。

風間監督はこの試合に臨むにあたって、DFに宮原、イム、和泉、ウイングバックと呼ばれるサイドのポジションに青木と秋山を起用しました。選ばれたメンバーは、守備機会のミスを減らそうというよりは、ビルドアップでミスをしないためのメンバーです。そして、5人ともボールを運べるメンバーです。5人とも期待に応えるプレーを披露しました。

秋山の起用で「左サイドのビルドアップ」問題が解決

プレビューで秋山が起用された理由は、「ボールを運ぶ能力に長けているからだ」と書きましたが、この試合でボールを運ぶ能力は既にプロでも十分通用するレベルであることを証明しました。

秋山の良さは、ボールを止めるときに次のプレーにスムーズにつなげる事が出来る点です。「止める」「運ぶ」というプレーを1回のプレーで実行するのは高い技術が必要ですが、秋山はいとも簡単にやってのけました。技術に自信があるが故に、ボールを運ぶときにリスクが高いプレーをしてボールを奪われる場面もありましたし、守備では戻るべき場所に戻るのが遅かったり、ボールを見過ぎて人を追いかけなかったりといったミスもありましたが、今後改善されると思います。今後改善されると思います。

今の名古屋グランパスは、サイドの選手がボールを運ぶ事を恐れ、パスを選択するようでは、攻撃出来ません。今まで名古屋グランパスは、右サイドは宮原がいたので問題なかったのですが、左サイドのビルドアップは、ずっと問題を抱えていました。秋山は解決策になりそうな選手ですが、悩ましいのは彼が強化指定の選手であるということです。秋山の今後のプレーとともに、フロントの対応にも注目したいと思います。

印象に残ったフェリペ・ガルシアのプレー

青木やハットトリックした田口のプレーも印象に残りましたが、僕が最も印象に残ったのはフェリペ・ガルシアのプレーです。フェリペ・ガルシアはここまで必ずしも期待に応えている選手とは言えません。怪我もあり、10番を背負う選手としては、もっと得点もアシストも挙げて欲しいというのが正直な感想かもしれません。

この試合で久々に怪我から復帰したフェリペ・ガルシアは、難しい時間帯でのプレーを強いられました。交代出場してから3分で同点に追いつかれていますし、自身がプレーするポジションも、サイド、中央、またサイドとコロコロと変化しました。

不貞腐れそうな状況にも関わらず、フェリペ・ガルシアは黙々とやるべき事をやっていました。守備では相手に身体をぶつけ、必死に相手を追いかけ、ボールを保持したらキープして、味方がボールを受けられるまで待つ。地味なプレーですが、こういうプレーの積み重ねが、チャンスを作り出します。フェリペ・ガルシアのように、得点を求められている選手が率先して実行した事によって、4-4からの3得点を生まれたと思います。

外国人枠でプレーする選手は、自分の事を優先してプレーする傾向にありますが、シモビッチ、フェリペ・ガルシア、ガブリエル・シャビエル、そしてイム スンギョムには、そのような事がありません。青木が挙げた5点目もガブリエル・シャビエルの守備がきっかけでした。こうしたチームの事を考えてプレーする外国人枠の選手がいることも、名古屋グランパスというチームが壊れず、向かい風を受けながらも前進している要因だと思います。

「いつ」「どうすればよいか」知っている玉田

あと後半33分から入った玉田も試合を落ち着かせるのに大きく貢献しました。今の名古屋グランパスは、技術の高い選手は増えましたが、「いつ」「どこで」技術を発揮すべきか、判断する能力はまだまだ不足しています。名古屋グランパスの前半戦は玉田がチームの足りない点を補ってくれていたのですが、この試合も玉田が補って、チームを落ち着かせてくれました。

速く攻めなくては行けないときは速く攻め、ゆっくり攻めなきゃいけないときは、ボールを持ってテンポを落とす。こうしたプレーの選択にミスがないので、他の選手も玉田のプレーに合わせることで、プレーのテンポに強弱をつける事が出来ます。玉田が入るまで、チームは攻撃のことしか考えていなかったので、とにかく攻めるけど攻め込まれたらどうしよう、という感じでプレーしていたのですが、玉田が「こうすればよい」と解決策を示したことで、チームは落ち着きました。さすがです。

本当なら玉田が入る前に、他の選手が同じように考えてプレー出来ればよいのですが、今のチームはそこまでの技術とプレーの選択肢を持ち得てはいません。技術を身につけながら出来ることを増やしつつ、痛い敗戦も経験しながら、少しずつ勝ち方を覚えているところです。楢崎や佐藤や玉田のような選手にとって、一緒にプレーしている若い選手のプレーについて「なんでこうしないのだろう」と思うことは多々あると思います。ただ、彼らは表立って発言するのではなく、プレーでどうするべきか示してくれています。

自分の利益とチームの利益が一致する選手が増やせるか

そして、伸び盛りの若手、経験豊富なベテラン、献身的な外国人選手を引っ張る役割を担うべきなのが、この試合でハットトリックした田口です。本人はハットトリックより、4失点した事を反省するようなコメントを残していました。

僕は田口のコメントを読みながら、少しずつですが「自分よりチームの事」を発言するようになってきたと感じています。田口はもうよいパスを出せばOKという立場の選手ではありません。チームを勝たせる事が求められる選手です。チームの勝利が自身の評価につながる。そんな選手です。1試合だけではなく、継続して得点に関連するプレーを披露し続ける事も大切ですが、求められているのは、時にチームを鼓舞し、時に無言で率先して守備をするようなプレーが出来るかです。

風間監督はよく「個人の利益とチームの利益を一致させろ」と語ります。この言葉は、選手は自分の得意なプレーを発揮することを考えてプレーする。自分の得意なプレーで目の前の相手を倒す事が、チームの勝利につながる。そんな意味で語っています。

この事が理解出来ている選手は、試合前後のコメントで自分のプレーに対する反省について聞かれても、チームの事を考えて、「こうすればよかった」といった自分の課題とチームの課題を照らし合わせて、チームの課題を解決するために自分がどうすればよいか考えて言葉に出来るようになります。佐藤、楢崎、玉田、シモビッチといった選手はシーズン開始当初から出来ていましたが、最近は宮原、青木、和泉といった選手の発言も少しずつ変わってきました。そして、田口も発言が変わりつつある選手の1人です。

前半戦の苦い経験をチームとして糧としつつ、成長していこうという意気込みが失われていないこと、そしてチームが少しずつではあるものの成長しつつあることは、この試合から感じ取る事も出来ました。反面、チームの可能性と課題も両方見せられた試合だと思います。

次の試合は松本山雅FC戦。反町監督は今日の試合を観て、対策を練ってくるはずです。どんな試合になるのか、楽しみです。

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