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2017年J2第19節 アビスパ福岡対名古屋グランパス レビュー「アビスパ福岡の的確な修正策と名古屋グランパスが抱えるマネジメントの問題」

2017年J2第19節、アビスパ福岡対名古屋グランパスは1-3でアビスパ福岡が勝ちました。

試合開始25分までは、名古屋グランパスがボールを保持しました。アビスパ福岡は5-4-1のフォーメーションでスタートしましたが、ボールを上手く奪う事が出来ません。原因は名古屋グランパスの左サイドのパス交換を止められなかったからです。

名古屋グランパスの左サイドからの攻撃は、前節の東京ヴェルディ戦でも数多くのチャンスを作っていました。和泉と青木が相手に囲まれてもボールをドリブルで運んでくれるだけでなく、前節からセンターバックに入った小林が的確なタイミングで、2人にパスを出してくれるので、守備者はなかなかボールを奪えません。

アビスパ福岡は5-4-1の「4」の右サイドを担当していたジウシーニョが、どうしても小林が気になるので小林に対してボールを奪いにいってしまいます。ジウシーニョがボールを奪えないため、駒野が青木をマークするのですが、駒野が青木に引っ張られるため、駒野と右DFを務めていた實藤との間が空いてしまいます。この空いた場所を上手くついて、名古屋グランパスは先制点を決めました。このまま試合が進めば名古屋グランパスが勝ったかもしれませんが、アビスパ福岡はここから立て続けに修正策を施します。そして、この修正策が効果的でした。

アビスパ福岡の3度のフォーメーション変更の意図

まず、アビスパ福岡は4-4-2にフォーメーションを変更します。ジウシーニョをFWに、山瀬を右サイドMFにして、冨安を中央のMFに移します。ジウシーニョに小林をマークさせ、山瀬に青木をマークさせます。この修正によって、小林からの効果的なパスが減り、青木が山瀬に止められた事で、名古屋グランパスはボールを保持できなくなってしまいます。また、田口とワシントンに対して、冨安と三門が素早く距離を詰めてボールを奪いにくるので、2人のパス交換で攻撃する時間を作る事が出来ません。この修正策以降、徐々にアビスパ福岡のペースで試合が進むようになります。

ただ、この修正策は問題もありました。冨安と三門の2人で田口とワシントンをマークするため、どうしてもDFとMFの間にスペースが生まれてしまいます。アビスパ福岡としてはボールが奪えてはいましたが、もしパスを繋がれてMFとDFの背後にパスを出されたら、ピンチになってしまいます。実際、シモビッチと杉森はその事に気がついて、三門と冨安の間でパスを受けようとし始めます。パスは出てきませんでしたが、中央のスペースを効果的につかえていたら、名古屋グランパスが盛り返していた可能性はありました。

4-4-2の効果と問題に気がついたアビスパ福岡は、後半開始から4-1-2-3に修正してきます。「1」のポジションに冨安、「2」のポジションに三門と山瀬を起用します。ポイントだったのは、「3」のポジションの選手を、ペナルティエリアほどの横幅に収まるように配置した事です。特にジウシーニョを小林と青木の間に立たせてパスコースを消し、ワシントンと田口には三門と山瀬がマークし、冨安はシモビッチをマークしつつ、DFとMFの間のスペースを消す。この修正は本当に効果的で、名古屋グランパスとしては攻められる場所がなくなってしまいました。

また、アビスパ福岡は後半10分過ぎに亀川と駒野を一度入れ替えます。アビスパ福岡の狙いは、徹底的に名古屋グランパスの左サイドを攻撃する事でした。和泉と青木は攻撃している時は名古屋グランパスの武器になりますが、守備の時には名古屋グランパスの弱点になります。ここをアビスパ福岡は徹底的に攻撃してきました。

ボールを保持された時の対応で後手に回る

名古屋グランパスは、前半25分過ぎからアビスパ福岡の守備に捕まり、ボールを保持する時間が減ってしまいます。もし、玉田がいたら、ボールをキープしてチームを落ち着かせてくれたと思いますが、玉田と同じ役割を担ってくれる選手はいませんでした。名古屋グランパスは「まずはボールを保持して攻撃する」というコンセプトでチームを組み立ててているので、「相手がボールを保持した時にどう対応するか」という点について、対策が出来ているチームではありません。その必要性は風間監督は理解しているのですが、時間が限られている中でチーム作りを進める中で、優先順位を下げていました。

シーズン序盤はボールを保持する時間が短くなるだろうと想定していたので、守備の時は5-4-1を採用し、ボールを奪う位置を下げ、人数をかけてゴール前を守ることで失点を減らしていました。シーズンが進むにつれて、ボールが保持できるようになったので、フォーメーションを4-4-2に変更し、攻撃に人数を割けるようにしていました。ところが、ボールをいかに奪うか、パスコースをいかに消すか、という守備については、まだまだ今のチームは取り組めていません。したがって、この試合のアビスパ福岡のようなチームに対して、脆さをみせてしまいました。

押谷のプレーの問題点

追い打ちをかけたのは、押谷の退場です。判定については、僕は正当なジャッジだったと思います。少しずつアビスパ福岡の修正策に慣れてきて、チームとして空いている場所が分かり始めており、冨安の両脇のスペースに杉森や和泉が動くことで、ボールが保持出来そうでした。そのタイミングで、ボールを止めるプレーをミスして、ミスを取り返そうとやらなくていいスライディングタックルを仕掛けて退場。一番やってはいけないプレーです。

実は押谷はミスも多かったので、あと10分ほどプレーしたら交代させていたのではないかと思います。押谷の問題は、2点あります。1点目は、ボールを止める時に身体から離れてしまうこと。そして、2点目はボールを受ける時に、動き過ぎてしまうのです。2016年シーズンまでプレーしていたファジアーノ岡山では、相手の背後に長い距離を走ってボールを受けるというプレーをしていればよかったのですが、名古屋グランパスでは相手の背後でボールを受けるとしても、相手の背中をとって、短い距離を素早く何度も動く事が求められています。この動きが押谷は出来ていません。何度も動きなおす事が出来ず、一度大きく動いたら動きを止めてしまい、相手から隠れてしまうのです。したがって、右サイドバックの宮原が押谷にパスをしようとしても、押谷が隠れてしまっていてパスが出せないという事が何度もありました。

また、押谷はまだ「フリーの定義」がきちんと理解出来ていないように見えます。相手から離れてパスを受けようとするあまり、ポジションを下げてしまい、宮原より背後でパスを受ける場面が何度もありました。正直、ハーフタイムで代えるかと思ったのですが、1-0で勝っている事もありますし、ここでハーフタイムで交代すると、押谷を起用しづらくなってしまいます。我慢して起用した事が、結果的には仇となってしまいました。ただ、能力がある選手ではあるので、チームとしてはしっかりフォローして欲しいと思います。玉田もまだ復帰出来ませんので、出場停止から戻ってきたら、チャンスはあります。腐らずに頑張って欲しいと思います。

追い打ちをかけたシモビッチの交代とシャルレスの負傷

押谷の退場の後、アビスパ福岡はさらに攻勢を強めていきます。名古屋グランパスは1人少なくなったことで、今まで以上にボールを奪えず、ズルズルと交代してしまいます。この展開に追い打ちをかけたのが、シモビッチと永井の交代。そして、シャルレスの負傷退場でした。

シモビッチを交代させた理由は、FWで2人で対応していた、アビスパ福岡の實藤と岩下の2人をマークするためでした。實藤と岩下は、ボールを扱う技術に優れており、パスも正確です。この2人と冨安の3人でパス交換をすることで、アビスパ福岡はボールを効果的に敵陣に運んでいました。この3人を1人でマークするには、動ける選手を起用して、パスコースを出来るだけ切り続ける事がよいと判断したのだと思います。

誤算だったのは、永井が動けなかった事です。永井は東京ヴェルディ戦でも途中出場しましたが、明らかに動けていませんでした。コンディションに問題があるのは明らかで、とてもベストのパフォーマンスが出来る状態ではなかったのだと思います。ところが、チームは永井をベンチに入れて起用します。永井はパスコースも消せず、動けず、攻撃の起点にもなれず、アビスパ福岡にボールを保持される時間がますます長くなってしまいました。これは、永井の問題というよりは、永井をベンチに入れて起用した監督とスタッフの問題であり、マネジメントの問題だと思います。トレーナーとコンディショニングコーチと監督との間で、きちんとコミュニケーションが取れていれば、このような問題は起こらなかったと思います。

シモビッチがいなくなった事によって、コーナーキックの時に背が高い選手がいなくなってしまいました。シャルレスが負傷したため、コーナーキックの時に飛べず、本来ワシントンがマークするはずだった石津に対して、ワシントンがマークしきれず失点。シャルレスが中央にいることで、相手の守備に対応出来ていたので、シャルレスの負傷は試合展開に大きく影響しました。これもトレーナーとコンディショニングコーチと監督とのコミュニケーションの問題だと思います。早く手を打っていたら、傷口は浅く済んでいたはずです。そして、、シモビッチが残っていれば、コーナーキックの失点は防げたと思います。全てが裏目に出てしまいました。

名古屋グランパスにダメージを与えた石津の動き

名古屋グランパスに更にダメージを与えたのは、交代出場した石津の動きでした。石津はFWの左に入りましたが、DFとMFの間にポジションをとります。この石津の位置取りによって、名古屋グランパスのDFは誰が石津につけばよいか迷い、時間が経つにつれて守備が崩れていきました。

右FWの坂田もDFの背後を狙い続けているので、小林と青木は坂田を警戒して下がってしまいます。DFが背後を気にしたら石津が間でボールを受ける。2失点目は石津の動きに気を取られた杉森が亀川のマークを外し、慌てて宮原が亀川をマークしたため、櫛引が石津をマークしにいった瞬間に城後がフリーになったのを見逃さずにパスを出されてしまいました。そして、石津の動きが効果的だったのは、アビスパ福岡の實藤と岩下と冨安の3人に対して、名古屋グランパスがあまりにもフリーにしすぎた事が要因でした。

リスタートしたチームはまだまだ問題が山積

今の名古屋グランパスの問題は、2つあります。1つ目は、ボールを奪われた後の守備です。ボールを奪われた後に、相手に素早く距離を詰め、パスコースを消す動きが遅いのです。実はこの動きが上手いのが、青木や和泉や杉森だったりするのです。ただ、他の選手はまだまだアクションが遅く、ボールを奪われた後に素早くボールを奪い返して、攻撃し続ける事が出来ません。ボールを奪われる前に選手間の距離が広すぎることも要因です。ただ、この点は現在実践しているトレーニングを続けていけば、改善出来ると思います。

2つ目は、相手を見てプレーする事です。相手がどのように対応しているのか、どの場所が空いているのか。試合をしながら見極め、臨機応変に対応するという事が、まだまだこのチームでは出来ていません。今の名古屋グランパスは、ようやくボールを保持出来るようになったものの、相手を見てプレー出来る選手は、玉田、佐藤、シモビッチくらいです。田口は大分分かってきましたが、まだまだ「現場監督」として振る舞う事は出来ていません。この試合では玉田は負傷欠場、佐藤はベンチ、シモビッチは途中交代。相手を見て戦う事が出来る選手が、誰もいません。結果的に相手が切るカードをひっくり返す事が出来ず、ただただ相手のやりたいようにやられてしまいました。

この試合を観ていると、チームが発展途上であり、20人以上入れ替えたチーム特有の問題が重くのしかかっていると感じます。今の名古屋グランパスは、ボールを保持することに慣れておらず、ボールを奪われると必要以上に慌ててしまいます。加入した選手も、実力はあってもボールを保持して試合をコントロールする戦い方に慣れている選手は少なく、イチから戦い方を教えながら、ようやく今の状況までたどりつきました。ただ、慣れていないので、相手が対応してきたら脆さを露呈しているのが、今のチーム状況です。だからこそ、ボールを保持して試合をコントロールすることに、選手がいつ慣れて力を発揮できるか。連敗を止めるポイントはそこにあると思います。

個人的には、今こそキャプテンの腕の見せどころだと思います。杉森の起用にも影響してきますが、今の杉森なら右MFでも起用出来ると思いますし、佐藤ほどの選手をベンチにおいておくほどの余裕は、チームにはありません。ピンチは続きますが、ここを乗り越えるとチームは大きく成長出来そうな予感がします。イライラもするでしょうし、ジリジリもするでしょうが、名古屋グランパスのサポーターは長い目で見守って欲しいと思います。

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