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2017年J2第13節 大分トリニータ対名古屋グランパス レビュー「完敗の後は、何かを変えるチャンス」

2017年J2第14節、名古屋グランパス対大分トリニータは、1-4で大分トリニータが勝ちました。

この試合のプレビューで、大分トリニータのデータを分析しながら、「大分トリニータのデータの傾向は、あのチームとそっくりだな」と思っていました。

「あのチーム」とは、サンフレッチェ広島です。なぜそう思ったかというと、大分トリニータの攻撃回数とチャンス構築率です。

大分トリニータの攻撃回数は、129.1回でリーグ20位。攻撃回数は他のチームと比較すると決して多いチームではありません。しかし、チャンス構築率は9.7%でリーグ10位と高い。このデータから何が読み取れるかというと、大分トリニータは攻撃時のミスが少ない事が読み取れます。さらにデータを深掘りすると、ボール支配率は52.1%でリーグ6位、パス数は1試合平均523.4本でリーグ4位。パス数が増えると、ボールを保持してから相手陣内まで運ぶ時間はかかります。パスをつないで、時間をかけて相手陣内までボールを運び、攻撃を仕掛ける。この大分トリニータと全く同じ攻撃をしているのが、サンフレッチェ広島です。

サンフレッチェ広島は、実は攻撃回数が毎年リーグ下位のチームです。2017年シーズンも1試合平均118.4回でリーグ17位です。しかし、チャンス構築率は14.3%でリーグ1位。攻撃時のミスが少ないチームなのです。2017年シーズンはシュート成功率が4.1%と低いので低迷していますが、根本的な部分は変わっていません。大分トリニータの試合の映像を観ていなかったので、サンフレッチェ広島とのデータの傾向が似ているとは思っていましたが、まさか同じ戦い方をするチームだとは思いませんでした。ただ、片野坂監督はペトロビッチ監督、森保監督の下でヘッドコーチを務めた方です。同じ戦い方を採用していても、不思議ではありません。

事前の予想と異なっていたフォーメーション

名古屋グランパスは大分トリニータの戦い方に対応するため、事前の予想とは違うフォーメーションで臨みました。事前の予想では、4-4-2のフォーメーションで臨むと言われていましたが、実際に採用したフォーメーションは5-2-3。DFは右から、宮原、酒井、櫛引、内田、和泉。MFは田口、磯村。FWは玉田、田口、押谷の3人でした。大分トリニータが攻撃時に4-1-5のフォーメーションになるので、守備時はDFを5人にして、マークする選手を明確にしようという狙いがありました。

ただ、守備が上手くいきません。守備が上手くいかない問題は、ボールを奪いにいく位置に対する認識が、選手によってズレていたことです。FWの3人は出来るだけ相手ゴールに近い位置で奪いたいので、大分トリニータのDFがボールを持ったら、素早くボールを奪おうとします。ところが、DFは大分トリニータのFWが5人いるので、なかなか積極的にボールを奪いにいけません。したがって、名古屋グランパスの選手同士の距離が広がってしまい、FWとDFの間には大きなスペースが空いていました。また、大分トリニータはDF4人、名古屋グランパスはFW3人でボールを奪いにいくので、大分トリニータの方が数的優位です。大分トリニータは、数的優位を活かして名古屋グランパスにボールを奪われることなく、時にGKも活用しながら上手くボールを保持しつづけ、名古屋グランパスのFWの守備の動きは、ほとんど機能しませんでした。

はっきりしなかったFW3人のポジション

また、FW3人が基本的にはどのポジションを務めるのかはっきりしなかったことも、守備が機能しなかった要因でした。FWは右から玉田、佐藤、押谷だったと書きましたが、正直誰がどこのポジションだったのか、流動的に動きすぎてよく分かりませんでした。「流動的」と言えば聞こえはいいですが、言い換えれば「どのポジションでプレーするのか決めていない」ともいえます。

ポジションが決まっていなかった事によるデメリットは、守備の時に守るべきポジションに人がいないため、相手に攻撃されてしまう事です。1失点目はFWの3人が同じサイドに固まってしまった事が要因でした。本来は押谷がカバーすべきポジションだったのですが、押谷は中央をカバーしていて、大分トリニータの鈴木にボールを運ばれてしまいます。和泉も鈴木につけばよかったのですが、右サイドの岸田が気になって対応が遅れます。鈴木が川西にパスを出し、川西から正確な縦パスが伊佐に入ります。伊佐に櫛引が引きつけられ空いたスペースに後藤が走り込んでシュート。本来なら酒井がカバーしてもよいのですが、小手川の動きに反応したため、動きが遅れます。磯村が慌ててカバーしましたが、後手に回ってしまいました。1失点目の失点は、FWのポジションが決まっていないため守るべき場所が守れていないこと、ボールを奪いにいくタイミングをチームで共有していない事が要因でした。

大分トリニータのように、MFの人数を減らしてFWの人数を増やしながら攻撃を仕掛けてくるチームからボールが奪えなかったのは、第3節のジェフユナイテッド千葉戦と同じです。あの時もFWはボールを奪いたいけれど、DFは後ろで守りたい。FWのポジションが決まっていないため守るべき場所が守れていないこと、ボールを奪いにいくタイミングをチームで共有していないという問題が、解決していないことが浮き彫りになってしまいました。

守備の問題は攻撃の問題

守備の問題は、攻撃の問題でもあります。気になった点は2点あります。1つ目は、田口がボールを持った時のボールを受ける動きです。田口は試合を重ねる毎に、ボールを「いつ」受けるのか、受けるタイミングが改善され、ボールを保持した時は、相手ゴール方向を向けるようになっています。ところが、田口のパスを受けようとする選手が、皆田口の方を向いてボールを受けようとしているのです。誰もゴール方向を向いてボールを受けようとしていません。

特にFWの3人は、全員田口に向かって矢印を出してボールを受けようとしているため、田口は相手DFだけでなく、味方の矢印も受け止めて、ボールを保持していました。誰か1人でもよいから、相手DFの背後を狙う動きをしていれば違ったと思うのですが、全員が同じ動きをしているため、パススピードが早くても、相手に捕まってしまっていました。田口がパスで緩急をつけて、相手を動かすべきという考えもあるかもしれませんが、全員の矢印を受けている状態で緩いパスを使うのは、奪われるリスクが高すぎます。

2つ目は、ドリブルでボールを運ぶ選手が玉田と杉本しかいない事です。「出して、受ける」動きを繰り返してボールを運ぶのはいいのですが、「運ぶ」プレーがないと、ボールが運ばれないし、相手の守備も崩れません。ドリブルを仕掛けると、相手の守備が下がってくれるのですが、この試合は杉本が途中出場するまで、相手の守備が下がってくれませんでした。杉本が入るのが0-1だったら、十分チャンスはあったと思うのですが、杉本は怪我をかかえているので、プレーできる時間も限られているのかもしれません。もっと早く入れても良かったと思います。

「出して、受ける」動きだけでボールを相手のゴール前まで運ぶのは、簡単ではありません。受ける動き、出す動きでリズムを変えて、相手の守備を外していかなければならないのですが、リズムを変える時に効果的なのは、ドリブルを入れる事です。このプレーが上手いのは玉田で、和泉も良い時はボールを運ぶプレーをしてくれるのですが、ここ2試合はよいプレーが出来ていません。また、和泉はサイドで起用した時は、ボールを運ぶプレーをほとんど出来ません。「出して、受ける」動きをこなしながら、「時々ドリブル」するのが上手い選手なので、たぶんサイドだとボールがこないので、自分のテンポでプレー出来ないからだと思いますが、和泉をサイドでプレーさせているのは勿体ないと思います。

そして、「サイドからボールを運ぶ」プレーが少ないのは、ずっとチームが抱えている課題です。杉森、和泉、青木、永井、杉本といった選手を起用していますが、誰も90分通じて満足出来るプレーをしていません。中央は玉田と和泉がいるので、あと1人だれかサイドから崩せる選手がいれば、相手の守備を崩せるのですが、今のところ誰もいません。

僕はザスパクサツ群馬戦の青木はそんなに悪くなかったと思うのですが、風間監督はミスが多かった事が不満だったようです。風間監督は「ペナルティエリアの三辺を崩せ」とよく語っているのですが、左右のサイドでボールを運べない、崩せないという問題が、中央からの攻撃が増え、相手に対応されている要因なのだと思います。

「どう攻撃するのか」「どう守備するのか」

1-4というスコアは、言い訳が出来ないスコアです。今のチームは、ある程度ベースが出来上がった後、さらに進化させようとした結果、上手くいかなくなっているように見えます。いかに攻撃するか、いかに守備するか。このチームは、「出来るだけ相手陣内でプレーする」事を目指しているチームなのですから、まずは相手の守備をいかに崩すか考えるべきです。

今はペナルティエリアの三辺のうち、中央からしか崩す手段がありません。中央を崩すとしても、"見せ球"として、サイドを崩す手段は相手に見せておかなければなりません。160km/hのストレートだけで抑えられるピッチャーがいないのと同じです。そう考えると、早くボールを運べる選手をみつけなければなりません。僕は杉森と青木に凄く期待しています。彼ら2人のうち、どちらかがスタメンで出てこないと、今のチームの問題は解決しない。そう思います。

そして、相手を押しこんだ後に、攻め込まれたら「どう守るのか」。スピードがある酒井、櫛引、宮原といった選手を起用することで、相手の速い攻撃に対応したいという意図は感じますが、彼らもフィルターが全く効いていない状態で攻撃を受けたら、常に止められるわけではありません。このポジションにはワシントンという選手がいます。田口と動きが重なることもあり、第9節以降出場機会がありませんが、僕はもっと出番が増えても良いと思います。

そう考えると、風間監督が記者会見で語っていた「我々のサッカーで押し込んでいる中で、全ての選手がその状況に慣れていかなければいけない、頭の中を切り替えなければいけない」という分析は、とても理にかなっています。相手を押し込む力はあるのだから、丁寧に、正確にプレーすれば、勝てないチームはありません。今の名古屋グランパスのミスは、「このくらいでいいや」というプレーをした時に起きています。取組を変えつつ、ボールの運び方、ボールを奪われた時の守り方。この2点を改善できれば、この試合で起こったような問題は起こらないと思います。

あとは、監督、スタッフ、選手がどうするかです。少し進化を求めて、早急に事を運びすぎた気もするので、この敗戦は自分たちの現状を見直し、改めて進むべき方向を明確にするチャンスです。こういう逆境の時に立て直すのが上手いのが、風間監督だったりします。だから、今後がとても楽しみです。敗戦を活かしてチームを立て直す。それが優れた監督と、そうてない監督との差なのですから。

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