FIFA女子ワールドカップ 2023 日本代表対ザンビア代表 レビュー

FIFA女子ワールドカップ 2023 日本代表対ザンビア代表は5-0で日本代表が勝ちました。

しっかり準備していたザンビア代表攻略法

この試合のポイントはザンビアの守り方に対する日本代表の対応です。

日本代表がボールを持っているときザンビアは4-5-1で対応します。サイドのMFは中央によってサイドを空けます。日本代表のDF3人がボールを持った時、石川や南からの縦パスのコースをサイドのMFが消すように立つことで、中央からボールを運ぶプレーを防ぎ、空けているサイドに誘導します。

サイドは空いているように見えますが、ザンビアの選手はスピードがあるので空いていてもサイドにパスが出ても素早く距離を詰めて対応できるので、サイドにパスを出させてもボールを前に運ばせず、相手のミスを誘う。このような対応を準備してきました。

実はこの対応は初戦を観ていると、他のチームも採用している対応方法だったりします。カナダ代表と対戦したナイジェリア、イングランド代表と対戦したハイチも同様の対応を仕掛けてきました。カナダ代表がスコアレスドロー、イングランド代表が1点しか奪えなかったように、この対応を崩すのは簡単ではありません。カナダ代表とイングランド代表の試合も少し観ましたが、ともにボールを運ぶのに時間がかかり、テンポよくパスが繋がらず、個人の力で打開しようとしても相手に対応されてしまう。この繰り返しでした。

日本代表がカナダ代表とイングランド代表と同じような状況に陥らなかったのは、カナダ代表やイングランド代表のように個人の力を押し出していくチームではないというのもありますが、この2チームと違うのは日本代表にはボールを運ぶためのプレーが準備されていて、相手が中央を狭くしたり、ボールを奪う位置を自陣に下げても対応できるからです。

日本代表はザンビア代表が4-5-1で対応するのでDF3人に対してFW1人。ここで優位に立てます。特にDFの南と石川が余裕を持ってボールを持ちやすいので、この2人からの配球がポイントになりました。中央の長野と長谷川にはザンビアのMFがマンツーマンでマークについています。

南と石川はまず試合序盤はザンビアのDFの背後を狙ってロングパスを出します。狙いはFWとDFの距離をコンパクトに保とうとするザンビアの背後を狙うことでFWとDFの距離を広げること、そしてザンビアの選手を上下に動かして、相手を動かすことでした。ザンビアはDFラインを上げるときの動きがバラバラで、特にサイドのDFはボールを見ているけど相手選手を見ていない、という場面が多かったので、ロングパスを出して相手を動かすことで相手の判断を迷わせることが狙いでした。

次に南と石川が選択したのはウイングバックというポジションに位置する遠藤と清水への速いパスです。サイドより背後を警戒させて相手の動きを止めた後、ザンビアのサイドのMFの注意を引きつけてからウイングバックの2人に素早くパスを出し、相手ゴールを方向に向かってボールを受けられるように仕向けます。ザンビアの対応が遅れたら、ウイングバックの2人からDFの背後にパスを出し、ザンビアのサイドのDFの間を宮澤と藤野がランニングしてボールを受け、相手のセンターバックを引き出します。ウイングバックがボールを受けたタイミングで相手のDFとGKの間にスペースがあればDFとGKの間にパスを出してシュートチャンスを作り出します。

日本代表はこのプレーをどの試合でも実践しますし、トレーニングでも繰り返し行っています。DF3人のパス交換からウイングバックとシャドーと呼ばれるMFとボランチの3人のパス交換でボールを運ぶ。簡単に見えるプレーですが、どのチームよりも精度高く実践できるのが日本代表の強みです。

ザンビアがこのサイドからのボール運びを警戒すると、長谷川と長野の2人が空いてきます。2人が頭がいいのは序盤はチーム戦術を想定してむやみにボールを受けようとせず、マークしてくる選手を動かしてどこまで動いたらどう対応してくるのか観察していたこと。サイドのボール運びが機能するようになったら、サイドからのパスを受けて、少しずつボールを受ける回数を増やしていきます。2人は滅多にボールを失わないので、相手がどんどん押し下げられていきます。

次に日本代表が狙っていたのは、ザンビアのDFラインが押し上げるタイミングがバラバラなのを利用した背後へのパスです。試合序盤のように縦方向のパスで背後を狙うのではなく、日本代表のバックパスに合わせてDFラインを押し上げた瞬間に斜めのロングパスを出して、背後を狙う。これもスカウティング通りだったのではないかと思います。

まずは背後を狙ってFWとDFの距離を広げ、徐々に得意のサイドからのボール運びを仕掛け、中央の長谷川と長野がボールを受けられるようにして、斜めのパスで相手の目線をずらして仕留める。この繰り返しで5ゴールを奪ってみせました。

大会を通じてどれだけ選手が成長できるか

課題があるとしたら、この緻密な連携を活かしたプレーが実践できる選手が少ないことです。DFには石川よりビルドアップが上手い三宅がいますが、長谷川と長野ほど上手く連携して動けるMFコンビはいませんし、宮澤ほど上手く他の選手と連携して動ける選手もいません。完成度がかなり高いので、他の選手を組み込むのが難しい。そんな状況です。

池田監督がまだぎこちない動きをしている清家を継続して左ウイングバックで起用しているのは、彼女がどこかで重要になる場面がくると思っているからだと思うのですが、判断や立ち位置のミスも多いし、試合終盤にクロスをあげられた場面の相手との距離の詰め方も気になります。でも勝ちながら少しずつ連携に対応できる選手を増やしていかないと、ワールドカップ優勝はない。そう考えているのではないかと思います。

だからこそ、石川が90分無難にプレーできたのはチームにとって大きいです。ボール扱いに手間取りフィードのタイミングが遅れるといったミスはありましたが、試合終盤にザンビアの選手との1対1をファウルなしで奪いきったプレーだけで、彼女がスターティングメンバーに値する選手であることは証明しました。あんなプレーを披露できる日本人選手を見たことがなかったので興奮しました。石川のような選手が大会の雰囲気に慣れ、他の選手も力を発揮できるようにしていくことが、チームの成長につながります。

だからこそ、この試合で池田監督が交代枠を1人残していたのは疑問が残りました。替えるとしたら清水か長谷川か長野のところだったと思いますが、この3人の替えがきかない選手を替えて残り5分程度誰かをプレーさせるよりは90分プレーさせてしまおうという判断だったのだと思いますが、選手としては一度試合でプレーするのとしないのとでは全く違います。雰囲気になれておくためにも、林や守屋といった選手にプレータイムを与えてもよかったと思います。5-0と点差は開きましたが、そこまでチームに余裕はなかったということなのかもしれません。

次はスペインが3-0で勝ったコスタリカ。第2戦でコスタリカ、第3戦でスペインというのはFIFAワールドカップカタール大会と同じです。男子代表はコスタリカのディフェンスに苦しみ、0-1で敗戦を喫しました。2連勝してスペイン戦を優位な状態で迎えることができるか、チームの力が問われています。

海外のニュースサイトを調べていても、日本代表の力は正当に評価されていない気がします。このなでしこジャパンはヨーロッパやアメリカといったチームとも十分勝負できるし、面白い。このサッカーでどこまで勝ち続けることができるのか楽しみです。



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