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2017年J2第27節 名古屋グランパス対松本山雅FC レビュー「Takeover」

2017年J2第27節、名古屋グランパス対松本山雅FCは5-2で名古屋グランパスが勝ちました。

この試合は前半33分に名古屋グランパスが先制するまでは、松本山雅FCのペースで試合が進みました。松本山雅FCは普段通りロングパスを活用した攻撃を仕掛けてきました。DFからFWの高崎への高いパスを出して、高崎がヘディングで競り勝った後のパスを受け、ゴール前までボールを運ぼうと試みます。

高崎はわざと中央ではなく、宮原が立っているエリアに動いてヘディングしようとします。名古屋グランパスは新井や小林が対応し、宮原は背後で高崎のパスに対応していたのですが、ロングパスの精度と高崎がヘディングするタイミングが上手いので、なかなか競り勝つ事が出来ませんでした。

また、名古屋グランパスは横浜F・マリノスから移籍してきた新井がスタメンに起用されたのですが、先制点が入るまでは宮原、新井、イムの3人のパス交換が上手くいかず、松本山雅FCの守備に何度も引っかかってしまいました。

特に松本山雅FCのパウリーニョと岩間という守備が上手いMF2人が、田口と小林へのパスを狙っていたのですが、序盤は何度も田口や小林に対するパスが引っかかってしまい、なかなか相手陣内にボールを運ぶ事が出来ませんでした。前半33分の先制点が、実は名古屋グランパスのこの試合の最初のシュートでした。最初のシュートで得点を奪い、2点目を先制点の2分後に奪えたことで、試合を優位に進める事が出来ました。

動いている選手の足元に正確にパスを出す

2点目のガブリエル・シャビエルから青木へのパス、3点目のシモビッチからガブリエル・シャビエル、4点目のシモビッチからガブリエル・シャビエル、そして佐藤寿人へのパスなど、この試合の名古屋グランパスの素早い攻撃を支えていたのは、「動いている選手の足元への正確なパス」です。

サッカーでは「足元へのパス」という言葉は、あまりよい意味では使われません。ただ厳密に説明すると、「動いていない選手への足元へのパス」がよいプレーではないのです。なぜよいプレーではないかというと、ボールが相手ゴール方向に進まないからです。相手ゴール方向に進めるには、選手も動いてパスを受け、味方も動いている選手にパスを出さなければなりません。

最もスピードが速くパス交換出来るのは、「動いている選手の足元に正確にパスを出す」事です。なぜなら、パスを受ける選手はボールを上手く止められれば、スピードを落とさずにプレー出来るからです。ボールを止めるために都度動きを止めるより、プレーのスピードが上がります。

ただ、動いている選手の足元に正確にパスを出すには、パスを出す選手が動いている選手のスピードや方向を計算し、正確に止められる位置にパスを出す技術が求められます。また、パスを受ける相手も正確にボールを止める技術が求められます。パスの出し手、受け手ともに正確な技術があるからこそ、「動いている選手の足元に正確にパスを出す」事が可能になるのです。簡単なプレーではありません。

技術が採用出来る戦術を決める

名古屋グランパスは、風間監督が就任してから「止める」「受ける」「外す」「運ぶ」という技術を向上させる事を目指し、トレーニングを重ねてきました。風間監督が「止める」「受ける」「外す」「運ぶ」という基本的な技術を向上させようとする理由は、技術が向上する事で監督が試合に勝つために採用できる戦術が変わると考えているからだと思います。

サッカーのアクションは、ボールがある時、ボールが無い時、そしてボールがある時と無い時の中間の3つに分けられると、元サッカー日本代表のハンス・オフトさんは語っていました。ちなみに、オランダ代表でビデオ分析アナリストを務める白井裕之さんの著書「怒鳴るだけのざんねんコーチにならないためのオランダ式サッカー分析」によると、戦術とは「対戦相手を想定してゲームにアジャストする方法」なのだそうです。

対戦相手を想定してゲームにアジャストする方法は、チームが出来る事によって決まります。ボールが相手ゴール方向に運べないチームが、相手を自陣に70分以上押しこんで勝つサッカーを目指しても仕方がありません。70分以上押し込みたかったら、相手にボールを奪われない技術が必要になります。選手間の距離を短く保ち、相手の攻撃を迎え撃つ守備をしたければ、ボールを奪うタイミング、パスコースの切り方といったプレーを繰り返しトレーニングした上で、選手が実行できなければなりませんが、守備を怠る選手がいたら実現出来ません。選手の技術にあわせて戦術を組み立てないと、どんな戦術も絵に描いた餅になってしまいます。

サッカーでは、風間監督のように選手の技術を高めつつ、実戦で活用できるように繰り返しトレーニングすることでチームのレベルアップを狙う監督と、ある程度チームで動き方のパターンを決めて、スピーディーに動いて相手を上回ろうと考える監督と、主に2つのパターンでチーム作りを進める監督に分けられると思います。余談ですが、スペインの監督は後者のタイプが多いと聞いたことがありますので、もしかしたら2017年シーズンで素晴らしいサッカーを披露している東京ヴェルディや徳島ヴォルティスは、パターンを繰り返しトレーニングすることで、素早く動けるようになったチームなのかもしれません(あくまで想像です)。

前者のチーム作りは上手くいけば、選手がどんどんレベルアップするので、出来ることが増え、自然とチーム力も上がっていきます。一方で、選手のレベルアップには時間がかかります。後者は上手くいけばあるレベルまではスムーズにチーム力が向上しますが、相手に研究されたり、選手の技術が向上すると、対応されて勝てなくなるという事があります。どのチーム作りも一長一短があるので、簡単ではありません。

名古屋グランパスが2試合で12得点を挙げるほど攻撃が機能しているのは、2017年シーズン当初から繰り返しトレーニングを積み、選手がトライをし続けた結果、技術が向上し、出来る事が増えてきたからです。

出来ることが増え、ボールを奪われなくなったため、佐藤はゴール前のよい場所でボールを受けられるようになりました。青木と秋山はサイドではなく時に中央付近でボールを受けるようになりました。

青木と秋山が中央にいるので、田口と小林と連携して、相手にボールを奪われた後に素早く中央から攻撃されるのを防ぐことが出来ます。川崎フロンターレでも森谷と登里が同じように中央でプレーしたことがありますし、グアルディオラがバイエルン・ミュンヘンを率いていた時に採用していた戦術でもあります。ただ、この戦術も技術が向上し、ボールを奪われなくなったから出来るようになりました。シーズン序盤に実行したら、移動する前にボールを奪われ、サイドを攻撃されて失点していたと思います。

チームのトップにあわせてトレーニングを進める

2017年シーズンはバックグラウンドが異なる選手が集まり、ゼロからのスタートを余儀なくされました。最初は横一線のスタートだったと思いますが、シーズンが進むにつれて、習熟度に差が出てきました。このサッカーは、技術レベルが高くて自分の引き出しの1つとして活用できる選手や、あまり引き出しがなかった選手や素直に受け入れる事が出来る選手はレベルアップが速いのですが、技術レベルが低かったり、素直に受け入れられずに頭で考えてしまうような選手がうまくいかないことがあります。川崎フロンターレの時のチーム作りでも同じことが起こりました。

風間監督は川崎フロンターレで監督していた時もそうでしたが、選手を区別したりすることはありません。ただ、「トライしない選手」や「改善しようと努力しない選手」には厳しく接します。そして、風間監督は「ポジションは自分で掴むもの」という考えを持っているため、ある程度のレベルに到達しない選手は決して起用しませんし、起用してもトライする姿勢が見られない選手は容赦なく交代させるという厳しい面を持ち合わせている監督でもあります。プロとして、自分の行動に責任を持ち実行する事を高いレベルで求めている監督なのです。

川崎フロンターレの時は、シーズンオフまで選手を移籍させたりすることはありませんでした。まずはじっくり選手を見極め、試合で問題が起こっても選手に解決方法を考えさせる。そんな監督でした。しかし、名古屋グランパスではそんなチーム作りをしていては、シーズンが終わってしまいます。J1に昇格出来ない可能性があります。

また、チームのやり方についていけない選手や不平不満をもらす選手に、チームのトップの選手がプレーのレベルをあわせてしまうと、一気にチームのレベルは下がってしまいます。風間監督は「チームの一番上手い選手にあわせてトレーニングを組み立てる」という考えを持っている監督です。

だからこそ、チームの選手間のレベルの差が大きくなると、チームが伸び悩んでしまう。そう考えたのかもしれません。そんな監督の考えを受けて、フロントが選手の移籍を勧めたとだとしても不思議ではありません。厳しいプロサッカーの世界で、むしろきちんと移籍先を短期間で見つけ、悪者になる覚悟で選手の入れ替えを断行した名古屋グランパスのフロントは、素晴らしい仕事をしたと思います。プロフェッショナルとしてやるべき事をきちんとやりました。勇気の要る決断だったと思います。

あとは監督、スタッフ、選手が結果を出すだけです。松本山雅FC戦は31,481人の観客が詰めかけました。サポーターはチームに期待しています。チームも問題をかかえつつ、少しずつレベルを上げてきました。ただ、まだ1位の湘南ベルマーレとは勝ち点10、2位のアビスパ福岡とは勝ち点9の差があります。まだまだ試合は残されています。どんな戦いを披露するか楽しみです。

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