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書評「中田語録」(小松成美)

「28年目のハーフタイム」「決戦前夜」という1996年から1998年くらいまでの日本サッカーを振り返っていると、1人の選手の活躍にどうしても目が止まってしまいます。

その選手の名前は、中田英寿。

1999年からセリエAペルージャでプレーし、2006年の現役引退まで、ヨーロッパでプレーし続け、日本サッカーの象徴でもあった選手です。

ただ、中田という選手は、ずっと誤解されてきたような気がします。メディアではめったにコメントせず、残すコメントはそっけないので、余計に誤解される。現役時代はその繰り返しでした。したがって、日本では中田という選手をきちんと評価出来ていないのではないか。そんなことを考えたことがあります。

本書「中田語録」は、1998年に発売された、過去の中田の発言に対して、その後「鼓動」という極上のノンフィクションを出版する小松成美さんが解説を加え、中田の発言の意図を理解してもらえるようにした1冊です。

本書の書評として、本書で紹介されている中田の発言に対して、僕なりの感想を加えて紹介したいと思います。

サッカーしか知らない人間にはなりたくない

「サッカーしか知らない人間にはなりたくない」という考え方は、中田という人物の考え方を最もよく現しています。

この言葉は、「サッカーが好きではない」という意味に捉えられがちだったが、それは違う気がします。

サッカー選手として成功すると、巨万の富を得ることが出来るが、何より大変なのは、巨万の富を得たことで、動きが鈍くなることだ。お付きの人が増え、外食をするときは人に奢り、人目を気にして動かなければならなくなる。サッカーだけやって巨万の富を得た選手は、大抵巨万の富を得たことによって得られた力をコントロール出来ず、巨万の富もあっという間に使い果たし、自分の身を滅ぼしてしまいます。

中田はそのことを理解していたのだと思う。サッカーを終えた後の人生のほうが長い。サッカーで得た知名度、お金を、いかにその後の人生に活かすか。そのために現役時代から勉強を怠らず、サッカーやスポーツ以外で仕事をする人物と会い、海外でも人脈を築き上げた。中田の辿った道を、完璧になぞっているのが、本田圭佑と言えるかもしれない。中田の足跡は、そのままアスリートのモデルになっています。

振り返るのは評論家の仕事

中田は、サッカーの試合の映像をあまり見ない選手だったと聞いたことがあります。自分のプレーを振り返らない人でした。

だからかもしれませんが、中田は選手のプレーを解説するような場にめったに登場しませんし、現在のサッカーに対しても、ほとんどコメントは残しません。自分が現役時代にやられて嫌だったことはやらない。そんな考えを貫いているようにも見えます。

振り返らずに、ひたすら前に進む。それは、中田のプレースタイルそのものでした。「過去を検証すべきだ」と言うのは評論家の仕事で、評論家はそのことをお金にしている人です。

目の前に仕事があって、未来を見据え、過去を振り返らずに前に進むのが、プレーヤーです。過去の試合、過去の栄光、過去の失敗、そしてサッカー選手だった自分。どれも振り返らずに前に進む。それが、中田という人に注目が集まる理由だと思います。

本書を読んで感じたのは、過去も、今も、未来も、注目が集まる選手に共通している要素は同じなのではないか。そんな気がしました。
そして、僕は「鼓動」を読み始めました。


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