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2017年J1第30節 サンフレッチェ広島対川崎フロンターレ レビュー「勝ち方を知るチームと忘れたチーム」

2017年Jリーグ第30節、サンフレッチェ広島対川崎フロンターレは3-0で川崎フロンターレが勝ちました。

この試合の前半、川崎フロンターレはサンフレッチェ広島陣内にボールをなかなか運ぶ事が出来ませんでした。そして、サンフレッチェ広島が持ったボールをなかなか奪い返す事が出来ませんでした。

サンフレッチェ広島は「4-3-3」というフォーメーションで守ります。川崎フロンターレがボールを持ったら、素早く距離を詰め、ボールを奪おうとします。奈良とエドゥアルドには皆川、エウシーニョには柏、車屋にはアンデルソン・リマが対応します。そして、谷口と森谷には稲垣と森島が対応し、中村には青山が対応するという具合に、ほぼ1対1になるように守備者が対応します。

川崎フロンターレが上手くボールを運べなかった理由は、主に3点あります。

1つ目は、相手も体力が残っていたので、簡単には相手を外す事が出来なかったからです。2つ目は、谷口が久しぶりに中央のMFを務めていたからです。普段だと、エドゥアルド・ネットがDFの位置まで下がってきてボールを受けて相手の守備を外すのですが、谷口はエドゥアルド・ネットのようには下りてきません。したがって、DFからMFに上手くパスがつながらず、なかなか中央から攻撃を仕掛ける事が出来ませんでした。

そして、3点目はピッチコンディションです。

グラウンドは一見すると芝生がはげていたりする箇所はないのですが、ボールの転がり方をみていると、ところどころデコボコしていて、低いパスを出してもボールがはねていました。

また、芝生が高く刈り揃えられていたせいか、ボールが芝生の上を滑るように転がってはいきません。ボールを強く蹴らないと強いパスは蹴れないけれど、強く蹴るとバウンドしてしまって、ボールを止めるのが難しい。そんな難しいピッチコンディションでの対応を余儀なくされました。

上手くいかなかった守備

川崎フロンターレが苦戦したのは、ボールを上手く運べなかっただけでなく、相手のボールをなかなか奪い返せなかったからです。特にサンフレッチェ広島のDFがボールを持った時の守備が上手くいかず、相手にサイドからボールを運ばれてしまいました。

サンフレッチェ広島の千葉か水本がボールを持つと、川崎フロンターレの中村と小林が素早く距離を詰め、他の選手も連動して動きます。ところが、千葉と水本に対して中村と小林が2対2で対応しても、MFの青山が素早く小林と中村の間に立ち、千葉と水本からパスを受けるので、実際は3対2の局面を作られ、川崎フロンターレは数的不利な状態でパスを回されてしまいました。

青山に対応しようとして森谷か谷口が距離を詰めると、フリーになった稲垣、森島、高橋、丹羽といった選手がパスを受け、川崎フロンターレは後退を余儀なくされる。そんな場面が何度かありました。

サンフレッチェ広島としては、川崎フロンターレが対応できていない間に作り出したシュートチャンスを、皆川がシュートをチョン・ソンリョンにぶつけてしまったり、稲垣のゴールがアンデルソン・リマがオフサイドになったため取り消されたり、丹羽のパスを柏が触れなかったりして、得点出来なかった事が試合結果に影響しました。

転機となったチョン・ソンリョンの負傷交代

転機となったのは、チョン・ソンリョンの負傷交代です。

チョン・ソンリョンが治療している間に、川崎フロンターレは問題点を把握して、修正を施します。谷口はボールを受けるタイミングを修正し、下がりすぎる事なく、奈良とエドゥアルドからボールを受けられるようになりました。

そして、大きく修正したのは守備です。千葉と水本に対して、中村と小林が対応していた守備を、千葉と水本には小林1人が対応し、中村は青山のパスコースを消すように立つ守備に修正しました。青山がボールを受けたら、中村は青山に対応し、自由にプレーさせません。この守備によって、サンフレッチェ広島は相手陣内にボールを運べなくなってしまいました。

ボールを運べなくなったサンフレッチェ広島は、次第に欠点を露呈し始めます。右DFの丹羽は守備の上手い選手ですが、それはセンターバックでプレーした時の話です。右DFとしては足が遅いので、長谷川のドリブルに対して、対応が遅れ始めます。先制点につながったファウルは、丹羽が長谷川のドリブルに対応出来なかったことから生まれました。

そして、サンフレッチェ広島は「4-3-3」というフォーメーションを採用していますが、中央のMFは青山1人なので、青山の両脇にはスペースが空いています。ボールが保持出来るようになった川崎フロンターレは、次第に青山の両脇のスペースで、長谷川、三好、中村といった選手たちがボールを受け始めます。2点目の三好のミドルシュートは、サンフレッチェ広島の欠点を巧みについた得点でした。

サンフレッチェ広島から失われたパターン

後半に入って、サンフレッチェ広島はサイドからボールを運び、川崎フロンターレから得点を奪おうと試みます。たしかに、サンフレッチェ広島はサイドからボールを運ぶ事は出来ていました。しかし、サイドはゴールから遠い場所にあります。得点を奪うためには、最終的には中央にボールを運ばなければなりません。

サンフレッチェ広島はサイドからボールを運べていたのですが、サイドからボールを運ぶことに人数を割いていたため、ゴール近くに人が足りません。結局ゴールは中央にあるのですから、得点が奪える可能性の高いペナルティーエリア内に走り込まなければならないのですが、1つプレーが終わると動きを止めてしまうので、ペナルティーエリアに走り込むのが遅れます。

僕は「次はどのプレーをすればよい」という選択肢がサンフレッチェ広島の選手の中に浮かんでいないからだと感じました。森保監督の頃は、サンフレッチェ広島は良くも悪くもパターンが決まっていました。このプレーを選択したら、次はこれといった具合に、考えなくてもプレーがスムーズに選択出来るようにトレーニングを積み重ねてきました。

しかし、今のサンフレッチェ広島は森保監督を解任し、新たな監督の下、「パターン」を構築しようとしている段階です。パターンが決まっていて、長年同じようなパターンを繰り返して結果を残してきたチームが、新しいパターンを習得して結果を残すのは簡単ではありません。まずは、「バカの一つ覚え」と呼ばれても、相手に読まれても対応出来ない武器を1つ作る事だと思います。1つ武器が出来たら、応用が効きます。勝つためにあれもこれもやりたくなりますが、多くの事をしない事が最善の道だと、僕は思います。

もう、1つの勝ちで大喜びし、1つの負けで大泣きするチームではない

この試合を観終わって印象に残ったのは、川崎フロンターレの選手たちの重い足取りでした。

小林はテーピングが巻かれた右足を引きずり、谷口も足を引きずりながらスタンドに向かい、いつもなら勝ったら笑顔で喜ぶ中村も笑顔は控えめ。負傷退場したチョン・ソンリョンの右腕にはガッチリとテーピングが巻かれていました。10月のサッカー選手に五体満足な選手はいない。その事を選手の足取りから思い知らされました。

ただ、そんな選手の姿からは、勝ち方を知るチームだけがもつ、たくましさが感じられました。

1つの勝ちで大喜びし、1つの負けで大泣き。今の川崎フロンターレはそんなチームではありません。プロのサッカー選手が、自分の持ち味を最大限に発揮し、チームの勝利に貢献し続けるために努力を続けるチームに成長しました。もう何度も何度も痛い目にあっているので、選手たちは負ける悔しさ、人が喜ぶ姿を横目で見る悔しさをよく理解しています。

鹿島アントラーズが敗れたため、勝ち点差は2に縮まりましたが、まだ何かを得たわけではありません。次は中3日で天皇杯が待っています。楽に勝てる試合にはならないと思います。1つの勝ちの重み、1つの負けの重みが試合毎に増していくシーズン終盤、淡々と勝ち進む強さを備えたチームがどこまで勝ち進むのか楽しみです。

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