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2017年J2第10節 ザスパクサツ群馬対名古屋グランパス レビュー「チーム全員の"フリーの定義"が変わってきた」

2017年J2第10節、名古屋グランパス対ザスパクサツ群馬は、4-1で名古屋グランパスが勝ちました。

この試合の勝因は、「出して、受ける」動きを、90分通じて繰り返し、ザスパクサツ群馬の足を止めた後、きちんと仕留めてみせた事です。前節のレノファ山口戦は、90分通じてボールを保持することは出来ていました。しかし、「出して、受ける」動きが足りず、相手の守備者を動かす事が出来なかったため、ボールを保持している時間が長かったにもかかわらず、シュートチャンスの数は多くありませんでした。しかし、この試合は違いました。

ザスパクサツ群馬の守備を外して、相手の足を止める

ザスパクサツ群馬は、カマタマーレ讃岐、徳島ヴォルティスといったチーム同様に、名古屋グランパスのDFがボールを持ったら、積極的にボールを奪いにきました。しかし、酒井、シャルレス、内田の3人にボールを奪いにきても、他の7人がボールを受ける動きを止めなかったため、相手の守備者の間に立ってボールを受ける事が出来ました。困った時は、シモビッチにロングパスを蹴り、青木がサイドで待っているので、上手く活用することで相手の守備を外していました。

ただ、内田が負傷交代した後から失点するまでの時間は、ザスパクサツ群馬の守備を怖がってプレーしているように見えました。この試合のザスパクサツ群馬は、名古屋グランパスの選手に対して積極的にボールを奪いにきていましたが、勢い余って、名古屋グランパスの選手がパスした後も身体を当てるようにプレーしている選手が何人もいました。

選手が身体をコントロールする技術が不足している事が要因なのですが、こうしたボールがないところでのコンタクトプレーは、選手をイライラさせますし、「怪我をするかもしれない」と感じて、プレーの判断を鈍らせます。この時間、シャルレスが何度もボールをタッチラインの外に蹴り出していましたが、味方のボールを受ける動きが遅かったのが要因です。しかし、後半には改善されました。

今のチームに欠かせない和泉

特に受ける動きで素晴らしかったのが、和泉、田口、宮原の3人です。和泉は今の名古屋グランパスには欠かせない選手です。和泉が素晴らしいのは、ボールを受けるためにずっと動き続けている事です。

和泉はスプリントと呼ばれる全力疾走するような動きはあまりしません。ずっとジョギングより少し速いスピードで動き続け、相手の守備に捕まらない位置に移動し続けます。そして、ボールを受けたら、相手ゴール方向を向きます。相手ゴール方向にボールを運び、相手が迫ってきたら、空いた味方にパスをする。この動きが、他の選手をより楽な状態でボールを持たせてくれます。

試合を重ねるごとに動きが改善されている田口

和泉とプレーするようになって、田口のプレーが変わりました。田口は和泉が怪我で離脱した後に、入れ替わるように試合に出場するようになりました。試合に出場していた当初は、相手の守備者の間でボールを受けようとはしていたものの、味方のパスの出し手と、田口がボールを受ける動きのタイミングがあわず、ボールを受けられない場面が見られました。

また、ボールを受けても正確に止める事が出来ずにミスをする場面も見られました。田口はミスが続くと、相手の守備者が守っている場所ではない、味方DFの近くでボールを受けるようになります。しかし、味方DFの近くでボールを受けても、相手にとっては別に怖くありませんし、味方にとってはFWとの距離が遠くなってしまうので、パス交換のテンポも遅くなってしまいます。なかなか復帰しても、よいプレーが出来ていませんでした。

しかし、ボールを受け続ける事が出来て、ボールを運ぶ動きに長けている和泉が復帰したことで、田口の動きが変わりました。攻撃時の役割分担としては、和泉がFWに近い位置、田口がDFに近い位置という分担になっているように見えます。和泉が動いたら、田口もその動きにあわせるかのように、空いた場所に動き、ボールを受けられるようになりました。

また、ボールを受けたら素早く味方にパスし、自らも次のパスを受けるように動きます。この「出して、受ける」という動きが、90分通じて繰り返し出来るようになってきました。そして、上手くいかなかった、相手の守備者の間でボールを受けるというプレーも、少しずつ改善されています。玉田、和泉、田口の3人のパス交換で相手を外しながら、中央から相手の守備を攻略していく攻撃は、観ていてワクワクします。

フィリップ・ラームのような動きをみせた宮原

玉田、和泉、田口がマークされた時に、積極的にボールを受けてくれたのが宮原です。宮原が素晴らしかったのは、自分のポジションにとらわれず、「相手にとって嫌な場所」でボールを受けるために動き続けた事です。特に、和泉や田口がプレーする中央に入ってボールを受ける動きは素晴らしかったです。サイドでだけプレーする選手には出来ないプレーです。このプレーは、ペップ・グアルディオラ監督就任後に、ドイツ代表のフィリップ・ラームが得意としていたプレーなのですが、宮原のプレーはラームのようでした。

また、この試合の宮原は、3点目につながったプレーのように、ボールを相手ゴール方向に運ぶプレーを、何度も披露していました。ただ、このくらいのプレーは、やろうと思えば出来る選手です。ラームは、相手の守備をみて、何をすれば相手が嫌なのか見極め、最適なプレーが出来る選手です。宮原も同じようにプレー出来るはずです。そのくらい、能力の高い選手です。宮原には、もっと高いレベルのプレーを求めて良いと思います。J2でちょっとよいプレーをしたからといって、満足してもらっては困ります。今後、宮原にはより高い基準で、プレーの良し悪しを判断したいと思います。

「フリーの定義」が変わってきた

この試合を観ていると、名古屋グランパスも「フリーの定義」が変わってきたと感じます。一般的に「フリー」とは、相手の守備者が全くいない場所でボールを受けられる選手の事です。しかし、風間監督が考える「フリー」とは、相手が1m前にいても、相手の守備者を意識せず自由に振る舞えると感じるのであれば、それは「フリー」であるという事です。相手の守備者がいない場所というのは、相手にとっては「別に攻撃されてよい場所」です。したがって、相手が守っている場所で、いかに「フリー」でボールを受けられるか、2017年の名古屋グランパスは徹底的にトレーニングしてきました。

開幕した当初は、この「フリー」という定義を理解し、プレーで表現出来ていたのは、玉田と佐藤くらいしかいませんでした。しかし、試合を重ねるにつれて、櫛引、内田、永井が理解出来るようになり、和泉が中央でプレーするようになり、玉田との連携がスムーズになり、ここにきて田口、酒井といった選手も理解が進み、宮原のように「ボールを受けられるなら、場所を変えてもよい」という解釈をする選手も出てきました。そしてこの試合では、シャルレス、青木といった出場機会が少ない選手がスタメンで出ても、ある程度定義を理解した上で、プレーが出来ることを証明してみせました。

出場している11人が自信を持ってボールを持ち、相手に関係なく、自分たちにとって「フリー」だと思える状態を作り出し、「フリー」の選手を選択して、相手の守備を攻略していく。こうした、選手同士で感覚が共有出来ている状態の事を、風間監督は「目が揃っている」と表現します。これまでの名古屋グランパスは、「目を揃える」事に費やしてきました。前回のレビューで「選手の力の見極めは終わった」と書きましたが、力の見極めが終わると同時に、選手の目も揃ってきたと感じます。

ただ風間監督は、この程度で満足する監督ではありません。もっと揃える目のレベルを上げるために、玉田、佐藤といったチームの先頭を走る選手のレベルを上げ、他の選手のレベルを同じくらいに引き上げるために、あの手この手を尽くしてくるはずです。試合を通じて成長し続けるチームが、今後どんな戦いをみせるのか、楽しみです。

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