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2017年J2第28節 町田ゼルビア対名古屋グランパス レビュー「町田ゼルビアの戦い方のメリットとデメリット」

2017年J2第28節、町田ゼルビア対名古屋グランパスは4-3で名古屋グランパスが勝ちました。

前半15分までは、町田ゼルビアのペースで試合が進みます。町田ゼルビアの特徴は、選手間の距離が狭い事です。特に守備の時に選手間の距離を短く保ち、相手に選手間の間でボールを受け、逆側のサイドにボールが運ばれるのを防ごうとします。

町田ゼルビアの守備は、ボール付近に人を集めて守るので、守っているサイドと逆側にボールを運ばれると、相手は全く守備者がいない状態でプレーする事が出来ます。町田ゼルビアの守備はリスクもあるのですが、監督も選手もリスクを理解した上で、90分継続して実行してくるチームです。

この試合のプレビューで、町田ゼルビアの攻撃について次のように書きました。

ボールを奪った後に相手ゴール方向にボールを運ぶプレーが上手くないので、DFがボールを持ったら、ラグビーのキックのようにタッチラインに向って蹴り、陣地を稼ぎ、相手のスローインで再開したボールを奪って攻撃することで、ボールを運ぶプレーが上手くないという問題を解決しようとしている。

予想通り、町田ゼルビアはボールを持ったらタッチライン付近にボールを蹴り、FWやMFが走ってボールを受けるか、受けられない場合はボールを受けた名古屋グランパスの選手に素早く距離を詰め、再びボールを奪い返し、チャンスを作っていました。特に前半は名古屋グランパスの左サイド、町田ゼルビアの右サイドに狙いを絞って、チャンスを作り続けました。

和泉とワシントンのポジションを入れ替えた理由

名古屋グランパスも町田ゼルビアの戦い方は理解していたと思いますが、前半15分までは上手く対応出来ませんでした。この試合、名古屋グランパスはイム・スンギョムに代わって、ワシントンを左DFに起用しました。しかし、ワシントンが相手の攻撃に上手く対応出来ず、ボールを奪えても相手陣内に運べないので、町田ゼルビアに押し込まれてしまいました。

名古屋グランパスは、前半15分に中央のMFを務めていた和泉とワシントンのポジションを入れ替えます。押し込まれているのに、攻撃が得意な和泉とワシントンのポジションを入れ替えるのは不思議な気がするかもしれませんが、ポジションを入れ替えた理由は、ボールを奪うプレーではなく、ボールを奪った後のプレーを改善させたかったからです。

町田ゼルビアのロングパスは、味方の足元に正確に届けるというよりは、陣地を稼ぐ事を目的としたパスです。したがって、味方にパスが届かない事も多く、名古屋グランパスの選手がボールを奪い返すのは難しくありません。

しかし、町田ゼルビアは「敢えて」相手にホールを渡した上で、奪い返しにくるチームです。攻撃を開始しようというタイミングは、どんなチームでも守備が整っていません。守備が整ってないタイミングを見逃さず、すかさずボールを奪って攻撃を仕掛ける。これが町田ゼルビアの狙いでした。

したがって、名古屋グランパスはワシントンと和泉を入れ替え、ボールを奪い返した後に再び奪い返されないように、和泉に味方にボールをミスなく渡してもらうために、ポジションを入れ替えたのです。このポジション変更によって、町田ゼルビアの守備が機能しなくなり、前半15分以降は名古屋グランパスのペースで試合が進み、3得点を挙げて前半を終えました。

攻撃するサイドを右サイドから左サイドに変更した町田ゼルビア

後半開始から町田ゼルビアは攻撃を仕掛けるのを、前半の右サイドから左サイドに変更します。町田ゼルビアから見て左サイド、名古屋グランパスの右サイドは、ガブリエル・シャビエル、青木、宮原というボールを運ぶのが上手い選手が揃っています。名古屋グランパスは右サイドの攻撃が強烈なのですが、敢えて相手の得意なサイドから攻撃する事で、相手の強みを出させないようにしたかったのだと思います。

この狙いは上手くいきました。青木やガブリエル・シャビエルのドリブルを止められ、なおかつドリブルの開始位置が自陣からだったこともあり、名古屋グランパスはなかなか相手陣内にボールを運べず、押し込まれてしまいました。前半良いプレーをしていた和泉も、ボールがなかなか受けられないので、守備の仕事が増えていきました。

名古屋グランパスはロングパスの起点を抑えようと、佐藤に代わって押谷を入れます。しかし、町田ゼルビアは名古屋グランパスの右サイドから攻撃を仕掛けてきたのに、押谷が入ったのは左サイドだったので、守備は改善されません。守備が改善されない間に2失点して同点にされてしまいました。

名古屋グランパスは、秋山に代わって永井を入れて、押谷を秋山のポジションに移動させ、永井に町田ゼルビアのDFの背後を狙わせます。町田ゼルビアは、得点を奪おうとFWとDFの距離を前半より短くしているように見えました。同点に追いつくまでは、奪った後の守備も早く、名古屋グランパスにDFの背後を狙う余裕を与えていませんでしたが、同点に追いついた後は、ひと息ついてしまったのか、守備の動きが遅くなっていました。町田ゼルビアの隙を、パスを出した小林とパスを受けた青木は見逃しませんでした。そして、90分を過ぎて正確で強いキックをゴールの枠内に飛ばした、ガブリエル・シャビエルの技術には脱帽です。

勝敗を分けたセットプレーの攻撃と守備

町田ゼルビアとしては、狙い通りの試合展開で進んだ試合だと思います。しかし、セットプレーから3失点した事によって、狙い通りに進めた試合にもかかわらず、勝ち点を奪えませんでした。元々、町田ゼルビアは失点数全体のうち、41%がセットプレー関連のプレーからのの失点です。この試合を通じて、名古屋グランパスのガブリエル・シャビエルがフリーキックとコーナーキックをニアサイド(キッカーに近いサイド)に蹴っていた事からも、ニアサイドの守備に問題があり、名古屋グランパスは町田ゼルビアを理解して狙っていたのではないかという事が読み取れます。

名古屋グランパスは、直接フリーキックの数が1試合平均16.7本とリーグ1位にもかかわらず、セットプレー関連の得点が全体の16%(8得点)しかありませんでしたが、今後セットプレーからの得点が増えれば、この試合のように、相手のペースで進む試合も勝てるようになってくるはずです。

ただ、相手が押し込んで来たときに押し込みきれなかったこと、そして相手の攻撃を跳ね返すときに、味方にボールを渡すのか、陣地を回復させるために思い切って遠くに蹴り出すのか、意図が分からないプレーがありました。ボールを奪われないようにプレーしているチームですが、町田ゼルビアのように、陣地を回復させるためのプレーをしても良かったと思います。

試合終了間際の判定などいろいろありましたが、お互いのチームの戦略と戦術が分かりやすく、とても見応えのある試合でした。今後もこのような試合が多く観られる事を楽しみにしたいと思います。

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