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「能登半島地震」の避難所は高齢者にとって、衛生面でどのような環境下にあるのか?(下)

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*****令和6年2月2日(金)第169号*****

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「能登半島地震」の避難所は高齢者にとって、衛生面でどのような環境下にあるのか?(下)
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 ※【「能登半島地震」の避難所は高齢者にとって、衛生面でどのような環境下にあるのか?(上)」から続く】

 前号(上)の「はじめに」にも記したように、今回の記事は日本環境感染学会がホームページにアップしている動画「感染症よもやま話・震災時の感染対策」の中から、本紙の読者の皆さんに参考になる部分のみを抜き出して、記事としてご紹介しております。

 動画は発災から10日後の1月10日、現地の輪島市に赴いた古宮(こみや)伸洋医師が、金沢への帰路で渋滞にはまってしまい午後9時30分頃、その車中から学会の事務局の2人(笠原敬医師と山本剛医師)の質問に答える形で進行しました。

 また動画では、これをリアルタイムで視聴していた、主に医療関係者がコメントを寄せる形で古宮医師に質問も投げかけています。これらの点を踏まえ、今回の記事にお目通しを頂けますと幸いです。

 なお事務局の2人の医師は、どちらが古宮医師に質問を投げかけたか、動画では不明な点もあるため、質問側は「事務局」(=冒頭の□と▽印)、回答側は「古宮医師」(=冒頭の■と▼印)に分けました。

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「様々な支援が必要でも、能登半島のように輸送手段がボトルネックとなるケースも…」
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 □事務局=病院とか福祉施設は、どのような状況か?

 ■古宮=私は今回は(避難所の訪問が中心なので)病院とか福祉施設は見ていないが、輪島市内の病院ではもう「キャパ(収容できる余裕)がない」と聞いた。「医療従事者も、非常に疲弊した状態だ」と伺った。

 □事務局=今回、様々な支援が必要だが、物資にしても人材にしても「輸送手段」がボトルネック(全体の作業工程の中で、最も良くない影響を与えてしまっている箇所)になっているという話しも聞くが……。

 ■古宮=今回の被災地は能登半島の先端にあり、そこにアクセスできる経路は限られている。つまり医療従事者にせよ物資にせよ「搬送」がネックになっている部分がある。例えば輪島にしても、私のような医療者が行き来できるようになったのは、ここ数日だ。

 ▼一方で珠洲市では、一般の医療者がなかなかアクセスできないので、様々な支援も遅れているのではないかと思われる。

 □事務局=(この配信をしているのが1月10日で)発災から10日目になるが、古宮先生のお話から「現地の状況は、非常に厳しいものがある」とよくわかった。

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「下痢症状のある方は、簡易トイレがある場合には専用に使ってもらう等の対応を…」
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 □事務局=避難所で生活していく中で、避難者同士の「コミュニティー」が出来てくると思う。その時に、マスクをせずに密接して話す機会も多くあると思う。

 ▽このような時に(環境衛生の観点から)「もう少し、離れて下さい」「キチンとマスクをして下さい」とお願いすることは、難しいと思う。皆さん、自宅が無くなってしまった方もいるような「ストレス」を抱えている中で……

 ▽さらに「ストレス」を貯めるようなことは言いづらいと思うが、このようなケースでは(古宮医師は)どのようになさったのか?

 ■古宮=正直なところ、答えにくい質問だ。今の状況であれば「その時々」になると思う。コロナの感染が「問題」となっている状況であれば、少し強く言う必要もあるのかなと思う。

 ▼その一方で、その避難所の中でほとんどコロナの感染者がいないような場合には、コミュニティーのつながりの方が重要になると思う。ただ、実際に避難所の状況を見ていて思うのは、マスクをシッカリと付けておられる方が多いように感じる。

 □事務局=体温とか、日常の体調チェックについて「皆さん、気を付けて下さい」というような張り紙は、避難所の中に貼ってあるのか?

 ■古宮=大きな避難所では、医療班が見回っているので、避難者が医療者に相談しやすい環境が出来ていると思う。逆に、それが出来ていないような避難所では(避難者の体調チェックの確認は)難しいと思う。

 □事務局=避難所の炊き出しは、どのような状況なのか?

 ■古宮=これまでの状況を正直に言うと「貧弱」だと思った。例えば、ビニール袋に炊いたお米を入れて、まるめて皆さんに配って下さっているが「1日3食とも米だけという日が多い」とも聞いている。

 ▼ここ数日で、民間のボランティアの方々が炊き出しをやって下さりつつあって、日によっては「美味しいメニュー」が提供される日もあるようだ。

 □事務局=集団食中毒の話しも聞く。例えば、救援物資を頂いて「貴重なご飯」を現場の人がなかなか捨てられずに、それを食べた方がお腹をこわしてしまうケースもあるので、そのコントロールが今後、避難生活の中で難しくなってくるのかなと思う。

 ▽あと高齢者等、何らかのサポートが必要な方々は、避難所ではどのようにされているのか?

 ■古宮=高齢者に関しては、福祉避難所がある。ただし避難所の現場では、職員の人数の関係から、十分なケアを受けるのが難しい方が多くなってきているので、まだインフラが確保されている金沢市内の方に、高齢の避難者を移すことが行われている。

 □事務局=想像の話しだが、もし私(笠原医師)が避難所に赴いて「ノロウイルスの感染防止の指導をしてくれ」と言われたら──まずトイレが複数ある場合は、有症状者のトイレと、それ以外の方のトイレを分けるのが、どの指導書にも書いてあることだ。

 ▽この点は、実際に今回の避難所では行われているのか?

 ■古宮=下痢症状のある方とのトイレは、分ける指導は行われている。ただ、どうしても共用せざるを得ない場合は、排泄後の手指消毒などがキッチリと行われている。また有症状者には、簡易トイレがある場合には専用に使ってもらう等の対応をしている。

 □事務局=あと「嘔吐」と「下痢」は、本来は分けて指導した方が望ましいが、これは実際の現場ではどのように対応されているのか?

 ■古宮=この点は、特に高齢者はトイレに駆け込むことができずに、その場で「嘔吐」してしまうケースが多いので、いわゆるエチケット袋をたくさん準備していて、そのような可能性のある方には、事前にお配りをしている。

 ▼あと、あちこちで聞かれたのが「ノロウイルスは、アルコール消毒は効かないのではないか?」だった。そもそも断水で水が出ない状況では「アルコールも許容範囲だ」とお答えした。

 □事務局=この動画の視聴者からの質問で「破傷風」に関する事項がある。特に津波災害では実際に被災者に起きているが「破傷風」の話しは現地ではないのか?

 ■古宮=私が知る範囲では、今回は「破傷風」の話しは伺っていない。東日本大震災の時は、たしか10名くらいの方が「破傷風」を発症されたという記憶がある。ただ、まだ潜伏期間もあるので、今後出てくるのかも知れない。

 ▼(「破傷風」は)震災発生の際に、ケガをされた方もおられるので今後、心配な疾病の一つだと思う。

 □事務局=今回は(「破傷風」の治療をするため)場所的に、すぐに患者を搬送するのも難しいと思うが…。

 ■古宮=今回は、緊急医療チームが接種されると聞いているが、ただし全般的に「薬品不足がある」と聞いたので、当初は(接種が)難しかった可能性はある。

 □事務局=(消毒用の)アルコールとかマスクとか、コロナが流行してからは一般的に皆さんのところに普及しているものについては(避難所でも)足りているのかなと思うが…。

 ■古宮=現場では「十分には行き届いていない」という声は聞いた。ただ、寄付をされた企業の方々の話しをお伺いすると、結構な量の物資が「移送されつつある」ということだった。

 ▼ただしロジスティクス(物流)の問題で、アクセスが難しい地域までは十分に行き届かない可能性はある。

 □事務局=実は、消毒薬を含まないウェットタオルが、避難所では「大変重宝した」との報告が、日本環境感染学会にはあるのだが……。

 ■古宮=ここ数日で、徐々に給水車も増えてきて、一部の避難所ではシャワーを浴びることが可能になったところもある。ちょうど私が訪れた時に、自衛隊の皆さんが入浴設備を設置されているところだったが、お風呂もだんだん利用できつつある。

 ▼ただ、利用者全体からすれば、それを利用できる方は限られているので、多くの方が「1週間以上、風呂に入れていない」ので、そのような方々は(消毒薬を含まないウェットタオルで)対応している状況があるので「体拭き」のための需要はあるようだ。

 ▼あと「おむつ拭き」にも使われているようで、このような使い方で清潔を保たれている方も多いようだ。

 □事務局=また(動画の視聴者からの)「そもそも、今回の地震以前に、災害に対する備えはされていたのか?」との質問もある。特に能登地方は去年も大きな地震があった。それはいかがか?

 ■古宮=「備えが十分であったか」は私にはわからないが、そもそも能登地方はこれまでも大きな地震が何度も発生しているので「防災意識が低かった」とは思わない。ただ、今回被災された地域は耐震性能に優れた、いわゆる「新しい家屋」ではなかった。

 ▼かなり年季の入った家屋が多かったので、これも災害の規模を大きくしてしまった要因の一つかも知れない。

 □事務局=視聴者から一番質問が多かったのは「トイレと水の問題」だ=画像・日本環境感染学会が配信した動画より。例えば「手指衛生をどうしているのか?」。特にノロウイルスの流行に関して「迅速診断検査」。今回は物資が十分に行き届いていないと思われる状況だが、この点はいかがか?

 ■古宮=ノロウイルスに限らず「迅速診断キッド(製品)」の数は限られていたと思うが、それでも被災地に入った医療チームは検査はキチンとされていた。ただノロウイルスに関しては、ごく一部のチームが検査を行っていた。

 ▼ノロウイルスに関しては(検査キッドの)感度の問題もあるし、例えば避難所で20人の下痢症状が確認されたとして(環境衛生上は)20人全てに対して検査をする必要性はない。

 ▼数名に検査して、そこでノロウイルスが検出されれば「他の方も、おそらくノロウイルスであろう」と判断する。要はその後の「アクション」に関わるという問題だ。ただ、呼吸器感染症の「迅速診断キッド」は──

 ▼インフルとかコロナ等で一般的になってきている。これらに関しては多くの医療チームで実施しているようだ。

 □事務局=コロナについては(検査キッドで)陽性になった方は別として、例えば家族の中に「濃厚接触者」に該当する方がおられる時は、いったん(避難所で居住していたエリアから)隔離されるのか?

 ■古宮=それは、避難所のキャパシティーの状況にもよる。避難所も(コロナ等の)症状がある方に対する備えは「ある程度」はされているが、例えばそれを上回るコロナとかインフルの感染者が発生した場合は「陽性者の隔離」だけで手一杯だ。

 ▼「接触者の対応までには、手がまわっていない」のが現状だと思う。

 □事務局=リソース(人的資源)が限られているので、できるところとできないところがあるのは仕方ないが、ここは日本環境感染学会の医療支援チームが活躍する場所かなと思う。

◇─[おわりに]───────────

 今回の記事でご紹介した動画は、発災から10日後の1月10日に収録されています。おそらくこれ以降、「停電」については徐々に解消されていったと思われますが、「断水」の復旧には全体的にまだ時間がかかるようです。

 そう考えると、古宮医師がここで報告している内容は、発災から約1ヶ月が経過した今でも「大きく改善された」とは考えにくい状況にあると推測されます。特に「トイレと水の問題」は、現在も最重要課題だと想像されます。

 望ましいのは、特に高齢者の皆さんにとっては、1.5次や2次の避難所への移動が進むことでしょうが、これも個々に様々な問題を抱え、政府が想定している状況には至っていないようです。

 高齢者が避難所で、感染症にかからないよう、不幸にしてかかってしまっても最小限度のダメージで回復に向かいますよう、古宮医師をはじめ日本環境感染学会の皆さんの「避難所での衛生面での指導」等が、スムーズに実践されることを祈念いたします。

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