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緊急連載・第1回「キチンと自分でご飯を食べ、自分で排泄できれば病院から帰宅できる」

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┌┌┌┌┌┌┌┌┌┌┌日本介護新聞┌┌┌┌┌┌┌┌┌┌┌
*****令和4年7月31日(日)第147号*****

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緊急連載・第1回「キチンと自分でご飯を食べ、自分で排泄できれば病院から帰宅できる」
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◇─[はじめに]─────────

 先月末(6月30日)に日本慢性期医療協会(日慢協)は武久洋三会長が退任し、新たに橋本康子会長が就任されました。これに伴い、武久前会長は名誉会長に就任されました。武久前会長は、平成20年4月に会長職に就任されて以来、約14年間にわたって会長職を努められました。

 弊紙「日本介護新聞」本紙は、平成31年4月8日に創刊しましたが、そのきっかけとなったのが、武久前会長との出会いでした。日慢協は現在も毎月、マスコミ向けに定例記者会見を開催していますが、弊紙発行人は平成26年12月に、初めて会見に出席しました。

 「歯に衣着せぬ」ということわざがありますが、武久前会長は、同じ医療業界に対して、特に急性期医療に対して「歯に衣着せぬ」発言を繰り返していました。また医療人でありながら「現在の医療は、介護と共に手を携えなければ成り立たない」等と主張していました。

 弊紙発行人は当時、サラリーマンとして介護業界の新聞記者を生業としていましたが、武久前会長の記者会見に出席するたびに「今の介護業界新聞の在り方は、何か違うのではないか?」との疑問を持つようになり、本紙の創刊を決意するに至りました。

 本紙からすれば、まさに「恩人」とも言える武久前会長が6月30日に、通常総会で退任された直後、日慢協は「武久洋三先生・会長ご退任記念講演会」を開催しました。弊紙はどうしても外せない事情があり、残念ながらその講演会を傍聴することができませんでした。

 その内容は後日、日慢協が運営する「日慢協BLOG」で公開されました。「良質な慢性期医療がなければ、日本の医療は成り立たない」というタイトルで、約1時間にわたり今後の慢性期医療の在り方を説いたそうです。

 そこで本紙では、この内容の中で読者の皆さんに参考になる部分を抜粋し、さらに弊紙がこれまで記者会見に出席して、武久前会長から直接お聞きした発言を補足して「緊急連載」として3回にまとめ、記事としてお届けすることにいたしました。

 本文では、医学的な専門用語も出てきますが、それを読み飛ばして頂いても、武久前会長が主張されようとしたことは、十分にご理解して頂けると思います。これまで本紙でも、何度か取り上げた内容が重複していますが、どうか最後までご一読頂ければ幸いです。

 日本介護新聞発行人

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 今回の「緊急連載」は、上記の「はじめに」で書いたように、日本慢性期医療協会が6月30日、第47回通常総会後に開催した「武久洋三先生・会長ご退任記念講演会」で、日慢協が「BLOG」に掲載した内容を、弊紙向けに抜粋して構成しています。

 元々は日慢協の会員向けの講演であるため、医学用語等がたびたび登場します。可能な限り本紙でも注釈を加えましたが、その部分は読み飛ばして頂いても十分、武久前会長の主張はご理解頂けると思います。どうか気軽にお読み頂ければ幸いです。

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「日本では、入院期間が短い急性期病床が、慢性期病床の3倍もある。これはおかしい」
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 本日は、私がやってきたことをできるだけご説明したいと思う。「良質な慢性期医療がなければ、日本の医療は成り立たない」。要するに「急性期医療だけでは、日本の医療は成立しないのだ」ということを、ずっと言い続けてきた。
 
 当会の名称は、2008年に変わった。それまでは「日本療養病床協会」という名前だったが「日本療養病床協会」という名前になるまでに3回変わっていた。何年かに一度変わるような会の名前はまずいだろうと思い「日本慢性期医療協会」に変えさせていただいた。

 私の目標は「一般病床」と「療養病床」の格差解消であった。療養病床ができたときに「療養病床になれない一般病床」がたくさんあった。4.3㎡しかない6人部屋の一般病床が多く、療養病床にはなれないが、入院患者さんはお年寄りばかりだった病院が多くあった。

 「そこをどうするか?」ということで、行政(厚労省等)も苦労したと思う。療養病床の評価の変遷だが、特例許可老人病棟の導入が1983年。療養病床群入院医療管理料の新設が1993年。療養病棟入院基本料の新設が2000年。

 このように、どんどん変わってきた。日本では、入院期間が短い急性期病床が約90万床。入院期間の長いところ(慢性期病床)が30万床。慢性期病床の3倍も急性期病床がある。これはおかしなことだ。

 思い出してほしい。かつて「その他病床」というのがあった。2003年8月末までに「その他の病床」を、一般病床と療養病床に分けた時に、病床面積6.4㎡以上、廊下幅2.7mをクリアできなかった病院は実質、慢性期の高齢患者がほとんどだった。

 それにもかかわらず「一般病床」としてしか届出ができなかった。そして狭いながらも、医師や看護師を少し多く配置した病床を「一般病床」とし、そこに入院している患者の状態が急性期であろうと慢性期であろうと「一般病床」として包含した。

 これにより、慢性期患者を中心とした医療病床を矮小化(わいしょうか=物事を小さくすること)した。結果的に、療養病床の3倍もの数の病床が「一般病床」とされた。しかも、厚労省が「一般病床=急性期病床」とみなしてきた。

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「かつての療養病床は、軽い人をずっと長く入院させておけば、差益が十分にあった」
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 このために、実態にそぐわない一般病床を有する病院がいわゆる「なんちゃって急性期」と呼ばれながらも、世の中を闊歩してきたのである。療養病床入院基本料に、医療区分が入ったのが2006年。

 これは麦谷眞里氏が(厚生労働省の)医療課長の時である。その後2014年に地域包括ケア病棟ができて、療養病棟における在宅復帰機能が評価された。慢性期医療への評価がどんどん変わってきて、2018年にはついに介護医療院が新設された。
 
 2006年(の診療報酬改定)は、かなりダイナミックな改定であった。医療区分2・3の患者を8割以上という要件をクリアしなければいけない。それまでは、軽い人をずっと長く入院させておけば差益が十分にあり、療養病床は楽々と運営できていた。

 そこで「これは、おかしいのではないか?」ということになった。当然のことである。2006年の改定を機に「社会的入院」と呼ばれても仕方ないような患者は、確かに療養病床から姿を消した。

 それまで、軽症の患者の紹介ばかり依頼していた療養病床の現場が、重症患者の紹介を依頼するようになり、重症患者を積極的に受け入れるようになった。まさに「麦谷ショック」である。

 療養病床を持つ病院経営者に対し、医療者としての良心を呼び起こす大きな役目を果たしたことは事実である。

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「私は『ぜひ、日本版のLTACを創設すべきとある』と訴え続けてきた」
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 2011年、私は岡田玲一郎先生と一緒に北米視察ツアーでアメリカの医療事情を学んだ。そこで目にしたのがLTAC(Long Term Acute Care=長期急性期)である。当時、アメリカで急激に増えだした病床で、平均在院日数25日の長期急性期機能を有する病床だった。

 アメリカでは、入院は5日間ぐらいの平均在院日数だが、このLTACでは約1ヶ月入院できるという。これを見て、私はぜひ日本版のLTACを創設すべきとあると訴え続けてきた。

 長期急性期(LTAC)の病院とは「複数の合併症を抱え、重篤で長期入院が必要な医学的に複雑な患者に専門性の高い、急性期ケアを提供する病院」であると、定義されている。

 長期急性期病院、入院リハビリ施設、スキルド・ナーシング・レジデンス施設、ポストアキュート(高度で、濃厚な急性期治療後の患者の、継続治療とリハビリテーションを行う)病棟など、いろいろある。

 日本とアメリカを比べてみると、アメリカのLTACは人工呼吸器離脱を目指す場合や、複雑な呼吸器疾患、創傷ケアなどの患者を受け入れる。病床機能区分を見ると、アメリカの高度急性期はSTAC、そして長期急性期のLTACがある。

 このLTACが現在の(日本の)地域包括ケア病棟になる。すなわち、地域包括ケア病棟はアメリカの「LTAC日本版」といえる。アメリカのLTACは、STACから一方通行の紹介患者を受け入れる。

 一方、日本のLTACは高度急性期病院から、そして在宅・介護施設等からの、慢性期急性増悪患者という、2方向から患者を受け入れる。当時、厚生労働省の保険局医療課長であった宇都宮啓氏と、課長補佐であった一戸和成氏が尽力した。

 両氏によって、2014年4月に地域包括ケア病棟が誕生した。地域包括ケア病棟の入院期間は最大2ヶ月で、リハビリ2単位と入院医療費が包括されている。「急性期治療後の患者の受入」「在宅患者の急変時受入」「在宅復帰支援」が主な機能である。

 アメリカのLTACと似たところがあるが、日本の地域包括ケア病棟のほうが、さらにレベルが上の状態である。急性期や在宅の患者の両方を引き受けるなど、3つの機能が求められている。

 地域包括ケア病棟で、初めて病床面積によって報酬に差をつけた。それまでは4.3㎡で、10人部屋の一般病床でも、広い6.4㎡で4人部屋の療養病床でも、入院費が同じであったが、病床面積によって報酬に差をつけた。

 私は、単位を取るための汲々としたリハビリではなく、20分未満の短時間リハビリや、集団リハビリなど「患者一人ひとりに合った、リハビリの提供」ができるように、出来高算定から包括算定への転換をずっと主張している。

 そして、2014年に新設された地域包括ケア病棟では、1日2単位リハビリ包括が実現した。あらゆる看護行為が全て入院基本料に包括されているのと同じように、リハビリテーションも当然、包括すべきである。

 2単位しかリハビリしない病院と、患者によっては4単位から6単位を行う病院では当然、その成果やアウトカム(病院などの医療機関での治療や検査を行い、その結果を評価して得られる、患者の状態の変化などのこと)に大きな差がつく。

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「キチンと自分でご飯を食べ、自分で排泄できること。これができれば家に帰れる」
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 それでは、何のリハビリから始めたらいいか? キチンと自分でご飯を食べ、自分で排泄できること。これができれば家に帰れる=画像・日慢協「BLOG」より。黄色のラインマーカーは、弊紙による加工。嚥下リハビリテーションと排泄リハビリテーションの2つを中心にやっていこうと考え、私は医学雑誌にも投稿させていただいた。

 何より優先すべきは、生きていくための人間的な基本能力である、摂食と排泄の機能改善リハビリテーションである。言語療法士による嚥下リハビリテーション。作業療法士による排泄リハビリテーション。

 (武久前会長が経営している病院等の)当グループでは、歯科衛生士を1病棟に1人以上配置して、歯科衛生士による口腔ケアを実施している。そこで、脳血管疾患による嚥下障害に対する、摂食嚥下訓練の効果を検証した。

 介入前は、50人のうち39人が経管栄養で、なんとか経口摂取ができたのが11人だったが1ヶ月後には、経口摂取が3倍になって、経管栄養の人は半分以下になった。やれば治る。脳神経の領域では「リハビリで良くならない」が定説だったが、キチンと良くなる。

 膀胱直腸障害についても改善が見られた。膀胱直腸障害に対するリハビリを実施したところ、日中のオムツ使用率は開始時4割であったが、終了時には1割となった。夜間のオムツ使用率は開始時7割であったが、終了時には3割となった。

 「実際に、やればできる」と言っていたら、2016年度(診療報酬)改定で「排尿自立指導料」が新設された。同指導料は週1回200点だったが、2020年度改定で「排尿自立支援加算」として12週まで算定可能となった。

 このように、排泄と摂食について診療報酬でカバーしてくれるようになった。2014年度改定では「経口摂取回復促進加算」が185点。月1回6ヶ月限りだったが、2022年度改定では「摂食嚥下機能回復体制加算」が210点・190点・120点と3段階になった。

 また管理栄養士など、いろいろなものに対する評価をつけていただいた。このように、摂食嚥下機能の回復に向けた取り組みが評価されている。加算がついたから実践するのではなく、患者にとってよいと思われることはどんどん行って実績を示していく。

 それを国に追認してもらって、加算をつけてもらうという姿勢が必要だと思う。「硬直化したリハビリテーション体制」を「自由なリハビリテーション提供体制」に変えるべきである。

 私はかねてより、リハビリテーションは「主に、回復期に行うことではない」ことや「出来高ではなく、入院費に包括されるべきである」こと。そして「量ではなく、質で評価すべきである」と主張してきているが、まだ十分に改革されていない。

 残念ながら、疾患別リハビリテーション料というのができている。回復期リハビリテーション病棟では患者1人につき1日9単位まで出来高で認められているが、脳血管障害のリハビリが2,450円で一番高い。

 リハビリ中に、心臓が止まるかもわからないような心大血管リハのほうが400円も安い。同じ20分間で同じようにリハビリをして、これだけの差があるのは何のためか? 考えてもいまだに全くわからない。

 【以下、緊急連載・第2回「基準看護だけでなく『基準介護』『基準リハビリ』を新設するべきだ」に続く】

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