“集客”しようとして、僕は溺れた。
元SMAPの木村拓哉が “キムタク” という呼び名を嫌ったように、僕は “集客” という言葉がきらいだ。なんだか人が記号のように扱われている気がして。
その “集客” 。
およそ三年前、自営業をはじめた当初から「苦戦するだろうな」と思っていた。
お客さんに集まってもらう。そのためには営業や宣伝が必要になる。
自営業なのだから、自分でやるしかない。
そのことは分かっていた。
でも、営業や宣伝へのイメージがどうもよくない。
なぜか携帯にかかってくる興味のない不動産の話。
いきなり家にやってくる新興宗教の勧誘。
テレビや動画をいいところで中断させるコマーシャル。
寒空の下、誰にも受け取ってもらえないビラ配り。
好感を得ようとするためだけの笑顔と態度。
自分の都合で人を操作すること。
お金しか見ずに人とかかわること。
来られるのも、断るのもしんどい。
駆け引き、偽善、演技、迷惑、空しさ……。
中学生の妄想みたいだけれど、そんなイメージが営業や宣伝にあった。
それをしなければならないのは、悪魔に魂を売るような感じがした。
だから、すぐに手を打った。
本を買ってたくさん読んだ。高額の教材も買った。
うまくいっている知人にも相談した。
「ブロック」というものがあるのだと知った。
感情に囚われないことが大事らしいと知った。
いい気分でいればうまくいくかもしれないと思った。
「フロントエンド・バックエンド」とか「デザインにこだわるな」とか「何かを否定して文章を書け」とか「事業を一つに絞れ」とか「コピペでいい」とか、それ以外にもいろんなことを言われた。
課題はわかっているし、これだけ「集客アップの秘訣」が宣伝されているのだから、すぐに解決できる。
あまり自分を信用せず、言われたことをそのままやってみよう。
手あたり次第やってみれば、どれかは当たる。
当初はそう考えていた。
でも、うまくいかなかった。
自分の考えで動いていない分、とにかく人の反応に一喜一憂した。
そして、断られること、うまくいかないことに落ち込んだ。
いつも不安が募った。
本を読んだり誰かに話したりすると、その時だけは楽になるけれど、また元に戻った。
自分はあまりに無力で、なにかにすがりたかったが、なににつかまっても滑り落ちていく。それは、無間地獄のように思えた。
うまくいっている人たちに比べて、自分には迷いが多いように思えた。
他の人は気にせずやれていることに、いちいち引っかかっている気がした。
聞いたアドバイスの多くが続かなかったり、そもそもやりたくなかった。
不要なこだわりだと思いつつ、いやなものはいやだった。
他の人はもっと鈍感なのだ、と思ってみても、気休めにはならなかった。
それでもやるしかないとやってみると、奥歯で砂を咬んだような嫌な後味が残った。
「効かねえじゃねえか」と教材の販売者を罵りたくなった日もある。
でも「あなたがやらないからでしょう」と反論されることを思うと意気消沈した。
埋めようとしても埋まらない。
状況はよくなるどころか悪化している。
慌てふためいているが、出口は見えない。
いま思い返しても痛々しいな、と思う。
それは「苦戦」などという生易しいものではなかった。
僕は自分の内と外の情報に溺れていた。
実態としては、文章を書いてSNS上で公開する。
それに反応があったりなかったりする。それだけだ。
だからこの三年間、営業や宣伝、あるいは “集客” に手をつけたときの苦しさは、すべて自分のイメージの中にあったのだと思う。自作自演の独り相撲として。
どうしたら人が来てくれるのか。それはいまでもわからない。
来てくれるときもあるし、そうでないときもある。
傾向なんてあるのかしらと思う。
「集客アップの秘訣」は、手を変え品を変え、メールでもフェイスブックでもひっきりなしに広告されているから、たぶん僕がポンコツなのだろう。
でも、以前のようにつらくはなくなった。
不安や無力感にさいなまれることもない。
ついた傷をかきむしるように苦しむこともない。
僕はどうも溺れることに慣れたらしい。
そのかわり、必死にもなれなくなった。
したいことは、関心が合う人とよい時間を過ごしたい。それだけだ。
せっかく生きているのだから、限られた時間によい思い出をつくりたい。
それがこんなにも苦しいことになってしまうのには、やはりどこか狂ったところがあるように思うのだけれど、それが僕のひがみなのかすら、僕には判断できない。
ただ、「面白いことしようぜ」と言ってメンバーを募るのは、それほどテクニカルなことではないような気がする。
思い出ってそういうのとはそぐわないし、テクニックに釣られて集まりたい人なんか誰もいないと思うので。
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