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18歳の愛猫の死と推しの話①

2021/11/14

実家の猫が虹の橋を渡った。
18歳。
名前は「むさし」だけどみんなむーちゃんと呼んでいた。
13日大阪で開催されたHICOライブ後大阪から東京まで夜行バス、到着朝6時半。
そして新幹線で乗り継いで秋田の実家に到着した頃には11時半だった。
ご飯を食べなくなって15日、水しか飲まなくなって7日、そして昨日から水も飲まなくなったらしい。

家に着いてすぐ様子を見に行った。
洗面台の床にずっといる。
冷たくて暗いところがいいのか、小屋だったり、店のマッサージ機の裏だったりにいるのはここ最近のビデオ通話で度々見ていた。
死期を悟った猫がそういうところを好むのは本当なんだと思った。

着いてすぐには私が話しかけるとまだ鳴いたり動いたりしてて、でも体温はすごく低くなってた。
お母さんは「もうがんばんなくていいよ」としきりに話しかけていた。
様子をしばらく見て13時10分、呼吸はゆっくりで寝返りの補助は必要そうだったけど安定していたので、お母さんが「今のうちに髪の毛切って染めよう」と言って隣の店に移動した。
私は声をかけると絶対泣いてしまうし、話しかけたら、それをしてしまったら終わりな気持ちがしたのでただ黙って見ていた。
ただただそぞろにツイッターを見て気を紛らわせていた。

髪をやってもらってる合間合間にお母さんが見に行って話しかけていた。
わたしは夜行バスでの疲れがきて、眠くてうとうとしていた。
髪を乾かして、乾かし終わったらちょっと一緒に寝ようかなみたいな風に考えていた。
ちょうどその時、再び様子を見に行ってたお母さんが「あ」と声を上げた。
そしてその後
「むーちゃん、いっちゃったぁ」と言った。
髪を乾かす手を止め、洗面台の方に向かって歩く。
さっき見てた時と同じポーズのまま、お腹の動きがなくなってた。
口の周りは水浸しになっていた。

その後はすぐに準備していた火葬場に連絡した。
キッチンのテーブルの上にはもうL版用紙に印刷されたむーちゃんの写真数枚と新しい写真立てが並べられていた。
本当にもう死んでしまったのか、触って確かめても肉球はまだ柔らかい。
お腹に手を当ててもまだ暖かく感じた。
だけれどすぐに、毛布に手を当てている時のように私自身の手の体温を感じているだけだと気づいた。
お母さんはかけた葬儀場の電話口の質問に仕切りに答えてる。死亡時間性別年齢体重名前
2kgを境に料金が変わるらしい。
むーちゃんの体重は1.8kgだった。
お母さんが携帯番号を聞かれた時に口籠っていた。
どうやら番号を忘れてしまったようだ。
冷静に答えてはいたけど気持ちはかなり揺れているようだった。
お母さんが番号を確認するために洗面台から出た後、いつもむーちゃんが寝てる時にやるようにお腹のところに耳を当ててみた。
いつものようにゴロゴロギュルギュルというお腹の消化しているような音が聴こえた。
本当に死んでしまったのかと思った。
もう一度反対の耳を当ててみても相変わらずグルグルという音が聴こえる。
思わず強く耳を押し当てた。
そしたら鼻からグゥといびきのような音をだした。
いつも私が寝てるむーちゃんを枕にした時によくそんなふうにいびきをかいていたので少し驚いて顔を見た。
だけど目は瞬きもしないし身体はピクリとも動かない。
そして何よりいつものグルグルとした音に混じって聴こえるドクドクと早い鼓動はいくら耳を澄ましても聴こえなかった。
本当に死んでしまったのだと思った。
スンと匂いを嗅いでみたら嗅いだことのない独特の匂いがした。
生理の時のような生臭い感じだった。

電話を繋いだまま洗面台に戻ってきたお母さんが「なるべく早いほうがありがたいんですけど」と言っていた。火葬予約の話をしていた。
電話口からは「今日の分はもう埋まってしまっていて、明日の朝9時半ならー。」
と聞こえた。
私は朝10時からは東京で出勤で、既に朝6時に出発する新幹線をとってしまっていた。
お母さんが私に目配せをした後、
「分かりました。じゃあその時間でお願いします。」と言って電話を切った。
そして私に
「まず、い(良い)、うん、仕方ねもの。生ぎてるうちに間に合って本当にいがった。(よかった)葬儀はお母さん行ぐから。」と言った。
私も頷いた。

身体を退けて口の周りの液体をペットシートで拭いている時に、あの独特の匂いは口から漏れ出た液体の匂いだということがわかった。
死の匂いが生命を生み出す過程としての生理、そして受精できずに終わり剥がれ落ちる子宮内膜の匂いと酷似しているのが皮肉だと思った。
同時に1日前に私自身に生理が来ていたことも相まってなんだか意味もなくやるせない気持ちになっていた。

完全に死後硬直する前に投げ出された四肢を尻尾と一緒に丸めてあげて、布団と一緒に段ボールの中に納めた。
「花買ってこねば(こないと)」と言って出かける準備をした。

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