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「黄昏世代の恋バナをしよう」

 続けて文芸春秋七月号の表記の記事からです。北方謙三氏と村山由佳さんの対談で、副題は、作家が本音で語り合った「不適切な恋」「大人の恋」。
 
 北方健三さんは今の日本作家を代表する大御所、1947年生まれ、私と同年だが、学年は1年下だから現在76歳。中央大学在学中から小説を書いており、評価は高かったが、暫くあまり売れず、高校教師の妻が支えていた。1980年ごろからハードボイルドに方向転換し、一躍人気作家となった。2000年から2023年まで直木賞の選考委員を務めているが、自身は直木賞を受賞していない。
 
 長編の歴史小説、全13巻の「三国志」、全19巻の「水滸伝」はただただ面白く、夢中で呼んだものだった。しかし、今思うと・・・・登場人物の性格、考えが分かり易く読みやすいが、反面、実際の人間はもっと複雑なはずと思うと現実感に欠ける。もっとも、北方氏自身も分かっていて書いているのだろう。
 
 村山由佳さんは、1964年生まれの60歳、今年還暦だ。立教大学卒業後、塾講師などを経て作家デビュー、2003年に「星々の舟」で直木賞を受賞しており、現代人気女性作家の一人だ。2度結婚し、2度離婚、現在は3度目の結婚をして軽井沢にすんでいる。
 
 対談は、大人の男女が軽いタッチで軽妙にやり取りし、なかなか面白い。
 
 冒頭部分・・・・
(村山)文学賞のパーティーでよくお目にかかりますよね。随分昔ですが、北方さんが私の胸を触って、担当者に後ろから羽交い絞めにされたこともありましたね。(笑)・・・・
(北方)深いスリットの入ったノースリーブのチャイナドレスを着て、長い手袋をしていた。てっきり知り合いの銀座の女性と思って、後ろから近づいてガバッとやったら、まさかの村山由佳だった。・・・・僕はこれまでオッパイで3回人生をしくじった。
 
 「情動をごまかす方が不適切」
 (村山)体で取材して元を取っているわけですね。・・・・今の時代、周りが口うるさいでしょ。・・・
 (北方)不適切があるなら「適切」もあるわけでしょう。私がしたことは、人間の情動としては適切なんです。・・・
 (村山)開き直る(笑)
 (北方)いや、情動をごまかす方が人間として不適切です。・・・今は不倫も犯罪のように報じられるけど、恋愛に不適切はない、ちょっと異常なセックスをしても犯罪ではない。
 
 「文章に書かないで書く」
 (北方)文章に書くと通俗的過ぎるから、想像させるのが一番いい。
 (村山)「ナプキン」という短編がとても好きだったんですけれど・・・久しぶりに食事をする女が「遊んで、二人ぎりぎりのところまで行こうよ」と誘う。最後にナプキンで口を拭うところが鮮やかで・・・・すごく素敵だった。
 (北方)その前の会話で、エッチになったら相当すごいことをすると、書いてあるからね。
 (村山)だって、拘束具の細い紐を持ってきているんですからね。・・・一人で顔を赤らめながら読みましたよ(笑)。
 (北方)文章に書かないで書く。省略すればするほどいい、という信念は確かにあります。
 
 「八千五百枚と十五枚の違い」
 (北方)・・・書くことが生きること、生きることが書くことですよ。
 (村山)でも書くだけの世界に生きているわけではないですよね。書くためには遊びもなさるし。
 (北方)書く以外のことは全て虚構だと思っていますよ。だからさっき話したような不適切なことは俺じゃなくて全部虚構がやっている。だから許されるのです。
 (村山)ずるい(笑)。今、危うく騙されそうになりました。
 
 「エッチは介護だ」
 (北方)俺の同級生の友達に恋人ができて、それが年上なの。どうやってセックスするのだと、酒を飲んだ時にきいたら、「普通にする」できない時は「二人で手を握ってねむるだけでいい」っていう。俺は出来なかったら、不適切だろうが、薬を飲もうと思うね。・・・
 (北方)俺は女の子とエッチするとき、若いころは「俺の言うとおりにしろ」と言っていた。それがだんだん「共同作業だ」になり、最近は「介護だからな」と言っている。
 (村山)オチとしてはいいけれど、あんまり希望がない気も(笑)。
 (北方)この年齢になったら、どこまでも臆面なく、「エッチは介護だ」って堂々と言えるくらい面の皮を厚くすればいいんだよ。介護だから死ぬまでだよ。
 
 最後の話は身につまされるが、成程と参考なった。

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