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人生に定年はない

 本社を東京から埼玉に移したので、大宮にマンションを借りてに住んでいた。出稼ぎだから、会社をリタイアしたら、普通は、横浜の家(今の別荘?)に戻ることになるが、それでは当たり前すぎて面白くない。
 
 横浜の家は30年ほど前にT電鉄が開発した分譲地で、略同じ広さの敷地に、同じような家が連なっている。分譲時の家族構成は若い夫婦と幼い子供が定番で、夫は東京に勤めるサラリーマンが多数派だ。家々の庭はそれなりに木が茂り、芝生が青い。
 
 30年余り経った今、サラリーマンの大半はリタイアし、子供は独立し、老夫婦だけの家が多い。道行く人を見ることは少なく、活気があるとは言えず、今の日本を象徴しているような街になっている。いずれにしても整いすぎた街には味が無い。
 
 3年ほど前、1年間住んだ日本橋人形町が面白かったので、サラリーマンをリタイアしたら当分は人形町に住んでもいいかなと、3週間ほど、マンションツアーをして、偶々、甘酒横丁から2筋入った比較的静かなところに、二人で住むに過不足のない、格好のマンションがみつかり、直ちに契約した。
 
 1月に引き渡され、取りあえずリフォーム工事をし、その後、時間をかけて気に入ったダイニングセットを選んで一件落着、一旦は偶に使う隠れ家にしていたが、半年後、大宮を引き上げて、その隠れ家に引っ越しした。埼玉の会社への通勤には、やや時間はかかるが、ラッシュと逆方向で空いているから朝夕の電車内は絶好の読書時間になった。
 
 人形町は都心のオフィス街でありながら、下町の風情を色濃く残し、気軽に普段着で外出できる。食べ物屋はいくらでもある。高級料亭から激安の中華、蕎麦屋まで幅が広い。京粕漬の「魚久」、肉の「今半」、「日山」、洋食の「芳味亭」など、よく知られた名店も多い。我馴染みの寿司店は安くて美味い。
 
 甘酒横丁から一筋入った裏通りには、木造の2階建てが並び、早朝には、お爺さんが、地域猫に朝食を与え、雀にパン屑を撒く。明治座が近いせいか、着物姿の女性をよく見かけるし、それなりの呉服屋さんもある。
 
 普段の買い物には数件のスーパーもあるし、日本橋三越の地下にはあらゆる食べ物がある。至近に4路線の地下鉄の駅があり、便利この上ない。銀座、築地、浅草、上野、神田などは10分以内、日々の散策場所にはことかかない。ボケ防止にもよさそうだ。人生に定年はないのだ。

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