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「心の悩みの現在地」

 またまた、文芸春秋二月号の話で些か恐縮だが、「心の悩みの現在地」と名付けられた養老孟司さんと東畑開人さんの対談が記載されている。
 
 養老氏は元来医師だが、世に知られているベストセラー「バカの壁」始め、一般向け著書を多く出している。私より10歳上だから既に87歳。東畑開人さんは、(私は知らなかったが)臨床心理士で精神分析の専門家、著作も多く世に知られた人。年齢は40過ぎだから、養老さんとは時代が違う。
 
 対談のテーマは心の悩み、養老氏は心を取り上げて論議することに疑問があるようで、対談としては噛み合っていないけれど、それが逆に面白い。
 
 養老氏は、文化や伝統、社会制度、言語、意識、心など人のあらゆる営みは脳という器官の構造に対応しているという「唯脳論」を提唱しているが、全くその通りと思う。心は、脳のどこか一部の物理的な動きで作り出されているもの、極端な話、ずっと将来・・・・量子物理学を突き詰めていけば、コンピューターで臨床心理士の代替が出来るようになるかもしれない。もっとも、それより先に人類が滅亡するだろうとは思うけれど。
 
 対談の終わりの方で、養老氏が述べるには、
・心に悩みが無いことは、あり得ないですよ。
・健康のためにも、多少は悩んで、苦労しているほうがいいんじゃないですか。
・根拠はないけれど、僕は極めて楽観的です。実験室のネズミは、まさに「温室育ち」で、生まれた時から天敵もおらず、水も餌探さずに生きていけるのですが、籠から脱走したら、一週間もすると完全に野生のネズミになるんです。
・守られた状態で育っても、籠を出れば、直ぐに野生の力を取り戻す。人間も同じですよ。だから悩みがある世界でも、人間は大丈夫です。
 
 自分に降りかかる諸々を、真剣には考えても、深刻にはなるのは無駄であり、疲れるだけ損なのだ。


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