本場のオレンジは食べた人間の嗜好を変える
果物の代表格のひとつであるオレンジに対して、あなたはどのようなイメージを抱いているだろうか。
私は、
・フルーツ盛り合わせでイチゴやぶどうたちと一緒に登場した時、最初に手をつけられる確率はゼロ。
・スイカやメロンやモモと違って持ってきた時に子どもから歓声が上がらない。
・栄養価が高くて安く大量に手に入るわりに人気はそれなり。
というイメージである。
ここまでは私個人の見解なのでオレンジ好きや生産者様は怒らないでほしい。
このように、私は正直なところオレンジを軽く見ていた。
だが、今はオレンジが好きだし一目おいている。
どうして評価が一変したかというと答えは単純で、旅行中にオレンジを食べておいしいと思ったからだ。
広島県・生口島を訪れた。レモンやみかんを始め柑橘系の生産が盛んな島だ。
お寺にお接待のオレンジがあった。私はお遍路ではなくただの観光客だ。これを食べていいのだろうか。
よく分からなかったが、このあたりのお寺をまわっていることに変わりなかったし「ご自由に」と書いてあったので一個もらった。
厚い皮をむくと、とたんに柑橘系の甘酸っぱい香りがただよった。
よく目をこらすと、皮を少しはがすたびに、香りをふくむ水が細かい霧のようになって辺りにただよっていたのだった。
当然私はオレンジを何度も食べたことがあるが、こんなに濃厚な香りをかいだことはなかった。
口にふくむと、薄皮にふくまれた水分が香りとともに洪水のようにあふれ出てきた。
はっきりいって甘みは少なく、酸味と渋みを強く感じた。
ただ、決してトゲのある味ではない。
自分はもいだばかりの生きている実を咀嚼しているのだなあ、という生命力にあふれた健康的な味と風味だった。
たぶん、お接待としてお寺に山盛りになっているということは、そこまで高いオレンジではないのだと思う。
だけど、柑橘系の栽培に力を入れている土地で、しかももいだばかりのオレンジだったので、普段食べているものよりは数段、オレンジ本来の良さが出ているものだったのだろう。
私はこんなにおいしいオレンジを食べたことがなかったが、それ以来、ごく普通のオレンジを食べても妙においしく感じるようになった。
恐らく、いいオレンジを食べてオレンジ本来のおいしさや香りを知ったからだと思う。
上手く言語化することが難しいが、そこらのスーパーで買った安いオレンジを食べても、そのオレンジの香りや味から、かつて感じた「オレンジのおいしいポイント」を上手く見つけられるようになったのだ。
本当においしい食べ物は、時に食べた人間の嗜好を変えてしまうのである。
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