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「東京カレンダー」に見るデジタルブランディング成功の10の秘訣(前編)

デジタルでブランディングを成功させるにはどうしたらいいか?

BtoCの有形プロダクトをつくる事業会社(特にメーカー)のマーケッターさんが、このように悩まれる声はまだまだ聴かれます。

また、BtoCのwebサービスなど無形プロダクトをつくる事業会社のマーケッターさんも、同じ部分で悩んでいる声を聴きます。

ただ、この2者の悩みは別ものです。

メーカー系:「消費者の声は現場や顧客調査で体感的にかなり分かっているけど、デジタルマーケティングが分からない…」

webサービス系:「ブランディングをしているつもりだけど、数字(特に直接紐づくロイヤルティ指標)が伸びない…なんでだろう…」

実際、web上でブランディングを成功させている事例は、まだ数多くはありません。

メーカー系は、顧客心理・視点の汲み取りは得意だが、それをデジタル上でどう展開するかの知見が足りないと感じている。

webサービス系は、数字を見てPDCAを回すのは得意だが、その背景にある顧客心理を洞察するという視点が足りないと感じている(方も、最近増えてきているように思います)。

しかし、見事にデジタル上でのブランディングを成功させ、集客や売上を増やしているwebサービスもあります。

今回は、その好事例といえる「東京カレンダー」をピックアップし、その成功要因をまとめたいと思います。

「東京カレンダー」とは?

「東京カレンダー」は2001年に創刊。東京のアッパー層をターゲットとした“グルメライフスタイル”誌です。

実際、(お高いけど)本当に美味しいお店を厳選して載せているので、グルメな方は必見!

最新号はこちら↓↓

2015年にはwebサイトの「東京カレンダーWEB」をリニューアルし、2016年にはアプリも開始。

webやアプリでは、グルメ情報、都会のアッパークラスの恋愛ストーリーを中心とした小説/エッセイ、動画コンテンツなどを掲載しています。

※「東京カレンダーWEB」トップページ

「東京カレンダー」の媒体資料の主要情報を見てみると…

※「東京カレンダーWEB」媒体資料より抜粋

当初の月間50万PVから、2019年には月間5,500万PV超規模にまで急成長110倍って、、、どんだけー!!

現在は「東京カレンダーWEB」の他に…
・リアルイベント「東カレNIGHT」
・ファンコミュニティ「東カレ倶楽部」
・恋愛マッチングアプリ「東カレデート」「東カレロマンス(40歳以上限定)」
・Tik Tokとのコラボコンテンツ「東カレTik Tok」
などなど、コンテンツを拡大し続けている東カレ。

その勢いは全くとどまるところを知らない、大躍進を続けているメディアです。

宣伝会議主催で今年6月に開催された「インターネット・マーケティングフォーラム2019」で菅野社長の講演を聴いたところ、

「東カレWEBの成功により、斜陽と言われている雑誌の部数も拡大を続け、売上も伸び続けている」そうです。

一体どんなブランディングにより、ファンを獲得し、売上を増加し続けているのでしょうか。

「東京カレンダー」デジタルブランディング成功の10の秘訣(まず5つ)

上記の菅野社長の講演内容と、私が実際に東カレWEBをユーザーとして見て感じたことをふまえ、まとめています。

①マスを狙わずニッチ層を狙う
東カレのターゲットは「都会で暮らすアッパー層の男女」。
特に東カレWEBは、サイトのUIやコンテンツ内容がとても“ぎらぎら”していて、クセがあるというか、尖っています。

菅野社長は「強烈に嫌われるということは強烈に好かれるということ」と講演で話していましたが、これはまさに成功するブランディングのやり方。

マスを狙いに行くと「誰のためのプロダクトか分からない」ぼやっとしたものになってしまいますが、あえてターゲットを絞って強烈な個性、世界観を打ち出すことで、熱狂的なファンを生み出すことに成功したのだといえます。

また、東カレの場合は“共感する”アッパー層(=ブランドターゲット)だけでなく、そのライフスタイルに“憧れる”一つ下の意識(情報感度)高い層(=セールスターゲット)もうまく取り込んだため、ユーザーが爆伸びしたのでしょう。

②世界観が一貫している
東カレは、全てのコンテンツを菅野社長がプロデューサー的に監修しているため、世界観にブレがありません。

東カレweb、東カレNIGHT(リアルイベント)、東カレデート、東カレ倶楽部など…全てのコンテンツのトンマナやコンセプトが一致しており、さらにそれが(ぎらぎらと)尖っているため、ユーザーに強い印象を残すことができるのです。

③whyを大切にしている
菅野社長曰く、「東カレは、whatやhowではなくwhyを大切にしている」そうです。

これは、私の事業戦略・マーケティングのバイブルの一つである「ストーリーとしての競争戦略」にも、事業戦略を立てる中で1番大切なこととして挙げられていたことです。

「why(なぜやるか)」。

what(何をやるか)やhow(どうやってやるか)はあくまで手段で、whyこそが目的であり、ユーザーにとっての提供価値になると。だからここを考えぬくことが事業上最も大切だということです。

④雑誌とwebの役割分担がうまい
東カレには雑誌とwebがありますが、世界観が微妙に異なっています。

雑誌はラグジュアリーなイメージでブランディングをしており、長澤まさみ、新垣結衣、吉岡里帆、中村アンといった旬の女優さんたちを表紙に迎え、レストランや料理の紹介とともに、彼女たちとのデートのひとときを取材しています。

その他のお店コンテンツも、上質な都会でのライフスタイルを綺麗な写真や描写で演出しています。

一方、webではそうした雑誌のコンテンツももちろん掲載していますが、PVを多く獲得しているのは、雑誌にはない都会アッパー層の恋愛ドラマ小説やエッセイ。

また、ここ1~2年で完全内製化で力を入れている動画も話題で、新しいユーザーを呼び込んでいる要因でしょう。

これらのwebコンテンツは、東カレが大切にする「都会のアッパー層のライフスタイル」を軸に置きながらも、どこかユーモラス、シュール、ぎらぎらしすぎて突っ込みたくなる(?)要素が満載で、洗練された雑誌とは一味違った個性を醸しまくっています。

アッパー層ターゲットとはいうものの、先に述べたちょっと感度の高い一般層が共感するコンテンツ(特に20~30代の”恋愛あるある”話)が満載なので、恋愛や結婚でお悩みを抱える男女は、必見間違いなしです。笑

⑤便益性の高い「プラットフォーム」としてではなく「メディアそのものの世界観」が愛されている
私は、東カレはこれを実現している稀有なwebメディアだと感じます。(他に北欧暮らしの道具店や、MERYもその好事例かなと思います)

例えば、Amazonやメルカリは、「便益」(しくみ)が非常に優れていて、たくさんのユーザーに使われているんですよね。

Amazonはプライム会員なら翌日届くし、音楽や映画のコンテンツも使い放題。

メルカリはCtoCでの取引が楽で、匿名配送もできる。最近はメルペイも連携してポイントをコンビニなどでも使えるようになっています。

でもこれらはもしかしたら、もっと便利なサービスができた時、デジタルイノベーションが起きてしまった時…他のサービスに取って代わられる可能性もあります。(UberやAirbnbが業界を変えてしまったように…)

一方東カレWEBは、特にUI/UXが優れているとか、便益性が高いわけではありません。

でも、このメディアが打ち出す世界観や情報にユーザーは魅了され、そのコンテンツを見たい、使いたい、体験したいとハマり始め、リアルイベントが競争率10倍になったりしてしまうのです。

おそらく他のメディアが表層のコンテンツだけ真似したり、似たようなプラットフォームをつくったり、東カレより便益性を高めたりしても、ここまでファンマーケティングがつくりこまれた東カレに匹敵することは中々難しいのではないかと感じます。

所感ですが、ブランディングが大切とされるアパレルや化粧品と似たファンマーケティング構造が成り立っているのではないかと思います。

使用している素材(コンテンツテーマ)はさほど変わらないとしても、その切り方(内容)やブランド世界観(デザインやトンマナ)をファンは愛しているため、便益性の差だけでは容易にスイッチしないというわけです。

後編へ続く

書いているうちに長くなってしまったので、残り5つの要素は後半へと続きます。(割と毎度のこと…学ばないわたし…)

前編で取り上げた成功要因は、デジタルにおける特殊なブランディングというよりは、デジタル上でもマスマーケティングで大切にされているブランディングをしっかり行った結果のものだなと私は解釈しています。

デジタルでここを根気強く追うのって難しいです…。すぐに結果が数字として出るものではないので、数字の出やすい施策にどうしても傾きがちになってしまうからです。

後編は、主にマーケティング的な要因について書いていきたいと思います!

後編はこちら)



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