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どこやねん、チーズ

トイレに行こうとしてトイレのドアノブに手をかけようとした時、後ろから小走りに近づく音がする。
スリッパのカスッカスッって音がしだいに大きくなる。

振り向くと間髪入れずに

「アタシ(トイレ)行くよ!」
と横はいりされる。

うちの実母だ。

もう呆れるしかないそのハンパない
堂々さと圧に負けて、気づけば退いているわたし。

わたしは夫の住む関西と高齢実母がひとりで暮らす四国を数ヶ月ごとに移動する二重生活をしている。

コトが終わったのか、水洗のジャーっの音が聞こえてきた。
スッキリ感満載でドアからでてきた母に尋ねる。

「何で横はいり?」
とふてくされ気味に聞くと

「アタシゃ、もう3日も出てなかったんや!」

と答えになっているんか、なっていないんかわからない答えが返ってくる。

誰かをおしのけトイレに入ると出るもんが出るゆうんかいな。
そのおしのけてやったぜという快感がウンコデルゾホルモンの放出を促するとでも?

いつから出るもんが出てないかなんて聞いてない。人の便通に興味はない。てか、それよりその前に「ごめん、先に(トイレ)行かせて」
「ごめん」が大事なわけで。

そうかとおもゃぁ、
母のために朝食を作って、鮮やかイエローのスクランブルエッグとこんがり焼いたウインナーを並べていると

「アタシ、今日は食べんよ!」
と、かん高い声が耳元をはしる。

《はぁ?前もって言ってくれ!》
と、わたしの胸中でわたしは拳をふりあげる。

いや前もって言うとか言わんの前に
「ごめん」のひとことがあるかないかが問題なわけで。

「ごめんくらいあってもええんやないの?」
と至極真っ当なことを言ったとて、

急いどんのや!急いでいるのだ!

と何故か怒る。
何故に怒られなあかんねん。

いや、忙しいとか急いでいるとかそんなこたぁは聞いてない。
そうやって毎回、答えになっているんかなっていないんかわからない答えが返ってくる。

どうしても「ごめん」はいいたくないらしい。

「ごめん」の言葉を回避すべく瞬時に生み出す論点ズラシの答え。
こりゃもう一種の特技といえるだろう。

いやもう母のことは
まあ、いいわ。

[(こういう)自己中理解不能人に悩むことは自分の人生という貴重な時間を無駄にする。そんなのもったいないよ。]

とインスタリールで優しく語りかけらた。
なのでほっとく。

それしかない。

そんなことに負けずわたしはわたしで徳を積めば、きっと神さまは見てくれる。

はず。

来世のためにとどこかでみたドラマ
(ブラッシュアップライフ)
のごとく小さな徳をめざすんだ。
よっしゃ。

ある日、100均店の王、セリアのサッカー台(代金支払い済みの商品を袋詰めする台)に、ちょこんと忘れさられたタグ付きの筆記用具。誰かが袋詰めの際に入れ忘れたんだろう。
店員さんに報告。
当たり前っちゃ当たり前の行動だが、
これも小さな徳。

我の善意精神に酔いしれた。

そしてわたしは後日、買い物をするため車でスーパーに行った。
そこで買ったはずの「雪印とろけるスライスチーズ」をなくす。
レシートには買った痕跡が記されているにもかかわらず、ない。
どこにもない!
冷蔵庫に無意識にいれたのか?
いや、ない。
これはサッカー台に忘れたんだわ!
しかーし、前にセリアのサッカー台で徳を積んだ(かなり大袈裟)からきっと優しい誰かが、わたしの「雪印とろけるスライスチーズ」をみつけてくれるわ。
あのチーズは店員さんの元でしずかにわたしに引き取られるのを待っているの。

そう信じていた。

さっそくお店に電話した。
が、そんな届け出はないという。

なんやねん。ええこと良いことしても我が身にはかえらんのかい!
ムカっ。
と小さすぎる自分の器に恥することもどこへやら、
ただただ、チーズ、チーズ、どこやねん。
チーズよ〜。と唱えている。

しかし人間の忘却機能とはたいしたもんだ、チーズの存在も、あれほどチーズ、チーズと唱えたチーズに対する思いも全く皆無状態になった。
数週間後、
車の中に乗り込んだわたしは異様な空間に眉をひそめた。


んっ?

なんか臭い?

昔、兄が若い時、日本中を歩いて旅をしていた時の長期風呂に入らなかった人間の匂いがする。

長期風呂に入っていないお兄おにいのことがあたまをよぎる。お兄おにいももう若くはない。もしやお兄おにいになんかあったんか!


ちゃう。

チーズだ。

見るも無惨に潰れて封も開いていた。

チーズがお座布団のしたでお座布団化していた。

この暑さで腐敗した。

お兄おにいの匂いはチーズの匂い。

わたしの徳よ。
わたしの身にはかえらず、なおもこんな匂い責めに合うとは。

徳よ。 
徳とはなんぞ。

しかしこれはきっといいことが倍返しで来る前触れだ。無理やりそうおもいながら

寝た。

その日の夜の夢が笑う。

チーズでできた布団で寝ながら、チーズ布団を食べるているではないか。
やっぱり食べたかったんやな。

スライスチーズと、とろけるチーズと
ピンク色した苺果汁入りのチーズのパッチワーク。
かわいいお布団だった。

雪印さんのサイトより引用

いっぱいあるなぁ…
うまそうだなぁ。

でも苺果汁入りはなさそうだ。

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