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Sushi Burritoって何か知ってますか?

25年以上前にアメリカに上陸してから、かなり長いこと私はアメリカ(人)が発明した巻きスシを食べなかった。いわゆる、カリフォルニアロールとその仲間達、である。

私にとって、お鮨というのは神聖なものだった。スーパーでお刺身を買ってきて家で手巻き寿司を作ることすら、神聖なものを汚すような居心地の悪さがあった。東京の大学で4年間過ごし、就職して、自分のお給料で築地のお鮨屋さんに行った。鮨ネタの種類もろくに知らなかった私が「ハマチ」を頼んだら、板前さんに「ネェちゃん、うちはハマチなんていう養殖ネタは出さないんだよ」と言われ、すごく恥ずかしくなり縮こまってしまった。

あれは、バブル期に稼ぎまくっていた傲慢な板前のいじわる、だったと思う。

味のタンパクな白身魚から始めて、赤身は最後に。貝とか牡蠣とか甘エビをどのタイミングで食べるのか、イカやタコはどうするのか毎度迷った。いまだにわかるようなわからないような有様である。貝は好きなのと嫌いなのがあるが嫌いな方が多い。大好物は青い魚で、ウニや牡蠣は生臭ければ生臭いほどいい。帆立貝は生で食べると必ずお腹を壊す。でも、板前はもう怖い存在で、おまかせで、出てくる順番に食べることしかできなくなってしまった。

それどころか、ご覧の通り、私はいまだに、すし、スシ、寿司、鮨の使い分けができない。そもそも違いがあるのかどうか、いくら調べてもわからない。

アメリカに来て、マンハッタンに住んでいた時、近所の日本食レストランの板前のオヤジと仲良くなり、カウンターで食べながら色々教えてもらえると思えるくらいになったので、ある日、食べる順番を聞くと、

「そんなの、好きなのから食べればいいんだよ」

と大声で笑った。「でも....」と、築地の意地悪板前の話をすると、呆れたように首を大きく振った。

注。「日本食レストラン」という表現はアメリカに住む日本人がよく使う。こちらではJapanese restaurantというのは、基本「スシ屋」のことなので、お寿司だけじゃなくて、カツカレーとかうどんとか冷やし中華なんかが食べられるレストランを探すときは、日本語で、日本食レストラン、とタイプして検索する。

5年くらいして、マンハッタンの外に家を買って引っ越し、近所に行きつけの日本食レストランができた。マンハッタンの高級鮨屋はやっぱり正統派だったが、郊外のとなると、アメリカで生まれたSushi Rollのオンパレードである。

メニューを紹介しよう。ちなみに、この品目名はアメリカ全国の寿司屋で統一されているわけではない。

Spider Roll - ソフトシェルクラブ、とびこ、アボカド、きゅうり
Rainbow Roll - アボカド、きゅうり、カニかま、マグロ、はまち、鮭
Spicy Battera - バッテラ風押し寿司。マグロと鮭の上に、辛いとびこ
Spicy Girl - 辛いマグロ、辛いハマチ、辛い鮭の上に、とびこ
Dragon Roll - ウナギとマグロの上に、アボカド

私は食べたことないが、こんなのも。

Yellow Cab Roll - 辛いカニかま、辛いマグロの上に、マンゴー
Silvia Roll - 辛いカニかま、鮭の上に、辛いマヨネーズと天かす

想像つかないのも無理はない。形態は巻物だけれど、必ずしも海苔で巻かれているわけではなく、とびこが全体にまぶしてあったり、アボカドのスライスが上にのっていたりする。ここまでいろんなものが一緒くたになってる場合、それぞれの味を楽しむのではなく、全部が口の中で混ざり合ってどうよ?ってな食べ方になる。

この、全部一緒くた、で食べるという概念を受け入れるのに、何年もかかったわけである。だって、私にとってお鮨は神聖なものだったから。

でも思い切って食べてみたら、コレがなかなかイケた。こういうロールに使われているマグロや鮭は、薄くスライスして海苔の代わりに中身を巻くようにのっているか、すり身になってていわゆるネギトロみたいな形態。それに「辛い」何かが混ざってSpicy TunaとかSpicy Salmonとかに変身することもある。かの万能辛いソースである Siracha かもしれない。

こうなってくると、もう旧態概念の「スシ」だと思わずに食べるのがいい。スシだと思うから、日本人として居心地が悪くなり、こんな風にしやがってと腹が立ってくる。

そして、ある日、Sushi Burritoなるものがメニューに登場した。

Sushi Burrito?! 

Burritoとは、メキシコ料理。Wikiで日本語で出てきたけれど、日本でも食べられますか?肉と米とレタスとチーズとサワークリームとサルサなんかを小麦粉のトルティーヤで「巻いた」非常に食べがいのある一品。

上の写真が、Sushi Burrito、である。Spicy Tuna(すり潰したマグロがちょっと辛い)、アボカド、レタス、カニかま、きゅうり、天かす、とびこがご飯に巻かれて、海苔に巻かれている。崩れやすいので、白い紙がさらに巻いてあって、それをめくりながら食べる。

ロールをスシだと思わずに食べれるようになった私は、どれ、と早速注文。

うぉ、うまいっ!

Spicy Tunaの柔らかさと、とびこのプチプチと、天かすのサクサク、きゅうりのシャキシャキというありとあらゆる食感が、一口で一度に味わえる。見事である。

日本食は、日本の外で思いもかけない変化を遂げていますぜ。






ただただ好きで書いています。書いてお金をもらうようになったら、純粋に好きで書くのとは違ってくるのでしょうか。