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父、信男(のぶお)は少し変。

もう実家を離れて10年以上が経ち、地元に帰るのも2年に1回帰れば良い方といった感じになってしまった。

高校時代は田舎の子供の8割が抱く訳の分からない東京への憧れから早く上京したいと思っていたし、いざ上京してみて今になってもあるのは、たまの地元への懐古くらいで、なんだったら田舎の閉塞的な空気なんかは嫌悪してすらいる。

まあそんなことはどうでもいいのだが。

うちは両親と、男四人兄弟で、僕はその兄弟の三番目にあたる。男四人兄弟なんかむさ苦しさの極致だ。嫌だ。ジャングルで暮らす方がまだマシだ。
祖母が亡くなって以降、家庭にいる女性は母親一人で、この環境の話をすると女友達は口を揃えて『お母さん可哀想…』という。やかましい。


ここで言っておくと、掲題の通り、これはうちの父はちょっと変、という話だ。父、信男(のぶお)の話だ。うちは次男を除いて兄弟みんな親のことを名前で呼ぶ。
父は信男(のぶお)だし、母は房子(ふさこ)だ。
最初にそれを始めてしまったのは小学生時代の僕なので、今になって思うと少し親には申し訳ないことをしたなと思う。

『もし結婚することになって、結婚式で今更お父さんとかお母さんとか言えねえよ…』と思っていたが、結婚してないしする気配も見込みもないので輪をかけて申し訳ない。ごめんね。てへ。いや、まじですみません、ほんと、申し訳ない。笑って許して和田アキ子。

家族で僕にLINEを送ってくるのは弟か信男くらいのもので、特に信男は友人のような関係で育ってきてしまったせいで、ことあるごとに連絡をくれる。

そんな中、この情勢下、LINEが届いた。

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これを、狙わずに本気で言ってくるのが信男の怖いところだ。何も疑問に思っていないことだろう。恐ろしい。


中学時代のこと、両親ともにそれなりに頭がよく、信男は理系科目に強く、房子は文系科目に強かったのでよく勉強で質問をしていた。
その時僕は意味がわからない英単語があったが、房子の手が空いておらず仕方なく信男に『different(異なった)の意味は?』と尋ねた。

信男は自信をもって『象だ!象!』と言った。


それは『elephant(エレファント)』だ。何を言ってやがる。それくらいは中学生の僕でもわかる。

あるときジャンプで『瑪羅門の家族』という漫画が連載していた。
その漫画で登場人物たちは『聖なる力(ルビ:チャクラ)』という力を使っていたが、信男はずっと『チャクなる力』と読んでいた。


そんな訳のわからない力はない。

僕が小学校の時、実家の前で僕は交通事故に遭った。車に撥ねられたのだ。
朦朧とする中、救急車が呼ばれ、近所の人たちがやじ馬で集まってきた。
房子は僕に駆け寄り、信男は僕だと気付かずにやじ馬に混ざっていた。
その場で房子にキレられたらしい。
僕は奇跡的に無傷だった。もう何に驚いていいのかわからない。

そんな信男だが、僕を気にしてかちょくちょくお酒や食べ物を送ってくれる。
そのお礼のLINEをした時のやりとりがこれだ。

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僕の下の名前は『将志』じゃなく『将史』だ。この歳になって親に名前を間違えられるとは思わなかった。

あと、確か僕が生まれた時に僕の名前を決めたのは信男だったはずだ。まじかこいつ。

そして彼女なんていないのをわかっていて言ってくるのでたちが悪い。

あと最後の『認知症』というボケはそろそろ笑えない年齢になってきたのでやめていただきたい。


そんな阿呆な父親だがどうやら人望はあるらしく、こっちが大人になるにつれ様々な方面から信男のすごい話を聞くたびに知っている信男のイメージと乖離しすぎていて大量の疑問符が中空を飛び交うのだ。
一体誰の話を聞かされているんだ。


また最近LINEが届いた。

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これはとても重大なLINEである。まず、まずだ、そもそも入院したことを聞かされていないのに退院報告をされても。

いや入院!?


後に歯を抜いただけだという意味のわからない返事がきた。


こんな親父ではあるがまあ変な心配はしたくないのでまだまだ元気でいて僕に酒を送ってもらいたいものである。

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