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背中にドロップキック

昔から悩みやすいたちだった。
人が気にしないようなことをうんうん、うんうん悩んであれもこれもすべてがぐちゃぐちゃになるくらいまで考えてしまう。
元来の性格や思考の癖みたいなものもあると思うのだが、特に高校生の時期はそれがひどかった。
夜寝る前に「なんであの子はあんなことを私にいったのかな。」
「あれってどういう意味なのかな。」「みんなもこういうこと考えるのかな。」「私だけがこんな風に考えてるのかな。」と思考のループにはまり気づけば寝ている。
そんな風にして朝を迎えることがたびたびあった。
消化不良のまま学校に行き、また新たな悩みが増えていく。
そんな高校時代を過ごしていた。

悩みやすい私には当時いつも一緒にいる、ある女の子がいた。
高校一年から二年に進級し同じクラスになった2つ後ろの席のA美だ。その子を教室で初めて見たときなぜだかわからないが「この子と友達になりたい!!!!」と強く思った。
どうにかしてA美と友達になりたかった私は一つの行動を起こした。

その日はクラスで一年間所属する委員会を決める日だった。
しかし、特別入りたい委員会がなかった私はぼーっと黒板を見ていた。
そうしたら後ろの席から「委員会何はいる?」と言う様な会話が聞こえてきた。
「あの子の声だ!!」とすぐに私は思った。話に耳を傾けていると「図書委員会入ろうかな」と言うA美の声が聞こえてきた。
A美と話していた子が席をたち私の背中越しに聞こえるおしゃべりはやんだ。
どうしよう。話しかけるなら今しかない。でも、無理だ…。
心臓が飛び出るのではないかと言うくらいばくばくと言っているのがわかる。
しかし、最後は勢いでえいや!と後ろを振り向いた。
二つ後ろの席のあの子に「い、委員会なにはいるの?」詰まりながらそういうと、
「図書委員はいろっかなって思ってる!」と笑顔で答えてくれた。
A美が私に「なにはいるの?」と聞き返してくれ、間髪入れずに「わたしも図書委員!」と自分でも驚くくらい大きな声でそう答えた。
「まじ!一緒にはいろ!」A美がはじけるような笑顔で答えてくれた。
その後は、黒板に自分たちの名前を書くまでずっと二人で話をしていた。中学時代のお互いのあだ名から始まり、話してみるとお互い本が好きなこと、共通の友人がいたこと、好きなアーティストなど共通点がたくさん見つかった。
黒板に名前を書き、無事図書委員に二人でなることが出き、週に1度の図書委員の仕事の日がとても楽しみだった。

しかしその当時、私は他のある女の子と行動を共にしていた。
なぜその子と一緒にいたかはわからないが、お互い特別仲のいい子がいないから一緒にいた。そんな程度の理由だったと思う。
ある日その子に彼氏が出来た。彼と何をした。こんなLINEをした。と言う様な話をことあるごとに聞かされた。
高校時代、私はまだ自分がレズビアンであることの確信が持てておらず何となく人と
自分は違うのではないかくらいの認識しかなかった。
しかし、そんなに仲良くもない女の子の会ったこともない、彼氏の話を聞くのが苦痛なことに変わりはない。
しかもその子はいわゆる下ネタもこっちのお構いなしに話してくるので、だんだん話を聞きたくないという気持ちが態度に出ていたのだと思う。
ある朝、部活が終わり自分の席に着くや否やいきなり「はい、お手紙~~!!」と
手紙をポンと渡された。
そこには「今日から他の子と行動を共にする」という様な内容がごく簡潔に書かれていた。
その短い手紙を読んだ瞬間、あれほど一緒にいる意味を見出せない相手でも、去って行かれるとこんな気持ちになるんだなと、なんだか力が抜けた。
それと同時に教室の端で大きな声を上げながら、両手を叩いて笑っているあの子の姿が目に入った。
これからどうしよう。不安な気持ちでいっぱいになりながら下を向いていると、
「何してんの。」そう言いながらA美が近づいてきた。
当時は委員会の日以外であまり話す機会がなかったため、声をかけられたことにとても驚いた。
私は今の状況を説明する良い言葉が見つからず渡された手紙をA美に見せた。
すると「ふーん、捨てられたんだ。じゃあわたしといればいいじゃん!」
それが最初に、私が食らった一発目の
ドロップキックだった。

その日を境に私にとってA美はクラスメイトから友達になった。
明るくさっぱりとした性格のA美はかっこよく、所属していた部活動に一生懸命取り組む素敵な女の子だった。
口が悪いのが玉に瑕だがそんなところも魅力の一部だった。
委員会はもちろん、出席番号も近かったことから掃除の場所や体育の選択科目
教室移動時やお昼休み、席順(席替えしても近くになることがなぜか多かった)とにかく何でも一緒だった。

よく人を励ますときや助言をする際に「背中を押す」と言うが、私の友達はそんな生ぬるいやり方はしない。
「背中にドロップキック」たとえるならそんな言葉がふさわしいと思う。
ぐずぐず悩んで背中を丸めてうつむいている私に彼女は助走を目一杯つけ颯爽と
ドロップキックをくらわす。

そうして、一歩、また一歩、もう一歩と
前につんのめるようにして、よろけながらも
私はいつの間にか足を動かしている。
顔から地面に倒れこみ、ふと目線を上げると信じられないくらい目の前は明るく広がっている。

呆然としている私に「ほら、いくよ。」とA美は何でもないように声をかけ
すたすたと先に歩いて行ってしまう。
慌ててその後に続いていくと、もう自分が何に悩んでどうしてそんなに思い詰めていたのかわからなくなっている。
そんな励まし方をするのが私の友達、A美だった。

その後も彼女に何度助けられたかわからない。
専門学生時代、カミングアウトをした日、初めて自分の本当に好きな人のことを話した日。挙げればきりがないくらい、彼女の言葉に救われてきた。
大人になった今でもあの頃の私のようにぐちゃぐちゃと悩んでしまう時、A美ならなんて言うだろう。そう考える。そうしていると悩みなんてどこかに行ってしまう。
今はお互い住んでいる場所も遠く1年に一回会えるかどうかという状況だ。
しかし、弱くて悩みやすい私が振り絞った小さな勇気はA美との出会いと言う、かけがえの
ない財産につながった。
当時、悩みながらも前に進む高校生の私に
大人の私は「ありがとう。」と心の底から
お礼を言いたい。

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