焚書

 泣いてしまうようなことだった、まるで少女のような私のこころは未だかたちを留めずに、だから涙さえも満足に取り合えない。けれども泣いてしまうようなことだった、未だに泣けてはいないけれど。きっかけは、よくあること、すれ違い、天秤にかける物事の片方に私がなったこと、そして、軽かったのが私の方だったというだけの話。もう良い大人なのだ、分かっている、いちいちそんなことで傷付いてはいられない、それが貴方の身を守るのであればそれで良かった、それでも納得出来た。納得して、あげられた。
―――でも、
貴方は最低の方法でそれを裏切ったのだ。私のことを愛していると言って、縋って、何よりも自分は悪くないのだと〝私に向かって〟弁護した。貴方が他の誰に弁明しようと良い、其処に嘘があったって良い、私のことを世紀の大悪党のように仕立て上げたって構わなかった。それでも、それだけはされたくなかったのだ、貴方が選んだことで私が傷付いたこと、それを貴方が自覚していないから許してくれと乞うたことに、私のこころはぱきん、と割れてしまったのだ。
 空に虹がかかっている。
 泣いてしまうようなことだった、それでも泣けなかった、少女のまま羽化出来ない私のこころは蛹にすらなれなくて、ただのぐちゃぐちゃの残骸で。貴方はそれを知らないまま生きている、幸福に生きている。それが美しく貴方にとって正しい未来であることは、納得している。貴方の人生に私は必要なく、きっとこれから私の人生にも貴方は必要なくなるのだろう。
 それでも、貴方のことを愛していたから。
 貴方の愛の痕跡を未だ、焚いてしまうことが出来ないでいる。

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