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【雑記】私的「歴史の勉強の仕方」論

1.はじめに

世の中には歴史に関する本が山のようにあります。その種類は本当に多岐にわたり、歴史の研究者によって書かれた専門的なものもあれば、歴史ライターの書いた読み物的要素の強いもの、小説家の書いたノンフィクションのようなフィクション、はたまた著者のイデオロギー色の強いプロパガンダ的なものまで、本当に様々です。今回は、これから歴史を勉強したい人向けに、私的な歴史の勉強の仕方を紹介したいと思います。

2.著者の選び方

まずは、本の選び方です。本を選ぶ際には、そもそも自分は何を目的に本を読みたいのかその本はその目的に叶った本なのか、といったことを見極めることが重要です。

もし、ただ単純に歴史を楽しみたいという目的であれば、一般向けの歴史の読み物や、歴史小説をお勧めします。わかりやすいですし、娯楽という観点からすると楽しく読めると思います。しかし、歴史を勉強したいのであれば、これらの書物はお勧めできません。というのも、歴史の読みのものや歴史小説の著者は、面白さや整合性を優先するために、史実を無視したり、脚色をしたり、あえて珍説を採用したりするからです

歴史小説の大家、司馬遼太郎(1923-1996)
作品は大河ドラマにもなり、日本人の歴史観(特に坂本龍馬の人物像)に大きな影響を与えたが、それらがすべて史実であるわけではない

歴史を勉強したい人にお勧めするのは、専門家の書いた本です。歴史の専門家とは、大学や研究機関に身を置く歴史の研究者のことです。専門家の方は史実を構築するために、自ら史料(その当時に書かれた文書のこと)にあたり、それらを批判的に検討していますから、信頼性は非常に高いです。

著者が歴史の専門家かどうかを判断するには、著者の経歴を見てみましょう。歴史の専門家であれば、大学院(ほとんどの場合博士)の課程を修了していたり、研究機関に勤めていたりしますが、もし学卒でそのまま企業勤めというような経歴であれば、歴史ライターという分類になるでしょう。

また、院卒で、〇〇大学教授などの肩書を持つ方でも、その方が歴史学の専門家であるかどうかが重要です。教育史や哲学史、憲法史など、その方の専門分野の歴史の本であれば問題ないですが、そういった方が歴史の通説を批判しているようであれば、注意して読む必要があります。

3.出版社の選び方

著者と並んで重要なのが、どの出版社から出された本なのか、です。著者が大勢いれば、出版社も山ほどあります。その中でも、歴史を専門的扱っている出版社とそうでないところがあります。

歴史を扱う大手といえば、岩波書店山川出版社です。一般書から専門書まで、質の高い書籍が出版されています。一般の方にお勧めなのは、赤い表紙が目印の岩波新書、小中学生から読める岩波ジュニア新書、100頁前後にまとめられているため読みやすい「世界史リブレット」「日本史リブレット」です。通史を学びたい人ならば、山川の「世界各国史」もおすすめです。

新書でいえば、中央公論社中公新書や、講談社講談社現代新書から歴史系書籍が多く出版されています。どちらも書店やネット通販で手に入りやすいです。講談社からは、他にも講談社学術文庫というシリーズがあり、こちらもアクセスしやすいです。もし文章ばかり読むのが大変ということであれば、河出書房新社から出版されている「ふくろうの本」シリーズは、写真や画像が多くイメージがつきやすいです。

これ以外にも、多くの出版社からも数多くの歴史系書籍が出版されています。大きな書店であれば、新書・専門書を分けてシリーズがまとめて置いてあり、アクセスしやすいかと思います。

4.本の読み方

どの本を読むのか、ということが決まったら、次は本の読み方です。歴史の本を読むうえで僕が注意しているのは、次の2点です。

第一に、なるべく新しい本を読むこと。どんな分野でもそうですが、新しい本ほど、最新の研究成果が反映されています。歴史も決して不変ではなく、新しい史料の発見や、新しい研究手法の導入、歴史観の変化によってけっこう学説が変わってきています。

例えば、小中学校の歴史の授業では、縄文時代狩猟採集が行われていて、貧しかったが平等な社会であった、という風に習ったかと思います。しかし、近年では縄文時代にも豆類などの栽培が行われていたことがわかり、また、三内丸山遺跡のような大きな集落の存在から、社会の階層化が進んでいたのではないか、という説が唱えられています。一昔前と現代の教科書を見比べるだけで、縄文時代に対する見方が大きく変化していることがわかります。

第二に、なるべく複数の書籍を読むこと。同じテーマを扱った歴史でも、著者によって見方は全然違ったりします。ひとつの著作だけでは、歴史の見方が固定化してしまう可能性があります。複数の著作を読むことで、複数の歴史の見方をしり、より柔軟な発想を持つことができます。

例えば、宗教史がわかりやすいかもしれません。ナザレスのイエスが実際にどのような人物であったかを論じる「史的イエス」論において、キリスト教徒である専門家の見解は、結局イエスはどのような人物かわからない、というような護教的なものになりがちです。しかし、これを信徒でない専門家が書かれると、違った切り口になります。イエスを民族独立を目指した革命家であったと論じた、イスラム教徒の宗教学者レザー・アスランの『イエス・キリストは実在したのか?』などは、その好例であると思います。

5.アウトプットしよう

最後に、歴史の本を読んだら、アウトプットすることが重要です。というのも、意外と読んだだけでは、本の内容を理解していない場合が多いです。書かれている内容はどういうことだったのか、事実関係はどうだったのか、誰が何をしてそうなったのか、など、自分でまとめてみることで、本当に内容を理解できたり、理解が深まったりします。

アウトプットの仕方は、ブログにまとめても、個人的なノートに書きとっても、知り合いに説明しても、なんでもよいです。ただし、そのまま書き写してしまうと意味がないので、3000字以内にまとめるとか、スライドショー〇枚にしてみるとか、20分以内で説明するとか、工夫をした方がよいかと思います。

また、まとめていくうちに、「読んだ本だけだと、ここのところがわからない!」というところが出てきます。そうした発見があったら、次にそれを詳しく扱った本を探してみましょう。次の読書につながっていきます。

6.おわりに

私的勉強の仕方論は以上です。書店に行くと専門書の隣に眉唾な本が並んでいたりして、ちょっと心配になったのでまとめてみました。これから歴史を学びたい人の一助になれば、幸いです。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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