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サボテン、家に帰る

民家の庭先やインテリアショップでよく見かける柱サボテンは外来種である。日本の気候に順応し、さも在来種を装っている雰囲気を漂わせているが生き抜く力強さを感じずにはいられない。

2020年7月、2年ぶりに西表島の旅行に際して夫からのおみやげリクエストは柱サボテンだった。

理由は新婚旅行で訪れた西表島での出来事だ。
宿泊していた民宿から程近い海岸を散歩していた時の事だ。砂浜と防風林の境い目に不自然に横たわる柱サボテンを発見した。周囲に同じサボテンは見当たらず、グッタリと砂浜に体をあずけている。
だいたい夫はこんな時に物知り博士っぷりを発揮する。柱サボテンは外来種で沖縄の自然界には存在しない、だから誰かが捨てたのではないかと言うのだ。

グッタリした柱サボテンをよく見ると横たわる柱の所々から小さなサボテンが空を見上げるように10cmほど育っているではないか。きちんと世代交代をして西表島で生き抜こうとしている。
外来種とはいえ、その力強とコロンとしてミニチュア感が満載の姿に心を奪われ、私は柱サボテンの一部を連れて帰ることにした。
植物は増えるから世話が大変になると夫にクギを刺されたが「数日は土に植えなくても生きて行けるから持って帰っても大丈夫だよ」と、サボテンプチ情報が飛び出す。
そうだ、夫もまんざらではない。
そうして、我が家に柱サボテンが仲間入りした。

しかし、別れは唐突に訪れる。
サボテンは1年後に腐った。
夫がサボテンは日光が当たった方が良いだろうとベランダに移動させたのだが、想定外の霜に南国育ちの外来種は息絶えた。
夫は私よりも植物の世話をする。夫のショックは想像以上に大きかった。
だから私が西表島に行くことになった時に、「何もいらないから、サボテンをよろしくお願いします。」と託されたというわけだ。

2020年夏、私は再びあの柱サボテンの元に向かったが、サボテンの捜索活動は難航する。
柱サボテンが見つからないのだ。記憶力は悪くないはずなのに、どこを探しても見つからない。
この2年で土に帰ってしまったのだろうか。旅行に集中しつつも、時々サボテンのことを思い出す。

見つからないまま時は過ぎ、とうとう最終日が来てしまった。民宿のベランダで歯磨きをしながら考える。
ベランダからはサボテンが横たわっていたはずの海が見えていた。

私は、はたと思い出す。
場所を間違えている。サボテンはもっともっと歩いた先の海岸線だ!
ビニール袋をガシッとつかみ、歯磨きも投げ出して民宿を飛び出した。
どんどん歩いてたどり着いたのは横たわる柱サボテンの前だった。2年前に比べて雑草が生い茂っていたが確かに2年前の柱サボテンだ。
私は興奮を隠せず、夫に電話をした

「あったよ!サボテン!!!」

あいにく留守電だったがそんなことはお構いなしに留守電に叫んだ。
その後の返信で夫は「見つかると思っていたよ」と冷静さを装っていたが、帰路についている私の携帯には「サボテンも一緒?」「サボテンは一緒ですか?」と何度となくLINEが届いた。

我が家に帰ってきたサボテンは今も元気だ。