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会津にゃん太郎交流会③

かつおぶしが我が家にあることは非常に珍しく、お好み焼きの日でもかつおぶしは踊らない。理由は使いきれないからだ。
しかし、その日に限って我が家にかつおぶしのミニパックがあった。
数日前に作った島らっきょうの塩漬けに添えるために買ったものだ。普段なら無いモノが、今は有って、それが、かつおぶしと言う不思議な縁を感じる。
今日、古民家にあのネコが来たらあげてみるかという軽い気持ちでポケットにかつおぶしパックをねじ込んで軽トラに乗り込んだ。

古民家の庭先にある畑で背比べでもしているのかと思うほど我先にと伸びる雑草を夢中でむしりとっていると、ネコは現れた。
ツンツンした足取りでこちらをチラ見して山の入り口に向かって歩くネコに、慌ててポケットに入れていたかつおぶしパックを見せる。
ガサガサとわざと音をたて、高々とパックを持った手を振りかざす。
ネコは一瞬立ち止まり、怪しげにこちらを見つめて動かない。

私は「ほらほら、かつぶし持ってきたよ。ほらほら。」とパックをパタパタさせるがネコの反応は薄い。
シビれをきたし、フライング気味でかつおぶしパックをペリッと開けるとふんわり香ばしい魚の香りが鼻をくすぐった。
するとネコの首が一瞬伸びた。
適当な皿にパラッとこんもりとかつおぶしを出すと、ネコは低い姿勢を保ちながら恐る恐るこちらに向かって歩き始める。
かつおぶしの匂いは強烈にネコを引きつける。
ペロッっと舐めたが最後、風で飛ばされたかつおぶしのかけらも逃がさないぞと言わんばかりの食べっぷりだった。

ネコの体と心は裏腹な様子で、かつおぶしを出してきたこの巨大な生き物に半信半疑が丸出し。
コイツは善か悪か、チラチラこちらを見ては私が少しでも動くとビクッっと体がこわばる。
すぐに逃げられるように、腰の位置は高め固定で緊張感を忘れるな、と何度となく自分に言い聞かせているようだった。

古民家があるこの集落は10件ほどの小さな集落である。そのほどんどが高齢者の1人暮らしだ。
ネコは立派な体格をしているし、山中で狩りをして食べるものには困らないかもしれない。おんぼろの空き家のすき間から出入りして、のこのことやってくるネズミをあざやかな身のこなしで仕留めているかもしれない。
いや、集落の家々を転々として、おいしいカリカリや缶詰めにありつけている可能性もある。それであれば、各家庭で好き勝手に名前を付けられて両手で余るくらいの名前は持っていてもおかしくはない。
私のネコ妄想がひとり歩きをしている間に、ネコはかつおぶしを完食し満足そうに前足を舐め、古民家の縁の下に入り込みペタリと寝そべった。
リラックス&アンニュイそのもので、さっきの疑心暗鬼と緊張感がウソのようだ。
おいしいかつぶしに春の日差しがネコの眠気を誘う。
タダでかつおぶしをもらって帰りずらくなったのか、もっと欲しいのサインなのか結局、私の畑仕事が終わるまでネコは縁の下にずっといて、寝たり、起きたりを繰り返しマイペースに時間を使っていた。
案外、律儀なネコかもしれない。
人間らしい一面が身近に感じてしまった。
ネコとの交流会が数日間続き、私はネコに名前を付けたくなった。
つづく