医者が老化した団体から足を洗う理由

僕は医者ですが、元々の専門分野である団体から脱退しました。

理由は3つあり、
団体の繰り広げる一向に成長しない活動、
会員のいい加減な知識、
団体上層部の新しい技術に対する無知
です。

医療業界以外でも、広くみられると思います。脱退は決別ではなく、そのレベルを自ら超える一歩です。他業界でも、参考になるのではと思います。

僕は放射線治療という専門でした。
がんを放射線を当てると、小さくなりやがて消失します。この効果を利用するものです。

放射線と、抗がん剤や手術を組み合わせたりして、治療成績を上げていくことが目標になります。

手術ができないがんの治療や、がんが進行した時の痛みや出血を止めたりもできます。

放射線治療医は、二つの学会に入ります。
そのうちの一つが放射線腫瘍学会という学会です。
この学会では、放射線治療を改良するための研究を発表しあったりします。

僕は毎年全ての研究の発表を読んでいます。
その結果、この学会を辞めることにしました。

3つ理由があります。

1つ目の理由は、
進歩がない、です。

何人かの医者をサンプルとして、5年前に遡って比べてみると、おんなじようなレベルのことをやっていました。

おんなじようなことというのは、専門用語で言うと、新規性がないと言い換えられます。

実際には、新しい治療は特殊な調査研究(ランダム化比較試験と言われます)で、効果を立証します。ですが、その後、みんなが「やってみた結果!」と言ったYouTubeのサムネのようなものばかりやり出します。

全体的に、レベルが上がらず、開拓されていないんです。

原因は、毎年の学会で発表することが儀式化しているんだと思います。

2つ目の理由は、
基本的な知識に乏しい、です。

何の知識かというと、統計学という数学の知識です。

例えば、10億人のデータを全てインプットして頭で比較することはできませんから、平均値などの数字で代表させることで、たくさんのデータを処理できます。

この処理の仕方を統計学という学問を用いて行います。
正しく理解して使うことで、多数の人間への治療の効果が、個人差を超えて浮き彫りになってきます。

ただ、数学の一領域で、理解するには少々難解な部分もあります。正しく用いないと、結論が変わってしまうのです。

なのに、
明らかに理解していないと思われる発表ばかりです。
自分の言いたい結論に合うように曲解していたりします。

懺悔ですが、僕も先輩に言われた通りに鵜呑みで作った発表がありました。

不勉強な周りに惑わされず、しっかり勉強して、正しい方法を使わなかった自分が悪いです。とても後悔しました。汚点です。

※詳しくは以下を参照ください。
https://amzn.asia/d/6Qcign9

https://www.youtube.com/watch?v=vz9cZnB1d1c

三つ目は、
新しい技術についていけていない、です。

放射線領域では、データを扱うことが多いため、AIが進出してくる分野ですが、
団体を総括する(年齢が)上の方達は、基本的な知識をわかっていないようです。

別の機会に詳しく述べますが、きっかけは、2年前に招聘した外部講師の講演でした。

近年の生成AIによって、存在しない患者を自動生成して、別のAIを訓練するためのデータにするベンチャー企業の社長でした。
(自分のことを天才と言ってた点も、僕のデタラメセンサーが反応しました)

僕は受け入れられません。
架空の患者を作ったら、現実世界とかけ離れたものを人工的に作ってしまうかもしれず、どんな危険があるか予測できないと考えています。

AIと人間の能力の違いの根幹を問うような議題に対して、
時代についていってない自分たちにとって、一見わかりやすいことを言っている目立った人を連れてきたようです。

以上のような経験から、足を洗うことに決めました。

このレベルの内容に触れていると、自分も進歩がなくなってしまいます。

他の業界の方も同じような経験をされているかもしれません。
硬直した集まりの中では、同じようなことを知っている人が同じような話しかしないので、常識から突破できなくなりがちです。

このような世界から距離をとることで、発想が広がり、
たくさんの技術や幅広い知識を使って問題解決する方向にマインドが変わりました。

辞めてよかったなと思っています!