病院経営でやらかす叩き上げの医者


医者としての能力と、経営は全然別の能力が要求されると思います。

病院でうまく出世してしまうと、年取ってから経営を監督する立場にいきなりなっちゃったりします。

同じ世界にしかいなかった人が、50代とか60代になって全然違う仕事をするのは無理ゲーです。できていたらそれまでにその違う仕事でも結果を残しているはずです。

実際の事例ですが、病院のある診療科の経営が傾き始めた事例です。

そこは放射線治療科という診療科で、放射線をがんに当てて病変を小さくするという治療を行なっています。

患者は、一般の内科のように電話で予約をとってくるわけではなく、がんを受けた診療科から、病院内で紹介されてきます。

つまり、肺癌の患者さんは、呼吸器科に行きますが、呼吸器科で手術が難しく、放射線治療をするべきだとなると、放射線治療科で予約をとって受診することになります。呼吸器科が判断して専門部署に患者を振るような感じですね。その部署が放射線治療科という構図です。

何が起こったのかというと、だんだん、患者が減り始めたのです。

患者が減り始めると、月々の売り上げが減ってしまいます。

売り上げが減ってしまうと、収支が悪化しますよね。

高額の治療機器を購入しており、購入金額を償却しないといけません。

そこで、診療科科長(民間企業でいうと部長のようなもの)が経営にテコ入れしようとし始めました。

患者を集めるべく、周りの病院や医療系の民間企業に診療科の一部を招待して、見学してもらうことにしました。
つまり宣伝です。

部署内の数十人のスタッフを動員して、飲食も振る舞って、来院者に説明をして、積極的なプロモーションに出ました。

医療機関としては異例ですね。通常は入れないですから。

来院者は、設備について関心して帰っていきました。

そもそも、思いつきでやった施策でしたが、
結局、それらの施設から増えた患者はゼロ人でした。

ちなみに、人件費を入れると、数時間で、少なくとも数十万円くらいかかっています。

宣伝広告の効果指標としてROASというものがあります。広告費用対効果を示す指標ですね。

宣伝経由で獲得した売り上げ/宣伝費用 %ですが、

本ケースでは0%です。終わっています、金と時間をドブに捨てています。

どうしてこんなことが起こったのでしょうか。

最初に話した通り、他の部署から患者が流れてくるシステムになっているので、患者の数が減ったのは、他の部署に原因があるはずです。(こちらで拒否することは原則ありません)

なぜ減ったのか原因を明らかにしないまま、安易に金をかけてしまいました。
結局、なぜ原因なのかはわからずじまいでした。
こんな基本的な分析もしないで、意思決定などできるはずがありませんね。
(僕が直接見ていた数年間は経営は上向かなかったようです)

売り上げが上がらないから、闇雲にインスタ広告を打つ経営者みたいなもんです。

ピーターの法則というのがあります。
https://www.murc.jp/library/terms/ha/the-peter-principle/
(無能な上司がたくさんいるはずの日本のシンクタンクがこれを紹介しているのは皮肉でしょうか)

人は出世するとどんどん要求される能力が変わり、その能力の限界まで出世するが、限界なわけだから無能化するという現象のことです。

だから、上司に無能が多くなるという説明になります。

ただ、不幸なのは、一番上まで出世=その人の限界だったパターンです。最悪ですね。

途中で無能になるなら、その上は優秀な人がいるかもしれないからまだマシです。

本ケースでは、集客(病院では集患と言います)や宣伝のノウハウなどやったこともない人間が、トップについて思いつきでやってしまったわけです。

いくら患者に優しくて、人間的に素晴らしくて、優れた治療法を開発しても、何十年も積極的に勉強も経験もしてこなかった課題に対して、うまく立ち回れるほど、世の中は甘くありません。
(うまくできるのであれば、至るまでに片鱗が見えているはずです。)

要求されている能力が違うからです。

要求されている能力と異なる指標で人を引き立ててはいけません。